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【連載講座】
  SDGs推進の6つのポイント


1. 本当は怖いSDGs物語


最近マスコミでSDGsを目にしない日はない。どれもがカラフルな“アイコン”と共に“一緒にバラ色の未来をつくりましょう”的な平和なメッセージに溢れた内容だ。
しかし社会課題の現実を知れば、SDGsが決して明るい2030年を約束してくれている訳ではない。むしろ「未来は現状の延長線上にない」ことへの警鐘を読み取ることができる。手遅れになる前に、我々は直ちに持続可能な開発目標が示す未来へと舵を切らなければならない。達成期限まで8年を切ったのだから。

2. 迷える“貧困ジャパン”


先の衆議院選挙の争点ともなった「成長か分配か」。30年間の日本経済のゼロ成長と低賃金という衝撃の事実。OECD調べでは1990年からの経済成長は、欧米先進国が2〜3倍なのに対し日本は1.2%、賃金水準は横ばいで2015年に韓国に抜かれ、米国にはダブルスコアを付けられている。「少子高齢化」の陰に隠れていた日本の貧困問題をSDGsのゴール1(貧困をなくそう)とゴール8(働きがいも、経済成長も)が容赦なくあぶり出した格好だ。

日本企業のお家芸の「継続的改善」を以てしても価値を生まなかった30年。いま「KAIZEN(改善)」でもたらされる“ご利益”への疑念が生じている。そのため社会における「存在意義(PURPOSE)」を改めて考え直す会社が増えているという。
米国の大手コンサルティング会社によれば2021年は「パーパスの再定義」に関する問い合わせが世界的に倍増しており、日本企業に限れば5倍に急増しているという。

3. SDGsはミライの資本主義の象徴


グローバル経済においても問題提起されている。従来の株主利益中心の資本主義の弊害として気候変動、資源枯渇、人権侵害、格差拡大…を助長してきたとの認識が定着しつつある。利潤最大化の経営は地球社会破滅型のビジネスモデルだと言う経営者すらいる。そこでいま経済価値を生むだけではなくステークホルダーの価値を尊重し、持続可能で公正な社会の実現を目指す「新しい資本主義」のあり方が模索されている。SDGsへの高い関心もそのことと無縁ではない。

SDGsは普遍的な社会課題を17ゴールに集約し、注目を集め、そこに資本と技術を集中投下して社会課題を早期に解決するというアプローチだ。新型コロナ対策という世界共通の社会課題に対して巨額資金(資本)とバイオテクノロジー(技術)が連携し9カ月でワクチン開発に漕ぎつけたことがその好例だ。まさに資本主義的なアプローチと言える。
そしてSDGsの169のターゲットをつぶさに読めば、その多くに、社会課題解決の“処方箋”として資金や技術革新が登場している。

SDGsの「SD」は持続可能な開発(Sustainable Development)であり、サステナブルな社会の実現を目指している。サステナビリティは、もともと水産資源管理の専門用語であったが、現代では“社会や環境を考慮した節度ある経済活動”のことと解釈されている。つまり持続可能とは“エコロジー(環境)”の言い換えではなく、ズバリ“エコノミー(資本主義)”の中核テーマなのである。(図表1)

        図表1 新しい資本主義とSDGs
     (クリックすると拡大します)

4. “Comply or Explain”原則


そんな中日本の上場企業において「サステナビリティを巡る課題」への取組みが急加速している。震源地は株式市場。2022年4月東京証券取引所(東証)が上場再編されるのだ。上場1部・2 部やジャスダック、マザーズが「プライム」「スタンダード」「グロース」に再編される。名称が変わるだけではなく、基準が厳しくなり、成績によってはクラス替えがあるのだ。
2021年6月、それに先立ち金融庁と東証が「コーポレートガバナンスコード」の改訂を発表した。このコードは、上場企業が行う企業統治(コーポレートガバナンス)においてガイドラインとして参照すべき原則・指針を示す。法的拘束力はないが“Comply or Explain”が原則だ。つまり「順守せよ、さもなくば、説明せよ」というルールなのだ。

5. サステナビリティを巡る課題


「コーポレートガバナンスコード」の中に「サステナビリティを巡る課題」の指針が出されている。下記に引用する(一部抜粋)。 

【原則2−3.社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題】
上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題について、適切な対応を行うべきである。

【解説】取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。

【原則2−4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保】
上場会社は、社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得る、との認識に立ち、社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべきである。

【解説】上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。


6. 長期的価値と収益強化


ここで強調したいのが「サステナビリティを巡る課題」への取組みが、長期的な企業価値を生み、収益強化すると位置付けられている点である。日本企業では、とかく「黒船が来た!」「取り組まざるを得ない」対象として捉える傾向にある。ネガティブな気持ちで取り組んでも「自分ゴト」とはならず、新しい価値も生まず、まして社員への浸透は難しい。

一方EU、特に北欧の国々では、成長戦略と位置付けており、競って取組みを強化している。「SUSTAINABLE DEVELOPEMENT REPORT2021」によれば、SDGs達成度の国別評価は1位フィンランド、2位スウェーデン、3位デンマークである。その結果、海外から新たな投資を呼び込み、雇用と経済成長を高めている。人口が500万〜1,000万人程度の北欧では国内市場だけでは食って行けず、国外の投資が死活問題である点があるにせよ、国策としてポジティブにSDGsに取り組んでいることは参考にすべきだろう。

7. SDGsで未来をデザイン〜5ステップ〜


ではどうすれば「サステナビリティを巡る課題」を解決し、長期的な企業価値を生み、収益強化できるのか、言い方を変えれば、SDGsを使ってどうすれば成長戦略を描けるか?
一般社団法人日本能率協会では、5つのステップで「未来をデザインする」プログラムを開発した。筆者は関連するワークショップ研修の講師を担当しており下記にその概要を紹介する。(図表2)

 図表2 SDGs で未来をデザインする5ステップ
     (クリックすると拡大します)

ステップ①SDGsを起点に機会と責任の理解
•まずSDGsの中核概念であるサステナビリティの理解がスタート地点である。表面的理解では役に立たない。
•SDGsの取組みは、自社の事業が“持続可能”な方向に転換する点を深く理解することが肝心である。
•企業研修の現場から
「当社ではリサイクルをやっているからSDGsに貢献していることになるか?」との質問に出くわすことが多い。そんな時私は「そのリサイクルが持続可能に向かっているのかどうか」で判断することを勧め、次にターゲット12.4を提示して「資源循環(サーキュラー・エコノミー)」の事例を紹介する。すると質問者は「なるほど、単なるエコの話ではないのですね」という理解する。「だからサーキュラー・エコロジーと言わないのですよ」と最後に付け加えている。

ステップ②優先課題を決定する
•一定の理解が進めば、次は初期調査(バリューチェーンマッピング)により、業界、地域や顧客の社会課題を把握し、2030年のSDGsを達成するために解決すべき重要課題(マテリアリティとも言う)を組織決定する。
•企業研修の現場から
企業に訪問してワークショップ研修を行うことがある。各部門の社員に参加してもらい2030年の社会課題を洗い出してもらうのだが、最初は「現状の課題」ばかりが書き出される。特に解決不可能だと誰もが諦めている業界固有課題(例:再生資源に切り替えると原価上昇を招く、外食でお客様にストローを渡さないのは失礼だ…)に関しては誰もが思考停止に陥ってしまう。そこで2030〜40年の国が示すAI、IoTや5Gなどの技術トレンドと共に海外の活用事例を紹介している。

ステップ③目標を作成する
•事業活動を通じた重要課題の取組みがSDGs達成と連動するように仮説を立て2030年(又は2025年)の目標を作成する。
•また進捗管理のための「KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)」を設定する。特に「財務KPI」(例:売上高、ROEなど)に紐づく「社会KPI」も検討する。
•企業研修の現場から
このワークショップ研修で難しいのは「社会KPI」の設定である。もともとKPIは財務の指標として使われてきた。SDGs達成にあたって非財務情報(例:CO2削減量、再生可能エネルギー転換率、持続可能な原料の代替率など)に関してもKPIが必要だ。そこで「SDGsターゲットの多くは測定可能であり、2030年は通常の経営計画から言ってもロングタームなので、進捗管理が可能な『社会KPI』の設定が不可欠なのだ」と解説している。

ステップ④経営に統合する
•ステップ③の成果物である目的とKPIは、経営戦略や長期的価値に位置づける。具体的にはPDCA構造(ISOマネジメントシステム等)に組み込み、関連する社会パフォーマンス(例:女性管理職比率、障がい者雇用率、フードロスなど)を継続的に改善する。
•サステナブルを巡る課題へのチャレンジが、自社の長期的な企業価値を生むと同時に収益強化できるような仮説を立て組織体制をデザインすることが重要である。

