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マネジメントシステム改善のポイント

【連載:効果的な運用事例 上尾中央総合病院社様 [ISO9001] 】

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【連載:効果的な運用事例 上尾中央総合病院社様 [ISO9001] 】

ガバナンスを効かせるツールとして
ISOの「文書管理」に着目


取材先:
医療法人社団愛友会 上尾中央総合病院
院長                 徳永 英吉 様
文書管理課 課長 土屋 晃一 様       *所属役職等は取材当時のものです。


医療法人社団愛友会 上尾中央総合病院

「医療制度構造改革」など、医療を取り巻く環境が大きく変化し、いかに質の高い医療サービスを提供していくかが問われている。そうしたなか、院長のトップダウンのもと、ISO9001の運用を含め、さまざまな取り組みを実施し、理念である「高度な医療で愛し愛される病院」を目指しているのが上尾中央総合病院だ。1964年に上尾市立上尾病院を引き継ぐ形で誕生して以来、地域に密着した医療を展開。現在、内科など44の診療科を抱え、総病床数は733床(うち感染症病床9床)と、地域の中核医療を担っている。
院長の徳永英吉氏と、文書管理課課長の土屋晃一氏に、病院においてISOを運用する意義などについてうかがった。

上尾中央総合病院

院長  徳永英吉氏

医療法人社団愛友会上尾中央総合病院の概要

所在地 埼玉県上尾市柏座1-10-10
設立(開設日) 1964年12月1日
職員数 常勤職員 1,928人(常勤医師216人) (2018年2月28日現在)
事業内容 医療サービス(外来・入院)および保健サービス(人間ドック・健康診断、労働衛生教育)の計画および提供

登録情報

2005年12月14日 ISO9001登録
2017年10月   ISO9001:2015 認証更新

きっかけと現在の運用状況
認証取得当初から「ISO」とは意識しないでスタート

上尾中央総合病院の初回登録日は2005年。運用歴は12年以上におよぶ。

「現在、“ISOに特化した部分”は見えなくなりました。言い換えれば『ISOだから』ということはなくなったと思います」と、認証取得当初から尽力してきた文書管理課課長の土屋晃一氏はいう。同病院にとって、ISOはすでに定着しているといっていいだろう。

「定着したというよりも、最初からISOだからやらなければならない、というかたちでは進めていきませんでした」

そう話すのは院長の徳永英吉氏だ。

「内容についても、当初から厳しいことを要求はせず、毎年、少しずつレベルを高くしていきました。ISOという言葉も使っていませんし、意識もしていません。単にガバナンスを強化させるアイテムの1つなのです」と、徳永氏は同病院におけるISOの位置づけを説明する

内部監査についても、あくまでも「複数ある内部監査の1つ」(徳永氏)だという。同病院では、さまざまな委員会ごとに21の監査チームが動いており、土屋氏は「毎月、監査がない月がないくらい。視点を変えて実施しています」と、その充実ぶりを話す。もちろん、監査にあたっては、監査員に対し事前に質問項目を決めたり、どこをどう見るかという教育も実施したりしている。

「監査項目は他の内部監査とも重複していることもありますが、それらをあえてばらすことはしていません」(徳永氏)

その結果、監査を受ける側としては、複数回、同じようなことを回答することになるが、だからこそしっかりと統制がとれた組織となる。

ちなみに監査員は、ISOの内部監査については、ISO内部監査員養成講座を受講した職員でチームを組んでおり、他の監査については、各委員会メンバーが監査員となっている。

上尾中央総合病院
院長
徳永英吉氏

病院においてISO認証取得をする理由
「病院ガバナンス」のツールの1つとして運用

「ISO」とは意識せずに運用をつづけている上尾中央総合病院だが、そもそもなぜISOの認証取得を決めたのか。徳永氏はこう語る。

「私はかなり以前から、ずっと“病院ガバナンスとは何か”を追求していました。長く日本医療機能評価機構の仕事をしており、そこでも病院のガバナンスをどう構築していくか、チームを作って研究もしていました。あるとき、ISOで求められている細かい要求事項が、求められるべきガバナンスに合致していると気づいたので、取り入れることにしたのです。私は院内で目を配っているつもりですが、もちろん、すべてを細く見ることはできません。ISOは私の代わりにいろいろな部分をチェックできる。そんな意味合いで活用しています。

