SDGs取り組み事例:株式会社南海精工所
ISO14001の仕組みにSDGsを取り込む
ISO14001企業がSDGsに取り組む
EMSの経験を活用してSDGsを導入
取材先:株式会社南海精工所
代表取締役専務 渡辺 恵介 様
取締役 営業部GM 小川 順司 様
大阪府和泉市に本拠を置く株式会社南海精工所様は、1946年の創業以来、一貫して高品質なベアリングの開発・製造・販売を行っている、ベアリングのエキスパートです。「軸受の開発、設計、資材の調達、製造、販売を通じた全ての事業活動、製品及びサービスを通して地球環境保全活動を推進する」という環境行動方針を打ち出し、広い視野で地球環境の保全活動を推進しています。
この度、南海精工所様では、SDGsの取り組みに向けて日本能率協会のSDGsをテーマとした講師派遣研修を受講いただきました。そこで、同社の代表取締役専務 渡辺恵介 様と取締役営業部GM 小川順司 様にお話をうかがいました。
ISO 14001企業がSDGsへチャレンジする理由
――組織としてさらなる発展を図る
SGDsに取り組むきっかけについて教えてください。
渡辺様: 南海精工所では、2004年にISO 14001の認証を取得しています。そのねらいは、社員にもっと環境問題を意識して欲しいという当時の社長の思いからでした。ISO14001に対応した環境マネジメントシステムによって、自分たちのビジネスに沿った独自の環境行動方針を決定するなど、環境を切り口にさまざまなテーマに取り組むことが企業文化のひとつとなってきました。
この認証取得には、社員だけでなく家族も含めて環境問題に対する理解を深めて欲しいとのねらいもありました。実際、ISO14001によって意識が高まってきたと思いますが、さらに発展させるために、今回、SDGsへチャレンジすることを決定しています。
そもそもSDGsをよく知ることになったのは、小川の提案からです。2015年の国連サミットで採択された当時は、SDGsという単語は目にしていましたが、詳しい内容までは把握していませんでした。その後、SDGsについて知るにつれて、新聞・テレビなどのメディアやさまざまな企業のホームページなどでのSDGsという単語が気になっていました。
ちょうどその頃、小川から紹介された解説書を読んだところ、SDGsはISO 14001のように環境をメインにするだけでなく、健康や福祉、国際的な紛争や貧困、さらにはジェンダー問題など、幅の広い物事を考えていくものだと分かりました。
現在、インターネットなどによって世界がごく身近なものになっています。南海精工所のビジネスでももっと幅広い視点・発想は欠かせないはずです。SDGsが挙げているようなテーマに取り組むことが、私たちにも必要だと考えるようになったのです。
代表取締役専務 渡辺 恵介 様
社員への刺激のために導入――独自のビジネス基盤をさらに強固へ
小川様: 渡辺専務にSDGsを強く推した一番の理由は、社員への刺激です。私たちの会社は、どこかのメーカーの下請ではありません。小規模ながらも独自路線で開発・生産を続け、商売をしていきたいという先代からの思いがあります。
そのためには、社員が常に自らアンテナを張り巡らし、意識改革をしていく必要があるはずです。
SDGsに取り組むことによって、意識改革が起こり社員の成長につながり、同時に組織としての結束力も向上すると考えたのです。
講師派遣研修でSDGsの方向性が固まる
――EMSの仕組みにSDGsを取り込む
日本能率協会による講師派遣研修を受講した感想を教えてください。
渡辺様: 講師派遣研修でとりわけ良かったのは疑問点がとけて、SDGsの取り組みの方向性が決まったことです。あらかじめ書籍などで勉強していましたが、今回、研修でいろいろ教えてもらうことで、「SDGsはまさに私たちが取り組みたいと思っていたものだ」という確信に変わっています。
受講前は、SDGsへの取り組みについて大まかなイメージはあったのですが、それをISO 14001とどのようにからめて推進していくべきか、大いに悩んでいました。そこで質問したところ、「SDGsはISO 14001と共存できる」「ISO 14001の仕組みの中にSDGsを取り込んでいくことができる」と教えてもらえました。
こうした情報は、書籍やインターネットではわからないことでした。研修でISO 14001との関係を理解できたことで、今後、どのようにSDGsを推進していくか、方向性や指標が具体的に固まりました。また、取り組むにあたり細かなルールや規則はなくゴールやターゲットに向かって自分たちの方法で取り組んでいけば良い、と言うことも大きな参考になりました。
小川様: 私も同じ感想です。SDGsと自社事業だけの関連性を見るのではなく、「どのような社会課題に貢献できるかに焦点を当てて、証明することに意味がある」と研修で分かりました。この解説が非常にスッキリと腑に落ちました。
渡辺様: SDGsには169のターゲットがありますが、私は研修を受講して謎が解けました。というのも、この169のターゲットについては、いろいろな企業のホームページを見るなどインターネットで調べてみても、ピンとくるような情報はほとんど出てきませんでした。
これは要望になりますが、SDGsを広めるためにも、このような情報は、政府や自治体など行政組織がもっと積極的に分かりやすいような内容で発信していって欲しいですね。そうすることでSDGsに取り組む企業にとってもアピールになり、さらなる広がりが期待できるはずです。
小川様: 逆に、もし169のターゲットがなかったら、何をしたらいいのか分からないままだったと思います。私たちも、その「分からない」がスタートだったのです。もっと具体的で詳細な情報が出ているといいと思います。