ステップ⑤外部公表と成長サイクルへ
•社会課題への取組みであるが故に、また社会を味方に事業を推進するために定期的な外部公表は重要な取組成果の一つである。
•ただし、SDGs Wash(取り組んでいるように取り繕うこと)と疑われぬよう外部コミュニケーションには信頼性を担保すること。

8. パーパス起点にダブルキャスティングで考える


さて「計画を作成する」ためには、「バックキャスティング」で計画を立てることが有効であると言われている。
通常我々が目標を立てる際は、現状を起点に要素を積み上げて立案することがほとんどだろう。それを「フォアキャスティング」と呼ぶ。この手法は一見手堅い方法に見えるが「未来は現状の延長線上にない」のなら結果として外れる公算が大きい。

一方「バックキャスティング」の方は「未来のありたい姿」を先に設定し逆算して考え計画するのだ。例えば、2030年SDGs達成、2050年カーボンニュートラル実現など。計画時点では手段が未定であるため、途中で課題を解決するイノベーションが起きることを期待する手法なのだ。

「バックキャスティング」の成功は、「未来のありたい姿」の設定にかかっている。では企業でどちらのキャスティングを選択すべきか? 私の答えは「ダブル」だ。それぞれ一長一短があるのだから“バック”と“フォア”の「ダブルキャスティング」の2本立てで計画することを勧めたい。その理想と現実のギャップをKPIで進捗管理すれば、より確実にデザインした未来に到達できるはずだ。(図表3)

図表3 パーパス起点にダブルキャスティングで考える  (クリックすると拡大します)

9. おわりに


私が研修で必ず強調することがある。それは「SDGsの取組みは“目的”ではなく“手段”である」ということだ。何のためにSDGsに取り組むのかを改めて考えてほしい。



SDGs推進の6つのポイント、第2回目は脱プラスチックの観点から考えてみたいと思います。本内容は2021年12月14日に一般社団法人日本能率協会で実施させていただいた“脱プラスチックを攻めのビジネスに転換する〜「プラスチック資源循環法」とサーキュラーエコノミーを目指した戦略検討セミナー”の内容をベースに最新情報を加えて作成させていただいています。


1. はじめに


カーボンニュートラル、SDGsが求められる今日、益々、環境問題に対する取組みの必要性が取り沙汰されているのは言うまでもありません。環境問題の一つとして、脱プラスチックへの対応があります。
2022年4月に、“プラスチック資源循環法”が施行されました。プラスチック資源循環法とは、リサイクルを推進するための法律であり、プラスチックを扱う事業者や自治体が3つのR(Reuse・Reduce・Recycle)とRenewableを含んだ資源循環などの取組みを促進するための措置を求めるものです。

プラスチック資源循環法を考えるにあたり、サーキュラーエコノミー/循環型経済への取組みが重要になってきます。これまで経済活動のなかで廃棄されていた製品や原材料などを「資源」と捉え、リサイクル・再利用などで活用し、資源を循環させる、新しい経済システムを考えていくことも求められます。

2. プラスチックと環境問題


プラスチック資源循環法に入る前に、まずプラスチックと環境問題について確認していきたいと思います。
プラスチックにはポリ塩化ビニル(PVC)、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等、様々な種類があります。それぞれ燃えにくくて丈夫、衝撃や薬品に強い、水より軽く柔らかい、つやがあり燃えにくい、衛生的で水に強い、透明で丈夫といった特徴を持ち、様々な用途に使われています(図表1)

これらの様々なブラスチックは一般消費者向けの製品はもちろん、産業用にも活用されています。例えば、自動車のボディ、内外装、航空機の翼・胴体、窓、住宅・建築のユニットバス、水道管、農業や漁業分野ではビニールハウス、漁網等、様々な用途があります。
プラスチックは軽量、錆びない、水漏れしにくい等の利点があり、とても便利ですが、ゴミになると分解しにくく、大変やっかいなものになります。

現在、世界が生み出したプラスチックの83億トンの大半がゴミとして捨てられていると言われています。このプラスチックゴミは正しく廃棄、処理されないと、川を通って海へ流れ込みます。プラスチックは分解されるのに時間がかかるため、川や海洋の環境破壊につながります。
これが海洋プラスチック問題です。プラスチックは川から海へ流れ、既に1億5,000トンのプラスチックが海へ流出していると言われています。今でも毎年、800万トンのプラスチックが海へ流出し、発展途上国では川への流出も大きいと言われています(図表2)

日本の川においては、大量のプラスチックが流出していませんが、これまで中国が世界のプラスチックごみの45%を引き受けていたという事実はあまり知られていません(713万トン/年)。また、日本のペットボトルは60万トン回収されていますが、その内20万トンが中国へ輸出されていました。しかし、2018年から中国はプラスチックごみの輸入を禁止したため、日本は現在、東南アジアに輸出をシフトしています。つまり、日本はプラスチックゴミの処分、廃棄を他国に依存してきたということです。よって、日本において脱プラスチックの流れは必須であるということを忘れてはいけません。

図表1 様々なプラスチック〜プラスチックがないと生活できない (クリックすると拡大します)



          図表2 海洋プラスチック問題    
    (クリックすると拡大します)

3. マイクロプラスチックとは


海に流れ込んだ海洋プラスチックは、波や砂にもまれ、強い紫外線にさらされ分解されます。これらは自然分解されずに細かな片として、海中のごみとなります。直径5ミリメーター以下に分解されたプラスチックをマイクロプラスチックといいます。

このマイクロプラスチックを含む海洋プラスチックは海中の有毒物質を吸収し、高濃度となります。石油由来のプラスチックは汚染物質を吸着しやすい性質があるので、海を漂うあいだに海洋生物が汚染物質(PCB、DDP)を吸収し、POPs(残留性有機汚染物質)として環境に悪影響を与えます。これを科学的被害といいます。

また、海鳥や魚の消化器官がプラスチックで詰まったり、消化器官の内部がプラスチックで傷つけられて栄養失調の原因になるなど、生物にとって脅威となります。マイクロプラスチックをプランクトンや魚介類が摂食(誤飲)し、体内に蓄積することで「生物濃縮」となり人間の健康にも影響することも考えられています。これを物理的被害といいます。

このような状況をふまえ、ヨーロッパ諸国では既に、様々なゴミ、リサイクル戦略が進められています。 例えば、EUでは2021年までに使い捨てプラスチック禁止、ドイツではリターナブル容器の優先、スウェーデンでは廃棄物の99%をリサイクルといった施策が展開されています。
世界各国の企業でもリサイクルと新素材の開発を開始しています(図表3)


4. サーキュラーエコノミー

このような中、脱プラスチックを進めるためにはサーキュラーエコノミーへの取組みも求められています。
サーキュラーエコノミーとは循環経済のことで、あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、付加価値の最大化を図る新しい経済システムを意味します。

具体的には、廃棄が前提とされていた製品や原材料などを、新たな「資源」として経済活動の生産・消費・廃棄といった複層的な段階で再活用させることで、廃棄物を出さずに資源を循環させる経済の仕組みです。
このサーキュラーエコノミーには3原則があります。

原則1は廃棄物と汚染を生み出さないデザイン(設計)を行う、原則2は製品と原料を使い続ける、原則3は自然システムを再生する、です。脱プラスチックとサーキュラーエコノミーを連動させて進めるには、これらの3原則をふまえつつ、図表4のような循環性の高いビジネスモデルを検討していく必要があります。製品の設計〜生産〜利用〜廃棄〜再生材市場という製品ライフサイクルにおいて、リデュース設計、販売ロスの削減、製品の有効活用、リサイクル推進といったことが求められます。これらの推進、実現にあたっては社内外のステークホルダーとの連携が必須になります。


5. プラスチック循環法の概要とその影響

環境省は令和元年5月31日に「プラスチック資源循環戦略」を発表しました。これは、廃プラスチックの有効利用率の低さ、世界的な海洋プラスチック問題、世界で2番目の容器包装廃棄量、アジア各国の輸入規制等に対し、基本原則として、
 ・3R+Renewable/再生可能
 ・Reduce/Reuse/Recycle・資源
 ・環境問題→経済成長や雇用創出→持続可能な発展につなげる
といったことをうたっています。
この戦略と連動して、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(略して「プラスチック資源循環法」)が、令和3年6月11日に公布、令和4年4月1日に施行しました。このプラスチック資源循環法では5つの措置を挙げています。

1つ目は環境配慮設計指針の策定、2つ目は使い捨て(ワンウェイ)プラスチックの使用合理化、3つ目は市区町村の分別収集、再商品化の促進、4つ目は製造業・プロセス販売事業者などによる自主回収の促進、5つ目は排出事業者の排出抑制・再資源化の促進です(図表5)