ただ徳永氏は、ISOはあくまで「ガバナンスのための1つのツール」と位置づける。というのも同病院では、ISO9001のほか、病院機能評価とプライバシーマークも取得しており、それらもガバナンス構築に活用しているからだ。

「これら3つは一度に動き始め、それぞれ1年ほどずらして受審してきました。3つとも表現も違いますし、言葉では明記されていませんが、根本的な考えはまったく同じ。つまり、ガバナンスを求めているわけです。それなら3つを一度に受審しようと考えたのです。」(徳永氏)

近年、各地の病院で医療事故が続発しているが、これはガバナンスの不備が背景にありそうだ。それで最近でこそ病院ガバナンスが注目されるようになってきているが、徳永氏はずっと以前から、その重要性と必要性に着目し、定義づけをし、行動してきたわけである。「日本一ガバナンスが効いている病院です。」と徳永氏が胸を張るのも当然かもしれない。

徳永氏にとっては病院ガバナンスのツールの1つであるISO。ではISOのどの部分に魅力を感じたのだろうか。

「一番の魅力は文書管理です。いわゆる刑事罰が下るような国家法について書かれたハードローといわれる文書に対し、院内でつくる文書は、マニュアルや職業倫理規定などのソフトローです。そのソフトローを整備していかないと、ガバナンスは構築できません。そして整備した文書に対する適切な管理が必要です。」と文書管理の重要性を指摘し、こうつづける。

「文書は必ず皆で作成します。その皆でつくったものを皆で守ろう、ということがガバナンスです。これはわれわれの定義ですが、ガバナンスというのはそうあるべきだと思っています。」

ISOではルールを表に表し徹底することが求められるため、まずルールを明確にして、明文化(文書化)することが必要だ。そして、作成された文書は、改ざん防止など適切に管理しなくてはならない。そうしたことをしっかりやることが、結果としてガバナンスに効いてくるということだ。

さらに徳永氏は「ソフトローは院内の内部監査でもチェックしていますが、それだけでは回しきれない部分もあります。そこをISOが補ってくれます。」と、第三者評価であることもISOのよさとしてあげる。

組織の変化
「文書の大切さ」を全職員が理解

12年以上、ISOを運用しつづけた最大の成果は、文書の大切さを職員全員が良く理解するようになったことだという。

「文書登録しないと、院内の正式な文書とならないという文化が根づきました。自分たちで勝手に作ることはないですし、作ったら文書登録してないとまずいのでは、ということが普通になってきました。」と徳永氏は組織の変化を話す。

ISO認証取得後には、病院では珍しい「文書管理課」をつくった。文書管理課では、診療およびISO9001における文書の管理と個人情報保護関連の職員教育を実施している。

文書は委員会で作成した場合、委員会での承認作業を経て、最後に院長が承認して文書登録される。部署のマニュアルなどその部門だけに関わる文書であれば、各部門長が承認して登録に回る。

「日本一しっかりしている。」(徳永氏)と自負するのが文書の改定履歴だ。

「どこがどう変わったか、一目でわかるようにしています。ただし、全面改定は通しません。変更点を抽出してまとめさせています。」と土屋氏。「改訂履歴」へのこだわりについて、徳永氏は次のように説明する。

「改訂するということは、何かが起きて問題となったため、どこかの委員会で検討して改訂しているわけです。つまり、どういう問題が起きたのか記録として残ります。これが重要です。改定履歴を見ればどういう問題が起きて、どう解決して改定したのか、一目瞭然です。」