営業部GM 小川 順司 様
SDGsを通して――会社や自分の将来像を具体的に描き実現させる
今後のスケジュールや取り組み内容について教えてください。
小川様: 現在、南海精工所として取り組む重点テーマの選定に取り掛かっています。決めるにあたっては、会社としてしっかり取り組めるものにすべきだと考えています。
そこで、1月に11名で研修を受講したのですが、そのメンバーで2月にミーティングを実施しました。そこでは結論が出なかったので、3月までに各々が取り組むテーマを考えるという宿題を出しています。
彼らが考えたテーマから、会社としての重点テーマを決めていく流れで、3月のミーティングで詰める予定です。
実際にSDGsを社内で推進する体制については、この11名が中心メンバーになる予定です。この半分はISO 14001の推進リーダーの経験者ですが、この中からリーダーを決めるよりも全員で推進していく形の方がうまく社内に広められると考えています。
渡辺様: その11名はすべて役職者であり、これまでもISO 14001の環境マネジメントシステムで現場から上がってくる問題点などにはマネジメントとして対応しており、その経験を活かすことを期待しています。
彼らには、SDGsのテーマは、現場の実務に近いものだけに限定するのではなく、「〇年後にはこうなりたい」、あるいは「こうすればみんなが幸せになれる」というように、自分や自分の家族、会社の将来像を具体的に描くような内容にしようという話をしています。
ISO 14001とはまた異なる、未来を見据えたテーマを各々が考えそれらをまとめることで、より理想的な取り組みにつながっていくはずです。
いろいろな手法を取り入れ楽しみながら推進したい
社内でスムーズに進捗させるにあたって注意点などありますか。
小川様: 簡単に取り組める内容もひとつふたつは重点テーマの中に織り込んでいく予定です。難しいテーマばかりだと、一部しか参加しなくなってしまう恐れがあるからです。
ひとりでも多くの社員が積極的に参加することで、各々の意識を高めることにつながり、組織としての活性化という本来の目的を実現できると期待しています。
渡辺様: 今後の取り組みでは、南海精工所の組織は、経営層、管理職層、一般職層と分かれており、それぞれの階層の中で取り組み具合が違ってくる可能性はあるかもしれません。
しかし、社風としてごく自然にしてきたことが、このSDGsでも同じになるように、簡単な取り組みも盛り込み、皆で取り組むようにしようと考えています。
そのためにもいろいろな手法を採り入れて、いい意味で楽しみながら、面白がりながらやっていきたいと考えています。
日本能率協会(JMA) ISO研修事業部 エキスパート(オフィスグラビティ―代表 SDGs2030公認ファシリテータ―) 中川 優
SDGsを起点としてISO14001を高度利用
自社の本業を通して社会課題の解決の実践へ
SDGsの実践でISO14001は大いに活用できる――最初にこのことを強調させていただきます。
SDGsに関心を持つ多くの企業がISO14001を取得していますが、企業のSDGs推進部署が自社のISO14001担当部署と連携することで、ISO14001担当者が持つ知識やマネジメントのノウハウを活用でき、SDGsの効率的かつ実効的な運用が可能となります。
その際、企業でSDGsを進める「駆動部」にISO14001を活用することで、SDGsに関するPDCA(計画・実行・評価・改善)のサイクルが自然に回っていくのです。ISO14001の環境マネジメントシステムを運用している企業にとってみれば、SDGsの運用は決して難しいものではありません。
今回、南海精工所様の講師派遣研修では、ISO14001が大いに活用できる点をご紹介しました。研修前にSDGsに関して学ばれていたこともあって、研修の場でISO14001の活用について自分たちのやり方と結びついたのだと思います。
一般的にB to Bのビジネスを展開する企業の場合、「SDGs=エコ活動」となって製造現場の工場などでの環境への取り組みが中心になりがちです。ですがSDGsは工場だけに限定したものではなく自分たちの会社組織体全体で取り組むことが必要です。工場だけに限定するのではなく、社会への影響力をより広く行使できる取り組み、例えばお客様に提供する製品・サービスに関連付けて考えてみるとよいでしょう。
南海精工所様の例で考えると、ステンレスベアリングの製造工場だけの環境対応だけでなく、製品としてお客様に使われる場面における環境影響を想定するのです。ステンレスベアリングはさまざまなところで使われているはずです。環境関連の装置・機械で使われているケースもあるでしょう。そうした装置・機械で採用されるようなステンレスベアリングを作ることは、南海精工所としても社会課題の解決に貢献することにつながるのです。
この例のように、「自分たちがお客様に提供する製品・サービスを使ってお客様の社会課題を解決していく」、SDGsのこうした視点を持つことで、現状以上にお客様を意識した自分たちの本業におけるエコ活動につながっていくのです。
もちろんISO14001は本来、自分たちの活動、提供する製品・サービスまでも対象としたものであり、自分たちのお客様を含めた環境影響の改善までも考えて取り組んでいくことができます。ただ現実には、製品・サービスまで含む環境マネジメントシステムをいきなり導入するのは大変かもしれません。
SDGsに新たに取り組むことを機に、「ISO14001を現状以上に活用して、自社の本業を通して社会課題の解決というSDGsのねらいに沿った活動を実践してみる」のはいかがでしょうか。