「JMAQA AWARDS 2020」
Award-winning organization
【JMAQA AWARDS 2020 受賞企業様 インタビュー】
不二製油株式会社
ISOと事業活動を直結することで、社会課題の解決に貢献
~品質、環境、食品でISO認証を取得し、ESG経営を推進~
取材先:不二製油株式会社
安品環・生産技術部門
安全品質環境監査室室長/ISO管理責任者 足立 朋彦 様 (右)
食品安全チームリーダー 津﨑 真一 様 (左)
日本能率協会審査登録センター(JMAQA)では、ご登録いただいている組織を対象とした表彰制度「JMAQA AWARDS」を設けています。
この表彰制度は、事業とマネジメントシステムを一体化させることで成長している組織の取り組みを称え、広く紹介することを目的としています。
第3回目となる「JMAQA AWARDS 2020」では、審査員による推薦組織の中から選考委員会の審議を経て、
コマニー株式会社様、株式会社ディスペンパックジャパン様、そして不二製油株式会社様の3社が受賞しました。
ここでは、不二製油株式会社 安品環・生産技術部門
安全品質環境監査室室長/ISO管理責任者・足立 朋彦 様、食品安全チームリーダー・津﨑 真一 様にお話をうかがいました。
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受賞テーマ「不二製油グループにおけるESG経営とISOの取組みについて」 |
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選考理由 |
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不二製油株式会社様は、大阪府泉佐野市に本社を置く、植物性油脂、業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材の事業に関する食品の開発製造販売している会社です。ISOについては、ISO9001を1996年から製品群毎に順次取得し、2014年にグループ会社を含め取得、ISO14001は2000年から事業所毎に順次取得し、2010年にグループ会社を含め取得、食品安全については、ISO22000、FSSC22000をステップ毎に順次取得し、2019年度に国内26工場で取得が完了しています。 今回、単なるモノづくり(製品の提供)ではなく、PBFS(Plant-Based Food Solutions)つまり植物性の食素材によって社会課題の解決を追求していくという決意を表明し、ESG経営を進めることで、持続的なグループの成長を果たすと同時に、社会の一員として持続可能な社会の実現に貢献することを目指している点が評価され、受賞となりました。 |
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不二製油株式会社様 企業概要 / 事業領域概要 |
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1950年創業の食品メーカー。2015年10月に持株会社制に移行し、社名を不二製油グループ本社株式会社に変更。不二製油株式会社は、製造販売に関わる事業を承継し設立、日本国内グループ統括会社となる。 設立:2015年(平成27年)10月1日 本社:大阪府泉佐野市住吉町1番地 代表者:代表取締役社長 大森 達司 事業内容:植物性油脂、業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材の事業に関する食品の開発製造販売 ◇事業領域概要 不二製油株式会社(以下、不二製油)様は、植物性油脂、業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材の4つの事業領域において、お客様とともにさまざまな「食」を社会に提供してきました。創業以来、食の素材の可能性を追求し、「食の歓びと健康」の実現に向けて挑戦を続けています。 ◇大阪湾に面し、関西空港が見える阪南事業所 |
1. 約150ページに及ぶ「サステナビリティレポート2020」で企業活動を公開
― ESG経営とISOのテーマを直結させた理由
不二製油グループは、社会の持続可能性に与え得る影響に対する考え方や取り組みを、広範なステークホルダーに向けて網羅的かつ誠実に報告することを目的に、毎年「サステナビリティレポート」を発行しています。2020年度版は147ページに及ぶPDF版が同社のホームページで公開されており、誰でも閲覧できるようになっています。同社の特徴のひとつである最高ESG経営責任者(C“ESG”O)のメッセージをはじめ、注力エリアとその取り組みなどが詳細に記載されています。
