SDGs取り組み事例:株式会社アイネス
300人参加のフルリモート式講師派遣型研修で社内へ浸透
取材先:株式会社アイネス
経営企画本部 経営企画部 広報企画課
課長 内藤 裕子 様(右)
中川 愛 様(左)
日本では「持続可能な開発目標」と呼ばれるSDGs( Sustainable Development Goals )は、2015年の国連サミットにおいて採択されたもので、17の目標とそれらを達成するための169のターゲットで構成されています。目標にはさまざまな社会課題が挙げられており、これらの課題を2030年までに解決するねらいがあります。日本の企業でもSDGsを経営目標のひとつとして取り組むケースが多くなっています。
今回、株式会社アイネス様に、SDGsへの本格的な取り組みに向けて、日本能率協会(JMA)の研修をご活用いただきました。そこで、SDGsへの取り組みや研修の感想などについてお聞きします。
1964年に設立された株式会社アイネス(本社:東京都中央区晴海 3-10-1 URL: https://www.ines.co.jp )は、システムインテグレーターとして、ITシステムの企画・コンサルティングから開発、システム稼働後の運用・保守、評価までの一貫したサービスと専門性の高いソリューションを提供する企業です。10の事業所、6つのグループ会社を擁しITシステム分野で専門性の高いサービスを提供しています。
SDGsと「社会にどう貢献していくか」問い続ける企業姿勢が一致
SDGsの導入に取り組んだ背景と目的を教えて下さい。
SDGsへの取り組みは世界中に広まっており、日本でも、例えばスマートシティやSociety 5.0といった社会的な課題解決に向けての具体的な動きと絡めた企業活動も出てきています。こうした状況の中で、アイネスが情報サービス分野のシステムインテグレーターとして、社会的な存在価値は何かを考えてみました。
すると、アイネスの企業理念に「豊かで安全安心な社会の創生」というフレーズがあり、「お客様とその先にある社会にどう貢献していくかを考える」という姿勢を目指していますが、まさにSDGsの理念と私どもの方向性が一致していることが分かったのです。
アイネスではもともと環境・サステナビリティ活動の一環として、「もったいない5R」(リユース、リデュース、リサイクル、リエンジニアリング、リレーションシップ)活動を展開してきており、例えばリレーションシップでは地域の清掃活動への参加や環境省が推奨するクールビズやウォームビズに賛同し実施しています。
今まで行ってきたさまざまな活動を踏まえた上で、新たにSDGsの視点を採り入れることで、経営計画の達成に向けた取り組み自体が、ステークホルダーの皆様の価値を高め、それが社員のやりがいを生み、ひいては企業としての持続的な成長につながっていくと考えました。
そこで、2019年度にスタートした「2021中期経営計画」にSDGsへの取り組みを盛り込む経営判断をしています。
SDGsを「浸透」させるためにフルリモート式で300人参加の講師派遣型研修を実施
SDGsへの取り組みにおける方針と組織内での展開方法について教えて下さい。
SDGsについて、まずは社内に浸透させることが重要だと考えました。社員全員が、SDGsについての基礎知識を習得するとともに、「なぜアイネスがSDGsに取り組むのか」、その意義を理解してもらうこと。そして、「方針や重点課題などについて何をしようとしているのか」を知ってもらうこと。これを中期経営計画に基づく今年度(2020年度)の目標に掲げています。
この目標を達成するために研修という手段を選ぶことにしました。まずはSDGsに対するトップの強い意志や覚悟を示して、それを経営層自身から管理職、そして一般社員へと、組織ピラミッドの上から下に落としていくイメージで、経営の意志や会社の取り組み姿勢を浸透させる、この一連の取り組みで研修を活用しています。
組織ピラミッドの最上段である経営層を対象とした「フェーズ1」のセッションはすでに実施していたので、日本能率協会(JMA)による研修は、部長クラスを対象とした「フェーズ2」研修を今年の6~7月に、続いて課長クラスを対象とした「フェーズ3」研修を8~9月にそれぞれ実施しました。今後は今期の終わりにかけて、一般職に伝えていく展開になります。