また、プラスチック資源循環法による有料化対象12品目として、コンビニ等のフォーク、スプーン類、ホテル等のヘアブラシ類、クリーニング店等のハンガー類が挙げられています。これらの有料化に対し、プラスチックから木、竹等への代替素材、生分解性プラスチックへの対応検討、リユースを促す商品開発、内容物廃棄を減らすための顧客との商品開発(フレッシュ→レトルトへの変更等)といったことも求められてくると思われます。

このような活動、法規対応等を進めるためには、有料化対象商品利用業者(コンビニ、ホテル、クリーニング店等)、対象製品納入業者、対象製品製造機器業者、対象商品の原材料業者といったステークホルダーの連携が必要です。また既存のプラスチック製品の3R(Reduce/Reuse/Recycle)を進めることによる需要・受注減少対策、先行開発投資といったことも共同で解決、推進していくことも求められます。


6. 脱プラスチックを進める上でのビジネス検討推進に向けて

前述したようにプラスチック資源循環法をふまえて脱プラスチックを進めるためには、有料化対象商品利用業者(コンビニ、ホテル、クリーニング店等)、対象製品納入業者、対象製品製造機器業者、対象商品の原材料業者といったステークホルダーが連携する必要があります。
また、各社内の関連部門が連携していくことも求められます。
有料化対象商品利用業者であるプラスチック製品提供業者は、脱プラスチック対応の製品の調達方法等を検討する必要があります。

対象製品納入業者である製造メーカーは、商品企画、先行技術開発、設計・原材料調達等を検討する必要があります。対象製品製造機器業者である成形機・金型メーカーは、設備設計、製造・組立、機器提供方法等を検討する必要があります。対象商品の原材料業者である樹脂ペレット、カラー材メーカーは、先行技術開発、設計・製造、原料納入等を検討する必要があります。

これらのステークホルダーの連携にあたっては、脱プラスチックに対するアイデア、技術開発を検討・推進、新商品・新技術にトライするようなデザイン思考、オープンイノベーション、社内での商品企画、技術開発、製造を連携して行うためのコンカレント・エンジニアリングといったアプローチをふまえて推進していきたいものです。

これらのステークホルダーで連携して脱プラスチックを進めるためには、中長期的な方向性の合意、ミッション/役割の整理、アクションプランを整理していくことも必要です。大手企業を中心に脱プラスチックを含むカーボンニュートラルへの取組みが加速しています。これらの活動とリンクさせていくことも欠かせないでしょう。

これまで自動車業界では新車プロジェクトを円滑に進めるために、サプライヤーを巻き込んだ大部屋制度と言われる開発初期段階のチームビルディング活動を実施しているのは有名な話です。 このような取組みを脱プラスチック活動においても活用したいというイメージです。一連の活動は各社での取組みだけでは限界があります。業界、ステークホルダーを挙げて、活動を進めたいものです(図表6)

図表3 各企業のリサイクルと新素材開発状況
     (クリックすると拡大します)













          図表4 循環性の高いビジネスモデルの例     (参考:循環経済ビジョン2020〈概要〉、2020年5月、経済産業省)(クリックすると拡大します)








       図表5 プラスチック資源循環法  
    (クリックすると拡大します)















図表6 脱プラスチックを進める上でのビジネス検討推進に向けて (クリックすると拡大します)

7. 脱プラスチック活動を攻めのSDGs活動と連動させる


近年、SDGsやDX(デジタルテランスフォーメーション)を進めている企業が増えてきました。私はコンサルタントとして様々な企業の方と交流させていただいていますが、SDGsやDXを取り入れるにあたり、良い機会として、根本的に仕事のやり方、アプローチを見直しているかというと、必ずしもそうでは無いような気がします。
例えば、会社でSDGsを推奨しており、新商品開発において、従来商品より目標仕様において消費電力を低くしたため、SDGsの“No.7のエネルギーをみんなにそしてクリーンに”を社内でテーマ登録しておこうといった対応に留まっているケース、DXを全社で推進しているが、新しい技術、原材料、デジタルプロセスをサプライヤーから提案されたとしても、これまで自社で取り組んでいなかった領域だから取り入れていない。このような場面によく遭遇します。

カーボンニュートラルや脱プラスチックへの取組みは非常に難易度が高く、一足飛びには実現できません。ですから革新視点としてSDGsを活用する、企業間を超えた革新への取組みに挑戦するといったチャレンジャブルなアプローチを取り入れたいものです。

8. まとめ


SDGs推進の6つのポイント、第2回目は脱プラスチックの観点からまとめてみました。SDGs推進の6つのポイント、第2回目は脱プラスチックの観点からまとめてみました。
カーボンニュートラル、脱プラスチックの推進は一企業での取組みでは限界があり、難しい点が多々あります。よって、ビジネスパートナー、社内外のステークホルダーと連携した取組みが必要であり、SDGsへの取組みとぜひ組み合わせることをお勧めします。社内の取組みについては将来的にはQMSへの取込みも検討したいものです。

 


はじめに


いまや、「SDGs」あるいは、「SDGs」と記載がなくてもSDGsの17目標に関する動きは、新聞、ニュース、あるいは街中に溢れています。SDGsは「一過性のブーム」ではなく「社会の大変革」です。今回は、SDGsに対する中小企業の考え方・取組み方について考えていきます。


1. そもそも、SDGsってなに?


SDGsとは?

おさらいになりますが、表面的な取組みをしないためにも、SDGsの背景や意味について再確認します。いま、世界では、地球温暖化、大規模災害、感染症、環境破壊、経済格差など、様々な問題が発生しています。そこで、国連が「このままでは世界がもたない」という危機感から、2030年までに達成すべき目標として決議したのが「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標、17目標)」になります。

SDGsは、正式には『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ』という標題の文書に記載されていますが、ここに重要なキーワードがあります。それは『変革』『持続可能』『開発』。なお、「Development」は「開発」と日本語訳されていますが、「成長」「発展」という意味合いもあります。SDGsを『持続可能な成長のために、世界を変革していこう!』と意訳するとわかりやすいでしょう。

 

SDGsは「環境」「社会」「経済」の三位一体
時折、「SDGs=環境」と認識されている場合がありますが、それは一面的です。SDGsの17目標は、『環境』『社会』『経済』の3側面の目標が相互関連的に設定されています(図表1)。どれかが欠けると相互関連性が崩れ、世界は持続不可能になります。世界が持続可能であるためには、この三位一体での相互関連的な取組みが必要になります。

特に重要なことは、SDGsは、『経済』の担い手である企業に対し、従来の寄付や地域清掃などの「慈善活動」だけではなく、「事業(本業、ビジネス)」で『環境』や『社会』の課題解決に貢献し、そこでしっかりと『収益』を上げ、自らも『持続可能な企業』となることを求めている点です。かの二宮尊徳先生の言葉に「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」とあります。
『経済』なき『環境』『社会』はあり得ません。『企業(経済)』が事業として持続的に『環境』や『社会』に貢献してこそ、持続可能な明るい未来をつくることができるのです。

図表1 SDGs のウェディングケーキモデル
 (出所:ストックホルム・レジリエンス・センター)
   (クリックすると拡大します)

2. なぜ、中小企業がSDGsに取り組む必要があるのでしょうか?


それは、世界的なSDGsへの潮流が、業種や規模に関係なく、企業の持続可能性(わかりやすく言うと、成長や生き残り)に重大な影響を及ぼすテーマとなっているからです。中小企業にとっても、遠い世界のことではなく、非常に身近な問題なのです。具体的に考えてみましょう。

事業活動の観点
中小企業の大半は、大企業と直接または間接的に取引しています。大企業はほぼ100%が何らかの形でSDGsに取り組んでおり、今後、当然の流れとして、サプライチェーンにある取引先の選択基準として「SDGsへの取組み度合い」を重視してくることになります。

人材確保の観点
今の若い世代は、日々、環境問題、自然災害、新型コロナ感染症などの様々な問題を目の当たりにしています。また、学生時代にSDGsを学んでいることもあり、SDGs的な価値観を持っています。SDGs的価値観を持っている人々は就職先の選択基準として「SDGsへの取組み度合い」を重視してくることになります。

資金調達の観点
金融機関・投資機関も、「SDGs融資」「SDGs債」など「SDGsへの取組み度合い」を投融資先の選択基準(あるいは優遇基準)としてきています。金融機関からすると、投融資した資金が確実に回収できる「持続可能な企業」を優先・優遇するのは当然です。

市場・顧客、消費者、学生、金融機関など、企業を取り巻く利害関係者がSDGsへの関心を高め、「SDGsへの取組み度合い」を企業の選択基準としている事業環境において、SDGsへの取組みは生き残りの必須条件となっています。反面、中小企業にとっては大きな成長チャンスでもあります。なぜなら、SDGsに積極的に取り組むことにより、顧客獲得、人材確保、資金調達などの様々な面で競争優位に立つことができるからです。まだまだ本格的にSDGsに取り組んでいる中小企業は少ないからこそ、中小企業がSDGsに取り組む理由と価値があるのです。

3. では、中小企業はどのようにSDGsに取り組めばよいのでしょうか?