不二製油のISOの活用方法の特長は、ESG経営とISOの仕組みを一体化している点があります。その具体例として津﨑氏は、2019年度のESG経営における重点テーマを例として示しました。「製品開発を通じて解決に貢献する社会課題」と「事業プロセスを通じて解決に貢献する社会課題」の大きく2つのカテゴリがあり、それぞれ重点領域を設定しています。そして、重点領域の項目、関与する項目そのものがQMS活動(ISO9001)やFSMS活動(ISO22000、FSSC22000)、EMS活動(ISO14001)につながっており、テーマとISOが直結した取り組みとなっています。
■ESG経営・重点テーマにおける「QMS活動」
■ESG経営・重点テーマにおける「EMS活動」
■ESG経営・重点テーマにおける「FSMS活動」
まずQMS活動(ISO9001)においては、「食資源不足へのソリューション提供」を重点テーマの一つとしており、「食糧資源不足に対して私たちの食品素材ソリューションを提供していく中で、いかにサステナブルな製品開発を行うか。それが会社の基本姿勢です。具体的には、人口の増加や食糧危機、地球温暖化といった社会課題に対して、私たちが今まで培ってきた植物性食品、『Plant-Based Foods』と呼んでいますが、この可能性に着目して、それをひとつの大きなISOを介した製品開発として取り上げています」(津﨑氏)。
同様に、EMS活動(ISO14001)ではCO2の削減、水使用量の削減、廃棄物の削減などのテーマをISOの環境テーマとして位置づけています。これと連動する形で2030年に達成を目指す「環境ビジョン2030」を策定しており、それぞれの具体的な削減目標を設定して、ISOのEMS活動のテーマとして取り組んでいます。
そしてFSMS活動(ISO22000、FSSC22000)では、食の安全安心・品質を重点領域として不二製油全工場で食品安全の認証を取得する5カ年計画をたてて、2019年度末までに実現しています。
不二製油では、以前はISOの仕組みは事業との一体化という点では途上段階でした。ただサステナビリティの高まりやCSR(企業の社会的責任)が企業活動にとって欠かせないものになり、ESGやSDGsといった新たな概念への対応も必須となってきました。そこで、ISOと事業との一体化をいかに実現していくかに経営課題として取り組むようになり、少しずつ融合してきたという背景があるといいえます。こうしたISOと事業活動を直結した取り組みは、企業活動を取り巻く環境の変化が大きく影響していると津﨑氏は言います。
「この他にも、例えば環境においては不二製油グループとして新たな『環境ビジョン2030』を2018年に策定しています。まさに今、その活動のさなかにあるのですが、この取り組みでは、社内にESG委員会を取締役会の諮問機関として設置したり、環境・サステナビリティ関連情報の工場間の情報共有なども新たな組織で推進したりするなど、組織的な改革も実施しています」(足立氏)。
■「環境ビジョン2030」
例えば新しい商品の開発があれば、その素材を選ぶこと自体がそのソリューションに対応していると認識しています。企業活動そのものが社会に寄与しているという自負もあって、壮大なテーマを設定しています。ESG経営が社会貢献につながっているという認識ですね」(津﨑氏)。
SDGsへの取り組みは、多くの組織がどうすればいいか悩んでいると聞きますが、不二製油グループでは非常にうまく取り組んでいる印象があります。そのポイントについて聞くと、「昨年度は世界中のグループ会社からアイデアを募集しました。その結果、230件ほどのアイデアが集まりましたので、これを不二製油グループ本社のCEOとC“ESG”O の二人がひとつずつ審査し、アイデア賞、意識向上賞など10件が受賞しました。トップが評価、決定し実行していることが末端まで伝わっているのではないかと思います」と足立氏は答えてくれました。
■SDGsへの取り組みにおける社内でのアイデア募集
安全品質環境監査室室長/ISO管理責任者 足立 朋彦 様
2. 経営層だけでなく、現場もリスクや機会を理解して作業する
― 経営視点でのISO導入メリット
経営の観点でISOを導入したことで得られたメリットとして、例えば食品安全ではISO22000、FSSC22000の取得を2019年度に完了という目標を絡めて足立氏は説明してくれました。この取得の背景には、2020年6月に改正食品衛生法が施行され、その中に1年の猶予期間を経てHACCPへの対応が組み込まれたことを挙げています。ISO22000、FSSC22000について第三者である審査機関から認証取得することで、このHACCP準拠が達成されると同時に、対外的にもそのことを証すことができるようになりました。