中川 愛 様
講師派遣型研修の中身について詳しくお願いします。
今回実施した研修の構成は、まずフェーズ2と3を合わせて約300人を対象にした大規模なものです。フェーズごとに一人当たり2回、各3時間のオンライン研修を実施しました。グループワークを中心にするため1回あたりの受講者数を40人程度に設定し、研修回数は合計で14回になりました。
なお、SDGsというテーマについて浸透を図る上では、紹介したような研修の形だけでなく、ボトムアップの仕組みも大切だと考えています。そこで社内報などを活用して、一般社員一人ひとりに向けて「SDGsとは何か」「アイネスが何をしようとしているのか」といった内容をダイレクトに伝えるインナーコミュニケーションも重視し採り入れています。
グループワークを通して「自分の言葉」でSDGsを語れるようになる
実際に研修を受けた感想をお聞かせください。
まず、研修を実際にはじめるまでのプロセスが大変でした。私ども経営企画部門は社内研修の担当は初めてで、SDGsという新たなテーマの研修を、プログラムを含めまさにゼロから作ることになったからです。
また、もともと対面式で行う計画でしたが、新型コロナウイルス対策で一つの会議室に大人数を集めることができなくなりフルリモート形式で開催することになりました。この準備段階ではプログラム開発などJMAにはいろいろと相談に乗ってもらい、構成や進め方など具体的な提案があり、大変助かりました。
受講者の感想については参加アンケートを見ると、8割強の方々から「有意義だった」と好印象の結果が得られています。また、研修に向けて事前にテキストが配られたので、「予習ができてよかった」いう声も多くありました。「グループワークの時間がもっとあれば、より深く考えることできた」という声もありましたが、これは今後の改善点であると同時に、グループワークでいろいろ考えてもらえた証だとも言えるでしょう。全体的な感想としては理解度が高く、好感を持ってもらえたようでうまくいったと思います。
講師派遣型研修の参加者アンケート
もちろん改善すべき点も出てきています。SDGsというテーマについて、内容の抽象度や概念の広さのために、実業務との紐付けの難しさを感じている方もいたようです。同時に、新しい切り口や視点から考え方を知って本業を見直す、自分の担当する事業やビジネスモデルを見直すきっかけになってよかったという感想もありました。
運営側としての感想は、毎回の研修終了後、私たちとJMA担当コンサルタントが一緒の振り返り・反省の場を設けて、研修の中身について意見を交換できて良かったと思っています。お互いに気付きもあり、回を重ねるごとに研修内容が洗練されていった印象があります。
また、心配していたリモートでのグループワークもそれなりに効果がありました。研修を受ける前は、参加者は「SDGsって何だろう」という気持ちで始めたようです。これがグループワークを通して、自分達の業務に絡めて考え、お互いに確認することができ、「こういう風にやりたい」「こういう風にしたらどうだろう」というようなことが自分の言葉として出てくるようになりました。
フルリモート式講師派遣型研修のグループワークにおけるZOOMを使ったPC画面。
この内容を参参加者全員で共有し意見を出し合いながら進めました。
JMAの担当講師からアイネス様の研修で素晴らしかった点として、「全員のITスキルが高くネットを活用できたことで、アウトプットの共有や整理を効率的に行えました」「研修の冒頭で執行役員の方がSDGsの考え方を自分の言葉で紹介しており、その内容が的確に伝わっていました」と聞いています。
自分のことばで語る――先ほども挙げましたが、このことが大切だと考えていたからです。各フェーズで研修冒頭に会社の考え方を説明する時間については意識して盛り込みました。研修の内容を自分のものとした上で、下のフェーズの受講者に説明するとなれば、より理解が深まると考えたのです。
「SDGsを自分ごととして考える」ことで事業との一体化が進む
研修の実施前後で、社内はどういった変化がありましたか?