SDGsへの取組み方に規則はありません。取組み方は自由です。ここでは、2つの取組み方について考えてみます。

①「SDGsの観点」でやっていることを洗い出す
まずは、SDGsを難しく考えないことです。SDGsの17目標を「“世界”が取り組むべきこと」から、「“企業”が取り組むべきこと」と読み換えて自社を点検してみましょう。すると、すでに多くの中小企業では、大なり小なりSDGsに関連した取組みがあることに気づきます。いくつかのSDGs目標で見てみます。

SDGs 目標4:質の高い教育をみんなに
人材育成はどの中小企業も最重要課題です。ただ、具体的に、あるいは十分に取り組めている中小企業は多くはありません。SDGsをきっかけに、「計画的な人材育成」「社員一人一人のキャリア計画」「eラーニング導入による教育機会の拡充」「技術資格取得への支援」など、人材育成の充実化を検討してもよいでしょう(図表2)

SDGs 目標7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに
電力コストが高騰する中で、「省エネ」はどの中小企業でも取り組んでいます。例えば、「冷暖房の温度を管理する」「工場内の照明をLED化する」「設備のチョコ停を減らす」などが考えられます。また、「再生可能エネルギー」として「工場屋上に太陽光パネルの設置」をしているところも多いでしょう。このような省エネ活動や再生エネルギーの利用について、さらなる推進を検討してもよいでしょう(図表3)。

SDGs 目標8:働きがいも経済成長も
多くの中小企業では人材確保難が慢性化しています。人材は「魅力のある会社」に集まります。とくに、優秀な人材にとっての魅力は「働きがい」です。働きがいを高めれば、モチベーションアップや定着率向上につながります。働きがいを高めるためには、例えば「成果や貢献が報われる公正な評価・報酬制度」「単純労働の機械化・IT化」「労働災害撲滅」「残業時間低減」「有給休暇取得推進」などが考えられます(図表4)

このように、SDGsの各目標を自社の点検に使い、SDGsを自社の取組みと関連付けて考えると、案外、「すでに、取り組んでいること」「今後、取り組もうとしていること」が多いことに気づきます。これらの取組みを継続、あるいは、推進・強化することもSDGsへの取組みと言えます。

②「経営的・事業戦略的な観点」でSDGsに取り組む
上記の取組みは、「すでに、取り組んでいること」「今後、取り組もうとしていること」をSDGsに関連付けるため、取組みやすく、取っ掛かりとしてはよいでしょう。しかし、この取組み方だけでは、問題があります。将来的に「わが社が持続可能である(成長する/生き残る)ために」という『経営的・事業戦略的な観点』が欠落しているからです。単純に数合わせ的に取り組むだけでは、中小企業がSDGsという「社会の大変革期」に成長も生き残りも難しいでしょう。次に、経営的・事業戦略的な取組み方について考えてみます。

STEP1:経営理念とSDGsを融合させる!
多くの企業には経営理念があり、そこには何らかの形で「社会への貢献」が含まれています。それは、経営理念が、すでに社会の「持続可能な開発目標(SDGs)」に関連していることを意味しています。SDGsをきっかけに、今一度、自社の経営理念を再確認し、必要であれば、経営理念の再策定も検討しましょう。この際、経営理念に「わが社の社会的な存在意義(パーパス)」を明確に盛り込むことで、無理なく、経営理念とSDGsの融合が可能となります。なお、SDGs目標8には「働きがい」があります。社員が「共有・共感・共鳴」する経営理念は、社員の働きがいの源泉となることも忘れてはいけません。

STEP2:事業戦略とSDGsを融合させる!
SDGsは「社会の大変革」です。変化のある所には「新たな社会的ニーズ」があります。その社会的ニーズに戦略的に対応してこそ、『持続可能な企業』になることができます。ここでは、「自社の強みや弱み」と「社会的ニーズ」の組合せにより、事業戦略とSDGsの融合を事例で見ていきましょう。

■食品会社の例
自社の「強み」として「有機・無農薬栽培をしている地域特産野菜の生産者との強固な信頼関係」と「高い商品開発力」があり、社会的ニーズとして「消費者、特に中高齢層の健康志向が高まっている」があるとすれば、『健康を重視する中高齢層に対し、有機・無農薬栽培の地域特産野菜を素材とした商品開発』という事業戦略が考えられます。この戦略は「SDGs目標3:すべての人に健康と福祉を」「SDGs目標12:つくる責任つかう責任」「SDGs目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」に貢献する取組みになります。

■自動車部品会社の例
自社の「強み」として「自動車駆動系部品で培った精密加工技術」があり、社会的ニーズとして「少子化による労働人口の減少に伴う、産業ロボット市場の拡大」があるとすれば、『産業ロボット用駆動系部品への進出』という事業戦略が考えられます。この戦略は「SDGs目標8:働きがいも経済成長も」「SDGs目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献する取組みになります。

■建設会社の例
自社の「弱み」として「定年退職による技術資格者の急減」「ドローン等の新技術への対応不足」があり、社会的ニーズとして「国土強靭化や災害復旧のための土木工事の発注量増大」があるとすれば、『組織的・計画的な教育を通じた技術資格者の増強及び新技術の習得による、国土強靭化・災害復旧事業への貢献』という事業戦略が考えられます。この戦略は「SDGs目標4:質の高い教育をみんなに」「SDGs目標11:住み続けられるまちづくりを」に貢献する取組みになります。

多くの社会的ニーズの背景には「SDGs」があります。その「社会的ニーズ」と「自社の強み・弱み」を組み合わせて策定された事業戦略は、結果的にSDGsに貢献する戦略となります。SDGsは「これから世界が進む方向性」を示していますから、そこには新たな「成長市場」「経営リスク」が生まれています。SDGsが生み出す「成長市場」「経営リスク」から事業戦略を策定し推進すること(つまり、攻めと守りの経営)をすることが、自社を『持続可能な企業(成長する/生き残る企業)』に変えるSDGsの取組み方になります(図表5)

ただし、すべてのSDGsのすべての目標に取り組む必要はありません。社会と自社の両方にとって重要性の高い戦略課題を選定(これをマテリアリティ〈優先課題〉と言います)し、重点的に取り組めばよいのです。
なお、便宜上、STEP1、STEP2と段階的に記載していますが、企業によっては同時並行あるいは、これらの順番を入れ替えた方がしっくりくる場合もあります。柔軟に考えて下さい。

STEP3:事業戦略を「見える化」する!
次に、明確にした各戦略の成果指標(KPI :Key Performance Indicator)を設定し、目標を決定します。この成果指標や目標がなければ、進捗管理ができず、形だけで終わってしまいます。例えば、上記の食品会社の事業戦略『健康を重視する中高齢層に対し、有機・無農薬栽培の地域特産野菜を素材とした商品開発』であれば、成果指標(KPI)は「当該食品の商品開発件数」や「自社の当該食品の販売量」などが考えられます。

建設会社の事業戦略『組織的・計画的な教育を通じた技術資格者の増強及び新技術の習得による、国土強靭化・災害復旧事業への貢献』であれば、成果指標(KPI)は「技術資格者数」「資格試験合格率」「国土強靭化・災害復旧の工事実績」などが考えられます。

SDGsの目標年である「2030年」に合わせる必要性はありませんが、折角ですからSDGsと合わせて、各戦略の成果指標(KPI)の2030年度目標を設定すると、それは『2030年わが社の中長期経営ビジョン』となります。そこから逆算的に「202X年度目標」→「2022年度目標」と目標設定すると、それは『わが社の中長期経営ビジョンへのマイルストーン』となります(図表6)

  図表2 SDGs 目標4の具体的な取組み例
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        図表3 SDGs 目標7の具体的な取組み例
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     図表4 SDGs 目標8の具体的な取組み例 
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   図表5 事業戦略でSDGs に貢献する 
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   図表6 戦略ストーリーの見える化 
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例えば、「技術資格者数」であるならば、2030年度は「増大する国土強靭化・災害復旧ニーズに対応すべく“50名”までは増やしたい」、そのためには、2025年度は「40名」、2022年度は「30名」というように時系列的に目標設定します。例えば、「技術資格者数」であるならば、2030年度は「増大する国土強靭化・災害復旧ニーズに対応すべく“50名”までは増やしたい」、そのためには、2025年度は「40名」、2022年度は「30名」というように時系列的に目標設定します。 