上尾中央総合病院
文書管理課
課長 土屋晃一氏

上尾中央総合病院ではガバナンス構築に限らず、能力開発や能力評価などさまざまな側面で組織改革を進めてきた。いずれの改革もISO同様、「最初は簡単に、段階を踏んで徐々にしっかりと」というスタイルで、5年を1つのタームとして進めている。

たとえば2007年からは目標管理制度を導入した。当初の項目は3,4項目で、「この程度でいいのか」という声もあったが、徳永氏は「5年後にはここまでやるから、今年はこれでいい」とした。いまでは四半期ごとに、各病棟の診療、看護の責任者および各科外来、部署の責任者が集まり、各病棟のレビューを行っている。ちなみに目標管理の項目もISOの要求事項を参考にしている。

全職種に設けているラダー(個人が段階的に能力を発揮する仕組み)に関しても、同様に段階的に進めている。

「頑張れとお尻をたたいても、人は簡単に成長することは難しく、ただ頑張るのと、ちゃんと努力することは全く異なることです。先を照らして『自分たちは何をすればいいのか』をわかるように導いています」(徳永氏)

今後の課題と期待
病院現場に即したISOに期待

徳永氏自身、長年病院機能評価に携わり、評価者(サーベイ)教育も行ってきただけに、ISOの審査についての目も厳しい。審査員には表面的な視点ではなく、課題解決につながるような視点を求める。

「ものごとには『なぜそうなったか』『なぜそれが行われているか』根本的な要因が必ずあります。私たちは医療の現場にいることもあり、なぜそれが行われているかという部分を理解しながら、少しずつ変えていこうとしています。ですから、審査員にも表面的な事象を見るのではなく、『なぜそうなっているか』という視点で見てほしいと思います。」

一方、ISOに対して期待も寄せる。

「この4月以降、特定機能病院の承認要件として、第三者評価の受審が加わりました。ここでいう第三者評価とは、日本医療機能評価機構による病院機能評価、ISO9001、そしてアメリカに本部があるJCI(Joint Commission International)によるJCI認証です。このJCI認証については、これを取っていないとアメリカの保険を適用できないというものですが、じつは、日本の病院でも病院機能評価ではなく、特別感のあるJCIを受ける傾向がでてきています。

そこで私がISOに期待したいのはJCIに対抗できるような、医療の現場に即したISOを作ってほしいということです。特にISOは独自の用語が強すぎて、病院の現場と乖離した言葉が多すぎると感じます。病院職員はまず、そこが理解できません。私も職員に用語を解説するのが大変でした。言葉も含めて医療系に特化したものがあれば、認証取得の価値が大きくなるでしょう。」

土屋氏も「ISOも改訂を重ね、だいぶ企業に向いたものになってきたとは思いますが、今後、より企業や団体の実態に即したものになればいいと期待しています」という。

上尾中央総合病院が「日本一ガバナンスの効いた病院」であるのは、強力なリーダーシップのもと、ISOを含んださまざまな取り組みが推進されてきたからだといえるが、徳永氏は「これだけのものを作ってきたのは職員の皆」という。

「リーダーシップというのは、強く引っ張っていく力と思われていますが、それは誤解。私が引っ張ってきたわけでない。私はガバナンスがとれるような場所を構築することを一所懸命にしてきただけで、実際に動いたのは職員たちです。

たとえば委員会でも、必ずしも私の声が通るわけではなく、ほかの意見がいいと皆で決めれば、それが通ります。先にもお伝えしたように、その皆で決めたことを皆で守りましょうということがガバナンスなのです。そしてリーダーシップとは、組織の皆が考えるための場所と方法を提供すること。それが私のリーダーシップ論です。」

多くの診療科、地上13階建ての病棟、最新鋭の医療機器……「いい病院」というのは、そうした「目に見えること」だけではない。医療の質は当然だが、それを下支えしているのが、システムであり、ガバナンスだといえる。これらが整っている上尾中央総合病院は、選ばれる病院として、今後も地域に存在感を示し、地域医療に貢献していくに違いない。

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