まずは社内での浸透が進んだことでしょう。研修を受ける前は管理職であっても、SDGsは新聞では見かけるものの、アイネスの事業とどう関わるのかうまく説明できないことがあったようです。「事業とは直接関係のない、従来の型にはまった『環境・サステナビリティ』の発想の延長の取り組みでは?」といった認識です。こういった状況が変わり、「SDGsはアイネスの本業を伸ばしていくための戦略になる」という理解が広まっていると感じています。
また、KPIは従来から採り入れていましたが、以前は事業目標に対するものでした。これが「社会KPI」という広い視点で捉えるように変わりました。さらに、先ほどの研修の冒頭での説明のように、自社の事業部がなぜSDGsに取り組むのか、その意義や目標を自分の言葉で語れるようにもなっています。
実際、受講者からは、「今までは意識していなかった視点で業務を見ることができるようになった」「SDGsをより積極的に仕掛けるために、自分の会社の製品やサービスが必須であることが再確認できた」などとの声が寄せられています。SDGsについて、単に基礎的な知識を得るだけでなく、自身を含めアイネスが取り組む意義、組織としてのマテリアリティを理解する、約9割の人がこういった認識レベルまで達しており、研修の目的が達成されつつあると感じています。
フルリモート式講師派遣型研修では
「自分たちのマテリアリティについて具体的に考えていく時間」を多くとっています。
研修の最大のねらいである浸透が得られたことが分かりました。
例えば、アイネスでは社会貢献活動としてパラスポーツの日本代表チームに協賛しているのですが、これとSDGsとの違いは何か、というところから考えていく社員もいました。「お金を出せばなんとなく社会貢献しているような雰囲気があった」という発想から、「事業を通じて社会課題を解決する、持続可能な社会づくりに貢献していく意識付けができた」と変わったと言っており、まさに期待していた成果が得られています。
今回の浸透の次のステップとして、自分の業務がどのような社会課題を解決するのか、その役割を考えて、その上での目標設定を実際に考えていくことになるでしょう。「研修を通してSDGsを自分ごととして考えることができるようになった」という感想が結構あり、SDGsと事業との一体化の進行という点で、今後、具体的な成果につながることが期待できるのです。
JMA=SDGs経営やサステナビリティ経営を一緒に進めていくパートナー企業
日本能率協会(JMA)について感想をお願いします。
今回の研修を開催するにあたって、いくつもの研修会社の中からJMAを選ぶ決め手は、もともとISO 14001審査はJMAで受審しており、将来的にはその審査との連携の可能性を考えてみたいこと、また、研修専門部門が行っている企業のSDGs導入支援の実績、といったことも大きいです。
あと準備段階で、開催スケジュールがタイトな状況の中、頻繁にWeb会議を行い共通認識を得ることができました。研修を手伝ってもらう外部の専門会社というだけでなく、SDGs経営やサステナビリティ経営を一緒に進めていく、パートナー企業として非常に信頼できる組織といった感想を持っています。
どうもありがとうございます。最後に今後の取り組みについて教えて下さい。
今後の展開としては、現在は管理職層の研修が終わった段階なので、これからは一般社員に向けて研修を実施していきます。管理職向けはオンライン研修という形で行いましたが、一般社員向けにはeラーニングを新たに使う予定です。同時に、SDGsを簡単に理解できるカードゲームや、社内報なども活用して、さらに広く浸透を図っていく予定もあります。
取り組むべき喫緊の課題としては、アイネスの事業活動とSDGsとのより深い融合です。具体的には、事業がSDGsの課題解決に貢献するつながり、社会KPIの設定、そして社会課題の解決を意識した上でアウトサイド・インの思考での新規事業開発、といったことです。まだ組織として落とし込めているという段階ではないので、いろいろな取り組みが必要です。
そこで、次の新しい中期経営計画に向けて、サステナビリティ要素や、事業にもっと紐付けたSDGsの社会課題の解決などをどう組み込んでいくか検討することが必要だと思います。SDGsの目標を具体的な事業活動に落とし込んでいくことや、それに伴っての組織体制の整備・改善なども進めていく予定です。
研修の場で、自社ビジネスにおける可能性についてさまざまな意見があがってきた。
社会課題といえば、今回の新型コロナの影響がさまざまな場で出てきています。ビジネス環境という視点では、非接触や働き方をどうするのかといった課題が顕在化しています。システムインテグレーターという立場で、これらの課題をいかに解決していくか提案していくことがまさに求められているはずです。そのためには、社外とのコミュニケーションの量や質、相互性を一層充実させることも課題であると感じています。
「SDGsは当たり前」となる仕組みの導入を目指す
ご紹介した課題に取り組んでいくには、組織としての仕組みが欠かせないと考えています。SDGsに関連する取り組みは2030年以降も続くべきものです。アイネスを含め社会全体が持続的に発展していくためには、今年度この研修をして終わりではなく、継続して回し続けていけるような仕組み、ISO 14001のマネジメントシステムのような考え方を組織に組み込み、継続的に改善していくことが必要だと考えています。例えば、事業を通して社会課題を解決することにKPIを置いて、その達成状況を視覚化できるとやりがいにつながるはずです。
今、社内ではSDGsの浸透という目的もあって「続けられる仕組み」や「事業活動を通じた社会課題解決によって会社が持続的に成長する」ことを、意識的に考えてもらえるようになっています。次のステップとして無意識に根付いて毎年活動していくような、それが当たり前な雰囲気を醸成する、そのための取り組みもぜひ進めていきたいと考えています。
自分達のSDGsとして一層定着させることで、事業の展開においてさらなるステップにつなげていきたいと考えています。