読者の皆様は、大半はISOに基づくマネジメントシステムを構築し、目標管理プロセスを運用されていると思います。あとは、この目標管理プロセスに則って、各戦略の成果指標(KPI)の年度目標に対する達成計画を策定し、PDCAサイクルで進捗をマネジメントすればよいでしょう。

STEP4:成果を「見せる(魅せる)化」する!
既述の通り、SDGsは市場・顧客、消費者、学生、金融機関など利害関係者の重要な選択基準となっていきます。その利害関係者から評価されるためには、積極的に外部に情報発信することが必要です。情報発信しなければ、外部から見れば「何もしていないのと同じ」です。多くの企業はホームページ上で「SDGsへの取組み」について情報発信していますが、今後は、利害関係者からは「取組み」に加えて、その「成果実績」の情報発信も期待・要求されます。

例えば、上記、建設会社の『組織的・計画的な教育を通じた技術資格者の増強及び新技術の習得による、国土強靭化・災害復旧事業への貢献』であれば、成果指標(KPI)としての「技術資格者数」「資格試験合格率」「国土強靭化・災害復旧の工事実績」が「年々、どのような実績で推移しているのか」です。「取組み」だけではなく「成果実績」までをも情報発信する(見せる)ことで、利害関係者からの評価を高め、高い信頼を獲得する(魅せる)ことができます。

ただ、ここで注意すべきは、「紛らわしい情報発信」「虚偽の情報発信」です(これをSDGsウォッシュと言います)。このような情報発信はかえって利害関係者の信頼を失うことになります。誠実な情報発信こそ、真の信頼を獲得できます。


4. まとめ

「持続可能な会社」とは、未来においても『成長する会社/生き残る会社』と言い換えることができます。世界的なSDGsへの潮流の中で、中小企業を取り巻く事業環境はどんどん変わっていきます。この激しい変化の中で、中小企業が「成長する/生き残る」ためには、その変化する事業環境に対し、主体性をもって積極的に自己変革に取り組む以外に道はありません。

変化はチャンスです。競争が厳しい中小企業だからこそ、SDGsという「社会の大変革」を絶好のチャンスととらえ、経営的・事業戦略的なアプローチで『成長する会社/生き残る会社』へと自己変革していきましょう!


昨今、わが国でもSDGs及びESG投資の言葉が普及し、さらにはESG経営という言葉も聞かれるようになりました。このような言葉や活動の広がりは社会に良いことです。一方で、SDGsやESG投資が本来の目的を達成するためには、その本質を理解し、企業は目的に適合した取組みが重要になります。今回は、ESG投資及びSDGsの概念の本質に迫り、明日からの企業活動に活かしていただければと思います。


1. はじめに

ESG投資は、グローバルな機関投資家が多額の資金を高度な投資手法で投資するようなイメージがあると思います。ESG投資をもっと身近に捉えると、ESG投資の資金は皆様が将来に受け取る年金です。仮に、皆様が将来毎月20万円を受け取って生活するとします。SDGsのロゴを使用してイメージの良い会社だからとESG投資の判断をしますか? その結果、毎月の年金が15万円になるリスクがあるとしたらどうでしょう?
ESG投資は、環境、社会、ガバナンスの各要素を考慮することですが、将来のリターンを確保することが求められます。したがって、運用の受託者は、皆様の将来の年金を守る責任があるということです。


2. ESG投資の歴史

世界のESG投資議論の始まり

ESG投資は、投資にあたってESGの要素を考慮することですが、受託者は、自己の裁量でどこまで考慮することを許されるのかという問題が古くから生じています。この問題に対する答えを最初に提示したのは、今から約200年前の1830年に、米国マサチューセッツ州の最高裁判決です。訴えを起こした運用委託者は、有名なハーバード大学です。当時は、安全な運用となる債券運用が中心でした。これを株式投資で運用した結果の損失に対する責任の是非が問われたのが「ハーバード大学対エィモリー事件判決」です。

今日的に考えると、市場平均に連動する安定運用を前提としていたものが、受託者の裁量でESG投資を行った結果、損失を出していると知らされたら皆様はどのように考えますでしょうか。この判決は、「プルーデントマン(パーソン)ルール」という重要な概念を示しました。ESG投資を含めた資産の運用受託者には、「prudence (思慮や合理性)、discretion(健全)、intelligence(知性)が求められる」という基準です。
皆様の将来の年金資産の運用を任せる上で、そのESG投資はプル—デントかどうか?を考えてみましょう。

わが国への最初のESG投資

ご存知のように、日本は明治維新によって近代的な国家に発展しました。明治維新後に外国から資本や技術など様々な支援を受けたことで発展を遂げることができました。1872年に開業した鉄道も実は、外国から多大な“ESG投資”を受けたものです。“日本株式会社”に対して、SDGsに相当する鉄道事業とESG投資として多大なリスクを負担したのは、英国の銀行です。
横浜を拠点としたオリエンタル銀行からの全面的な支援を受けたことで、鉄道事業が成し遂げられました。資金の他、測量、設計、施行等全面的な支援を受けました。オリエンタル銀行にとっては、日本株式会社という世界の東の果てのベンチャー企業に対してリスクの高いESG投資とSDGs事業を行ったことになります。オリエンタル銀行が皆様の年金資金の運用者であったとするならば、皆様は、プルーデントなESG投資であると考えるでしょうか。

ESG評価を考えると、社会課題を解決する極めて意義の高い事業である一方で、ガバナンス面では、財政や組織も貧弱で問題のあるリスクの高いESG投資であったのではないでしょうか。因みに、オリエンタル銀行は、その後のセイロン島での事業が失敗して破綻しました。

世銀からのESGファイナンス

途上国を支援する立場のわが国も、過去、様々なESG投資/融資を受けてきました。戦後のわが国は工業化の過程で、深刻な電力不足という社会課題を抱えていました。これに対して、電力不足の社会課題を抜本的に解決するSDGs事業を立ち上げました。1958年の関西電力黒部第四発電所の事業は、当時の最大規模の水力発電事業です。しかし、事業に対して多額の資金支援を必要とし、世界銀行から500億円という巨額の資金支援を受けました。

これをESGの側面に照らして考えると、電力不足の社会課題解決に貢献し、火力発電所と比較して地球温暖化防止に貢献する環境価値も高い事業です。しかし、工期は7年に及んで、多くの犠牲者も発生した難工事の事業でした。皆様が世銀の資金拠出者であった場合、皆様はプルーデントなESG投資であると考えるでしょうか。世銀の審査に関与した日本人を招いてESG投資判断の事例研究をしたことがありますが、世銀の内部でも議論が紛糾する極めて難しい投資判断だったそうです。

1970年代からの動き

■バルディーズ号事件
今日のSDGsやESG投資の枠組みはどのように誕生したのか。1989年のエクソン社のバルディーズ号座礁による原油流出事故が一つのきっかけです。事故自体もそうですが、事故をきっかけに1970年代から問われていた多国籍企業の責任ある行動を求める声が一気に高まることになりました。

実は、1970年代あたりから多国籍企業の活動により環境破壊や人権侵害が途上国で問題視されていました。途上国の声に応えて、1975年に国連多国籍センター(UNCTC)が設立され、1983年に「多国籍企業行動要綱案」を作成しました。しかし、自主的な勧告を求める米国政府や多国籍企業と、法的な拘束力を目指す途上国政府とが対立し、その解決のために国際商工会議所が国連のコフィ・アナン事務総長に自主的行動規範の策定を提案して設立されたのが国連グローバル・コンパクトと言われています。

■SDGsの生成過程
SDGsも実は、1970年代あたりから重ねられてきた大きな努力が基盤になっています。1972年にストックホルムで開催された国連人間環境会議にて、「人間環境宣言」及び「国連国際環境行動計画」が採択されました。この機関として、UNEP(国連環境計画)が設立されました。その後、1984年にUNEPの提唱によって「環境と開発に関する世界委員会」(ブルントラント委員会)が設立されました。ブルントラント委員会から、「Our Common Future」が発表され、1992年の国連環境開発会議にて、「持続可能な発展」という概念が生まれました。その定義は、「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく現在世代のニーズを満たすような発展」です。

アナン国連事務総長(当時)は、1999年の世界経済フォーラムにおいて、「社会と環境に関する重要課題を克服するためビジネス界もぜひ協力してもらいたい」と訴えて、2000年に「グローバル・コンパクト」が発足しました。このような1970年代から脈々と続いた努力が実を結び、MDGsという先進国から途上国の開発支援の枠組みが、2015年9月にSDGsという企業の社会課題への取組みによる持続可能な社会への発展を目指す行動目標に生まれ変わったものです。