ISOやFSSCのメリットについてさらに続けてくれました。「外資系企業様からはGFSIが承認した認証としてFSSC22000を取得して欲しいと言われることが増えており、取得自体、経営の観点でも大いに役立っています」と足立氏は言います。
さらに津﨑氏は、現場の視点のメリットにも言及しています。「不二製油ではISO 9001からスタートしていますが、ISOの導入によって現場にたくさんある文書や記録を体系化できました。様々な文書をより大きな視点で捉えることができるようになっています。これにより見直すべき部分や見直した点が明確になり、文書記録の見える化ができたことは大きな成果と感じています」(津﨑氏)。
こうした文書は現場で完結するものが多く、会社の方向性や事業戦略につながる目標活動とうまくリンクしていない面があったといいます。そのため、現場の方を集めてISOに関する研修会を開き、不二製油の経営方針の方向性や、リスクと機会は何かについて話し合うようにしています。こうした活動を通して、会社の方針と現場の活動目標を近づけることも、ISOの導入で実現できたことだと津﨑氏は指摘しました。
■不二製油グループのESG経営概念図
研修では、ワークショップも開催しています。ここでは、例えば生産部門のメンバーに、外部の環境や取り組むべきリスクや機会について、自分の言葉で書いてもらいます。サステナビリティレポートなどは、会社の上層部だけが動いているように思われがちですが、実は現場の方々が理解して作業することで、会社としての考え方を現場に落とし込むことができます。
この「自分で書く」ことは有効な手段だったと足立氏は振り返りました。以前は外部から講師を招いて説明をしてもらっていましたが、それだけでは自分事として捉えられません。色々な試行錯誤を経て、ワークッショップ形式の中でフォームへの書き込みという方法に辿りついたといいます。
■ワークショップの事例
3. 植物性食品のニーズは世界的に拡大していく
― 今後の活動に向けて
現在取り組んでいる、さらなる改善についてうかがうと、津﨑氏はISOの要求事項の文言、いわゆる「ISO用語」について挙げました。ISO用語は分かりづらいものが多く、現場ではどうしても難しいもの、ややこしいものという印象を持ってしまいがちで、事務局としても苦労している点であるといいます。これが自分たちの日々の作業に重要で、必要であることを認識してもらうために、より分かりやすいやさしい表現にできれば浸透しやすいと津﨑氏は言います。
食品安全チームリーダー 津﨑 真一 様
足立氏も同様の印象を持っており、例えばFSMSのCCPやOPRP、許容限界などといった普段は馴染みのない専門用語に関して、ワンポイントレッスンを実施しているといいます。毎回ひとつ用語を決めて、その意味を説明するための簡単なマトリクスを作っています。「現段階では、そこが一番苦労している点ですね」(足立氏)。
さらに広い観点では、「不二製油グループでは、PBFS(Plant-Based Food Solutions)は社会課題を解決するための考え方であり、それを一企業として実践して広く定着させるためには、ISOという仕組みを利用する事も有効な手段の一つであると考えています」と足立氏は強調しています。
■Plant-Based Food Solutions(PBFS)とは
このPBFSの分野では特に大豆は世界的に注目されているといいます。今後、世界的な人口増加に対し、動物を育てるために必要な穀物として大豆をベースにすることで、従来の9倍の量を供給できるといわれています。そこに不二製油が培ってきた大豆たん白だけではなく油脂技術を用いて解決していける、その考え方がPBFSなのです。
すでに Plant-Based Foodsは馴染みのあるものになりつつあり、ハンバーガーショップでは植物性のバンズがありますし、コーヒーショップではソイラテがスタンダードになっています。「今後は植物性食品が当たり前のように受け入れられる世界になるはずです。まさに私どもの技術がより生きてくるのです」(津﨑氏)。
足立氏は、「不二製油は、もともと南方系の油脂であるパーム油及び、パーム核油をチョコレートの代替油脂としての利用開発から始まり、更に、脱脂大豆から抽出した植物性蛋白質である大豆たん白の普及の一端を担ってきたというビジネスの歴史があります。
最近ではサステナビリティという考え方が一般的になっており、不二製油グループとしては代替食品を作ることが企業としての社会的責任につながる時代になってきました。まさに社会の要求と自分達の存在意義が合致しており、今後も今以上にあるべき将来へ向けて進んでいきたいと考えています」としました。