1990年代からの動き

■ESG投資概念の登場
わが国では、1990年代からは失われた20年と言われることが多いですが、世界は、ESG投資の仕組みの構築に向けて、着実に歩みを進めてきた輝かしい年代でした。1992年に国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)が設立されたことがESG投資の端緒となりました。UNEP FIの目標は、金融ビジネスモデルにサステナビリティ・メカニズムを組み込むこと、サステナビリティ産業やテクノロジー産業に対する投資を促進させることです。すなわち、ESG投資の基本的なメカニズムが形成されました。2003年にUNEPFIは、資産運用ワーキンググループを立ち上げて、2004年のレポートで「ESG」という概念が登場することになりました。

2006年にUNEP FIと国連グローバル・コンパクト等が共同で国連責任投資原則(PRI原則)を策定しました。PRI原則の中で、1.『銘柄選定』として、投資分析と意思決定のプロセスにESGの課題を組み込むこと、2.『株主行動』として、株式の所有方針にESG課題を組み入れること、3.『情報開示』として、投資先にESG課題の開示を求めることです。機関投資家は、このPRI原則に署名し、ESG課題を取り込んだESG投資を拡大することが期待されるようになったものです。

2000年代からの動き

■ESG投資を支える報告
バルディーズ号の事故を契機にGRIにつながるプロジェクトがスタートしました。市民団体CERESとUNEPとの共同プロジェクトとして環境報告や信頼性向上の基準作りがスタートし、2000年6月にGRIの初版が発表されました。2013年5月に発行された第4版では「マテリアリティの特定」が重視されて、今日のマテリアリティという言葉が広まるきっかけになりました。2016年10月のGRIスタンダード2016では、「ステークホルダー」という側面が重視されて、今日のステークホルダーという概念が広まることになりました。

また、2006年に英国のチャールズ皇太子が呼びかけたプロジェクト(A4S)の一環として2010年にInternational Integrated Reporting Council (国際統合報告評議会:IIRC)が設立されました。2013年にIIRCから財務情報と非財務情報を経営レベルで関連づけて開示する「国際統合報告フレームワーク」が公表されました。このように投資家がESGを投資に反映していくために、ESG課題を含めた非財務情報を投資家に的確に報告する企業のレポーティング改革が進むことになりました。

■2015年は大きな基点
2015年は、皆様にとってどのような年だったのでしょうか。2015年は極めて重要な一年でした。9月に国連総会でSDGsが採択され、12月にCOP21が開催されてパリ協定が合意されました。また、2017年9月に公表された気候関連財務情報開示フレームワーク(TCFD開示)も、実は、2015年4月のG20での要請に基づくものです。さらに9 月にわが国の最大の運用資産を保有するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRI原則に署名し、わが国のESG投資を促進させる大きな基点となりました。(図表1)

■2022年も大事な1年
今年は、2015年に続いて、ESG投資に関する大事な年になりそうです。プルーデントな投資判断をする上で飛躍的に発展したのが非財務情報の開示制度ですが、活発な動きが展開されています。2021年11月にサステナビリティ会計基準委員会(ISSB)が設立され、非財務情報に関する開示基準がISSBに統合されることになりました。また、2022年6月までに気候変動開示基準委員会(CDSB)とバリュー・レポーティング財団(VRF)がISSBに統合される予定です。プルーデントな投資家の皆様は、レポーティング改革の目まぐるしい動向に注視し、ESG情報を適切に評価して、よりプルーデントなESG投資を推進していく必要があります。(図表2)

 図表1 SDGs及びESG投資の大きな流れ
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図表2 ESG投資と持続可能な社会のメカニズム
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3. ESG投資及びSDGsのまとめ

最後に、皆様がESG投資とSDGsの本質を理解する上で、私が大切にしている重要な言葉を贈りたいと思います。
ESG情報開示分野を拓いた水口剛先生(現、高崎経済大学学長)は、「投資とは、本来、不確実な環境の下で、社会を持続可能にするための知恵だったのである」*注1としています。
また、ファイナンス研究の首藤恵先生(前早稲田大学教授)は、「企業は、社会のために何をするかでなく、価値追求主体として何をしなければならないか」としています。さらに、ESG投資という金融機能の本質は、「こうした努力をする企業や事業機会を発見し企業価値を適切に評価し資金の移転とリスク分担機会を提供すること」*注2であるとしています。

■2030年、2050年の世界を拓いていくプルーデントな皆様へ
ESG投資は、“信託”という人類の知恵を投資に活用しているものです。しかし、これからの未来は、人財、人工知能、科学、倫理、教育、平和や人と人とのつながりなどの価値がさらに高まってくると思います。その未来に信託をどう活かすかについて、信託法の世界的な権威であるTamar Frankel先生の言葉をむすびに代えさせていただきます。
「信託は、社会を維持するために必要な道徳的、倫理的、法的、そして社会的要素を反映しており、人間はそれらに支えられながら、互いを信頼しつつ生きて行くのである」*注3

*注1 水口剛(2013) 「責任ある投資」岩波書店
*注2 首藤恵(2012) 「CSR研究の新たなステージ ビジネス・モデルと資本コスト」証券アナリストジャーナル 2012.9日本証券アナリスト協会
*注3 Tamar Frankel(2011) “FiduciaryLaw”『フィデューシャリー- 「託される人」の法理論』溜箭将之監訳、三菱UFJ信託銀行Fiduciary研究会訳(2014)弘文堂




1. はじめに

気候変動対策は、いまや企業にとっての最重要経営課題の一つになりました。全世界でカーボンニュートラルを目指した取組みが活発化しており、投資家はもとより、消費者や社員においても、温暖化ガスの削減に対する意識が高まっています。気候変動対策は、いまや企業にとっての最重要経営課題の一つになりました。全世界でカーボンニュートラルを目指した取組みが活発化しており、投資家はもとより、消費者や社員においても、温暖化ガスの削減に対する意識が高まっています。
本稿では、気候変動対策について、概観を説明します。なお、カーボンニュートラル、脱炭素、ゼロエミッション、また、地球温暖化、気候変動など、いわゆる「温暖化」に関する用語は様々で、厳密にはそれぞれ意味合いが異なりますが、ここではあまり細かい点は気にせず、それぞれ同様の意味で用いることにします。

2.気候変動対策の経緯


気候変動対策の歴史を振り返ってみると、1968年のローマクラブ発足に遡ることができます。ローマクラブが1972年に発表した「成長の限界」が大きな反響を呼び、世界的に注目されました。人口増加や環境汚染が継続すれば、100年以内に地球上の成長は限界に達すると警鐘をならすものでした。これを端として、地球環境問題・気候変動問題が人類共通の解決すべき問題として認識され、現在までにさまざまな議論が継続されています。(図表1)

気候変動に関する最初の会議は、1985年に開催されたフィラハ会議でした。1997年京都で開催された第3回締約国会議(COP3)では、日本は議長国として京都議定書の採択に貢献しました。2008年からの5年間は、京都議定書第一約束期間として、日本や先進国はGHG排出量の削減の義務を負いましたが、先進国と途上国との間で、いわゆる南北問題が横たわっていました。

しかしながら、近年ではパリ協定をはじめ、途上国を含めた各国のカーボンニュートラル宣言など、全世界で削減をしていかなければならない、というモーメンタムがより強くなってきているように感じます。


3.パリ協定とカーボンニュートラルの潮流

(1)パリ協定の合意
2015年、フランス・パリで開催されたCOP21で採択された合意文書がパリ協定です。京都議定書の後継として、2020年以降の温暖化対策に関する国際的な枠組みを定めたもので、大きな特徴の一つが、世界共通の長期目標として、「産業革命以前に比べて、気温上昇を2℃以内に抑える(できる限り1.5℃以内に抑える)」と設定していることです。

また、もう一つの大きな特徴は、途上国を含むすべての国・地域が削減目標を設定し、世界全体で削減に取り組んでいることです。その際、各国の⾃主的な取組みを重視し、削減目標は、各国の状況を織り込み、⾃主的に策定できる一方、高い透明性が求められ、取組み状況は他国からレビューされる、という仕組みになっています。

京都議定書が策定された時には、政治的な駆け引きと交渉の中で数値目標が決められ、未達成の場合のペナルティもありましたが、パリ協定では、各国が⾃由に目標を決められる代わりに、透明性を持った説明責任を負う、という仕組みになりました。主要国の数値目標は、図表2に示す通りです。

  図表1 世界と日本の気候変動対策の経緯
    (出典:各種資料に基づき著者作成)
     (クリックすると拡大します)







     図表2 パリ協定における主要国の数値目標(出典:外務省ウェブサイト等に基づき著者作成)
    (クリックすると拡大します)

日本は当初、2030年までに、2013年比で26%削減の目標を立てていましたが、昨今の各国の目標の引き上げと歩調を合わせるように、当時の菅総理大臣により、2020年10月26日の所信表明演説において、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。
その後、2021年10月22日に2050年カーボンニュートラルに向けた基本的な考え方等を示す「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を閣議決定し、国連へ提出しています。
これによって、日本は2030年に2013年比46%削減、2050年にはカーボンニュートラルを達成する旨を正式に宣言しました。

(2)国際的なイニシアティブの広がり
パリ協定の締結や締約国会議での交渉は、あくまで国レベルの話し合いですが、具体的な削減活動を行うのは企業や私たち国民です。2050年のカーボンニュートラル達成に向けては、企業や一般市民の生活での活動が重要となります。

特に企業にとっては、国際的なESG投資やESG経営の重要性が認知される中、⾃らの企業価値を高めるものとして、国際的なイニシアティブに賛同・参加する事例が急増しています。先んじて脱炭素経営の取組みを進めることによって、他者と差別化を図り、新たな取引先やビジネスチャンスの獲得に結びつけようとするものです。
数年前から、企業における削減活動の取組みを評価、または後押しするスキームが活発化してきています。

SBT (Science Based Target)
パリ協定が求める温度上昇の水準(産業革命前から比較して気温上昇を1.5℃以内に抑えるというもの)と整合するように、企業における5〜10年先の削減目標を設定するスキームのことです。S B T に取り組むメリットとしては、パリ協定に整合する持続可能な企業であることを、投資家や顧客などのステークホルダーに対してアピールできること、また目標設定を数字で示すにあたって、具体的な削減対策やコストを定量的に評価することとなり、社員に対して積極的な削減の取組みの訴求が期待できることなどが挙げられます。

RE100
企業が事業を行う上で必要な電力について、100%再エネ電力で賄うことを目標とするもので、遅くとも2050年までに100%再エネ化することを達成する必要があります。CDPとのパートナーシップのもと、The Climate Groupが運営しています。大手企業を中心に参加数が増加しており、2022年3月時点では、日本企業66社を含め世界全体では、356社まで拡大しています。

4. .カーボンニュートラルに向けた対応の検討


2050年カーボンニュートラルに向けて、国全体としてはどのような戦略を検討しているのでしょうか。ここでは、日本政府が発表している「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を見てみましょう。(図表3)
大まかな削減対策の方向性としては、①徹底した省エネの実施、②可能な限り電化への転換、③エネルギー供給の再エネ化の3項目に大別されます。

まずは①省エネです。多くの企業ではこれまでに省エネ対策を進めてきました。さらなる省エネは容易ではないかもしれませんが、エネルギーコストの削減にも直結する重要な対策であることには変わりません。ボイラ蒸気配管の設定圧力の最適化、待機電力の削減、冷凍冷蔵庫の設定温度の見直しや最適化など、削減余地はまだあると思われます。(一財)省エネルギーセンター等でも最新の省エネ事例が公開されているので、参考になると思います。

②エネルギー需要の電化と③エネルギー供給の再エネ化については、セットで相乗効果が期待できます。化石燃料を直接使用している熱需要などを電気利用にシフトし、その電力供給は再エネ電力を主力とするものです。ガソリン車をEV車に置き換える、重油ボイラーを電気ヒートポンプに置き換える、とともに、電力は太陽光発電や風力発電によって賄う、などがわかりやすい例です。特に、熱需要に対応している蒸気ボイラーなどは、電気ヒートポンプへの切り替えが期待されており、欧州等では高温の熱需要にも対応できる電気ヒートポンプの開発が進んでいます。(図表4)

削減対策としては上述の通りですが、重要なことは、温暖化対策が「経済成長の制約ではなく、産業構造の大転換と力強い成長を生み出すその鍵となるもの」という認識を持つことです。「温暖化問題をきっかけとして、産業構造やライフスタイルが大きく変わりますよ、その結果、各企業のビジネスモデルも変わりますよ、求められる付加価値も変わりますよ」、というメッセージが政府の長期戦略には込められている、ということです。


5. 企業におけるカーボンニュートラルに向けた検討方法

企業におけるカーボンニュートラルに向けた取組みの方策はどのようなステップで検討すれば良いでしょうか。その一例を図表5に示します。

(1)CO2排出量の算定
何はともあれ、最初のステップとしてCO2排出量の算定・見える化が重要です。⾃社事業において、どの活動からどのくらいのCO2が排出されているのか、また⾃社のサプライチェーンに目を向けたとき、上流側と下流側で、どのような活動があり、それに伴うCO2排出量はどの程度なのか、について知ることが大切です。それによって、削減目標の設定や具体的な削減方策の検討が可能となります。

(2)カーボンプラインシング
排出削減方策を検討する際に、重要となる指標がインターナルカーボンプライシングです。炭素税や排出量取引など炭素の価格づけを行って排出削減を促進する政策などをカーボンプライシングと呼びますが、インターナルカーボンプライシングはその企業版で、企業内部で独⾃に設定、使用する炭素価格のことを言います。削減目標の設定に用いられ、省エネ推進のインセンティブや収益機会やリスクの特定、投資意思決定の指針等としても活用され始めています。

炭素に価格づけをすることによるメリットは、炭素税の導入など気候変動に起因するリスクを定量的に把握することができることや、投資判断の参照値として取り入れることでより低炭素な投資を促進することが可能になることが挙げられます。


6. SDGsと気候変動対策

気候変動対策とSDGsの関係では、No.13のゴール「気候変動に具体的な対策を」が当然当てはまるのですが、そのほかのゴールとも関係しています。例えば、再生可能エネルギープロジェクトへの投資やサプライチェーンでの再エネ導入は、No.7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」に貢献しますし、エネルギー効率の良い製品を開発し市場に投入することは、No.12「つくる責任つかう責任」へとつながります。(図表6)

一つの対策が一つのゴールだけに結びついているわけではなく、同じゴールを目指していても複数の方策があり、逆に、一つの方策がさまざまなゴール達成に貢献することも多いものです。


7. おわりに

2022年4月から、東京証券取引所の区分が新しくなり、「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場がスタートしました。このうち、プライム市場を選択した企業は、TCFD提言に基づく温暖化対策の状況について、説明が求められることになりました。今後は、スタンダードやグロース市場に上場している企業や、大企業とサプライチェーンでつながりのある中小企業においても、同様の開示が求められる流れになりそうです。

温暖化対策は、地球全体での長期的な総力戦です。何世代か後に地球に生まれてくる子孫たちのために、今できることに全員で取り組んでいきましょう。


図表3 パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略
(出典:パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略〈令和3年10 月22 日閣議決定〉)
     (クリックすると拡大します)


       図表4  削減対策のイメージ
(出典:省エネルギーセンター資料に基づき著者加筆修正) (クリックすると拡大します)


    図表5 企業における気候変動対策の検討フロー
(出典:著者作成)(クリックすると拡大します)







   図表6 気候変動対策と対応するSDGs 項目の例
   (出典:各種資料に基づき著者作成)
    (クリックすると拡大します)



1. はじめに

本シリーズも第6回目となりました。第1回目の企業の未来をデザインするからはじまり、脱プラスチック問題、中小企業にとってのSDGs、ESG投資、気候変動対策、それぞれの観点からSDGs推進のポイントが述べられてきましたが、今回はSDGsへの取組みを環境コンプライアンスの視点から眺めてみよう、というものです。


2. 忘れてはいけない「コンプライアンスなくしてSDGsなし」

はじめに、「SDGsの企業行動指針−SDGコンパス」の話から入りたいと思います。本書を手に取って下さる読者の皆様には既にお馴染みかもしれませんが、SDGコンパスとは、企業によるSDGsの取組みを支援するためのツールとして国連その他の団体が共同で開発したガイドラインです。
SDGコンパスは[1. SDGsを理解する][2. 優先課題を決定する] [3. 目標を設定する] [4. 経営へ統合する] [5. 報告とコミュニケーションを行う]という5つのステップで構成され、このステップに従って検討をすすめることにより、SDGsへの取組みに優先順位をつけ、実効性のある計画を立案し、その成果を効果的に公表することができる、というものです。さて、ここで注目したいのは、このSDGsコンパスの「ステップ1:SDGsを理解する」のセクションにある、以下の記述です。

<企業の基本的責任>
SDG Compass は、企業の規模、セクター、進出地域を問わず、すべての企業が関連法を順守し、国際的に定められた最低基準を維持し、普遍的な権利を尊重する責任を有するという認識の上に成り立っている。

この記述は、SDGsに取り組む企業は、人権、労働、環境などについて示した既存の規範的枠組み、原則、行動指針*を踏まえてくださいという考えを示しており、その中には関連法も含まれています。すなわち、コンプライアンスなくしてSDGsなし、法令違反をするような企業では、SDGsの入り口に立てませんよ、と言っているのです。

*「国際労働機関(ILO)多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」「国連グローバル・コンパクトの10原則」「国連ビジネスと人権に関する指導原則」などがあります。

では、「SDGs推進企業は環境コンプライアンスについてどのように向き合えばよいのか」、ということについて述べていきます。


3. 環境法令の「目的」を、改めて良く見てみると…

環境コンプライアンスの担当者がチェックするのは、たいていの場合「…ねばならない」「…してはならない」などと記述されている、いわゆる義務規定の条項だと思います。今回はちょっと視点を変えて、法目的に注目してみましょう。

法律には目的というものがあり、条文の中に明記されています。多くの場合、第1条に記述され、この法律によって何をしたいのか、事業者に何を期待するのかが記述されており、法を「つくる側」からのメッセージともとらえることができます(法の全体像を理解することに役立ちますので、担当者の方々はぜひ一読されることをおすすめします)。ここを読み解くと、法目的として目指す方向と、SDGsの17の目標の類似点を見つけることができます。例えば、水質汚濁防止法の第1条を見てみましょう。

法目的を読む(その1) 
水質汚濁防止法
(目的)
第一条 この法律は、工場及び事業場から公共用水域に排出される水の排出及び地下に浸透する水の浸透を規制するとともに、生活排水対策の実施を推進すること等によつて、公共用水域及び地下水の水質の汚濁(水質以外の水の状態が悪化することを含む。以下同じ。)の防止を図り、もつて国民の健康を保護するとともに生活環境を保全し、並びに工場及び事業場から排出される汚水及び廃液に関して人の健康に係る被害が生じた場合における事業者の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図ることを目的とする。
本法の目的で示す「公共用水域及び地下水の水質の汚濁の防止」は、まさにSDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」の下位にあるターゲット「6.3 汚染の減少、有害化学物質・物質の投棄の廃絶・排出削減、未処理下水の割合半減、安全な再利用の増加等による水質改善」で目指す「あるべき姿」に近いものです。本法は高度経済成長期に工場排水による水質汚濁が深刻な公害問題を引き起こしたことを発端として制定された経緯がありますが、その当時の水質問題がいかに社会の持続可能性を脅かすものであったか、と捉えることもできます。

次に、エネルの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)の目的を、2022年5月20日に公布された改正を反映した内容*(施行日は2023年4月1日)で見てみましょう。
*本改正により、法律名も「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」から「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」に変更されます。

法目的を読む(その2) 
省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)
(目的)
第一条 この法律は、我が国で使用されるエネルギーの相当部分を化石燃料が占めていること、非化石エネルギーの利用の必要性が増大していることその他の内外におけるエネルギーをめぐる経済的社会的環境に応じたエネルギーの有効な利用の確保に資するため、工場等、輸送、建築物及び機械器具等についてのエネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換に関する所要の措置、電気の需要の最適化に関する所要の措置その他エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等を総合的に進めるために必要な措置等を講ずることとし、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
こちらは、目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」のターゲット「7.3 世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増」と目指す方向が同じであるといえます。また法改正により法律名や目的に「非化石エネルギーへの転換」が追加されたことから、目標13「気候変動に具体的な対策を」にも関連するといえます。


4.  法整備によって解決してきた課題、新しく取り組む課題

SDGsの17のゴールの中には、日本国内だけに目を向ければですが、イノベーションや法整備によって課題がほぼ解決しているテーマも見られます。例えば(その1)でとりあげた水質汚濁防止法に関連した目標6「安全な水とトイレを世界中に」では、2020年における日本の水道普及率は98.1%、下水道、浄化槽などの汚水所施設の普及状況は92.1%となっており、高い水準に達していることがわかります(*厚生労働省データ)

ただし、このように解決済みと思われる課題であっても、法対応や技術の維持がおろそかになれば、あっという間に環境負荷は元にもどってしまうということは注意しなければなりません。環境コンプライアンスを維持するということは、一見SDGsと別の取組みのように見えますが、目標の維持を大きく下支えしているのです。


一方で、気候変動対応や資源循環、生物多様性など、未解決あるいは新たな課題に対応して整備され、又は改正を重ねている法律もあります。例えば(その2)でとりあげた省エネ法の改正では、非化石エネルギーへの転換を目的に追加し、気候変動対応を加速させるための大幅なバージョンアップとなります。地球温暖化対策推進法は、2021年6月に改正があり、パリ協定やカーボンニュートラル宣言を踏まえた基本理念が追加され、地域脱炭素化促進事業の認定制度が創設されました。

このように新たな課題に対応する法改正では、規制緩和などの特例措置が設けられている場合もあり、新たなビジネスチャンスにつながることもあるため、法改正動向を早めにつかみ、SDGsへの戦略的な取組みを行う上で乗り遅れないようにすることがポイントです。


5.  法に基づき策定される国の計画に注目。SDGsへの取組みのヒントも…

前出の「法の目的」と同様、順守義務をチェックする際にあまり目にとまらない(と思われる)環境法規制の条項として、「国の責務」「地方公共団体の責務」などや、国が策定する計画の根拠となる条項があります。
例えば、「環境基本法」の第15条には、国が環境基本計画を策定する根拠となる以下の規定があります。

第十五条 政府は、環境の保全に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、環境の保全に関する基本的な計画(以下「環境基本計画」という。)を定めなければならない。
2 環境基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱
二 前号に掲げるもののほか、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3 環境大臣は、中央環境審議会の意見を聴いて、環境基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 環境大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、環境基本計画を公表しなければならない。
5 前二項の規定は、環境基本計画の変更について準用する。
本規定に基づいて策定されている「第五次環境基本計画」では、「持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築」など6項目の重点項目について、SDGsのゴールとの関連性が整理されています。また各施策の推進にあたっては、「SDGsの考え方も活用し、環境・経済・社会の統合的向上を具体化」とあり、戦略的な取組みを促すものとなっています。
「循環型社会形成推進基本法」の第15条においても、国が循環型社会形成推進基本計画を策定する根拠となる以下の規定があります。

(循環型社会形成推進基本計画の策定等)
第十五条 政府は、循環型社会の形成に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、循環型社会の形成に関する基本的な計画(以下「循環型社会形成推進基本計画」という。)を定めなければならない。
2 循環型社会形成推進基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 循環型社会の形成に関する施策についての基本的な方針
二 循環型社会の形成に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
三 前二号に掲げるもののほか、循環型社会の形成に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項(以下略)

この規定に基づき策定されている第四次循環型社会形成推進基本計画(計画期間2020年度〜2025年度)では、SDGsの目標12「つくる責任つかう責任」のターゲット12.3「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる」に整合させた数値目標が設定されています。

このように、法に基づき国が立案する計画の中には、バックキャスティングの手法でSDGsへの取組みが埋め込まれている場合があります。

例えば脱炭素やシェアリング・エコノミーなどの具体的なキーワードや目標数値が示されている場合は、今後成長が見込まれる分野と捉えることもできます。企業は、自社での取組みを検討する場合、このような国の施策を参考にし、「同じ土俵にのっていく」ことも考慮するとよいでしょう。

国が策定するその他の計画の例として、エネルギー政策基本法に基づくエネルギー基本法、地球温暖化対策推進法に基づく地球温暖化対策計画、生物多様性基本法に基づく生物多様性国家戦略、などがあり、同じように取組みのヒントとして参考にすることができます。


6. まとめ 環境法規制を「攻め」と「守り」の両方からとらえる

最近、SDGsに取り組んでいるようにみせながら実態が伴わない「SDGsウォッシュ」についての厳しい指摘をよく目にします。同時に、残念なことですが、そうしたことを理由にSDGsに対する懐疑的な見方があることもじわりじわりと認識されています。SDGsの17の目標は、カラフルで楽しげなアレンジが施されていますが(バッジも目を引きます)、その前提となっている社会課題からアプローチすると見え方がかわり、貧困や気候変動、格差問題など、極めて深刻なものであることがわかります。

読者の皆様には、そうした課題をよく理解し、現在その課題が今どのようになっているかを見失わないで頂きたいと思います。国内では環境法整備によって解決が図られてきたものもありますが、それらについては引き続きコンプライアンスを維持する必要があります。SDGsへの取組みがウォッシュと言われないためにも、企業の成長に結びつく戦略的な方向性とともに、これまで地道に続けてきた環境コンプライアンスもおろそかにしないよう、経営者は攻めと守りのバランスのとれたリーダーシップを発揮することが求められます。

(参考)SDGsの目標・ターゲットに関連して、国内で整備されている環境法規制の例
     (クリックすると拡大します)



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