「JMAQA AWARDS 2021」
Award-winning organization
【JMAQA AWARDS 2021 受賞企業様 インタビュー】
濵田酒造株式会社
ISO・FSSCと「濵田フィロソフィ」でトップの意識を従業員個人まで浸透
~ たゆまぬ努力で“世界に冠たる酒”を目指す ~
取材先:濵田酒造株式会社
代表取締役社長
濵田 雄一郎 様
■鹿児島県産の原材料にこだわって本格焼酎を造り続けています。
日本能率協会審査登録センター(JMAQA)では、ご登録いただいている組織を対象とした表彰制度「JMAQA AWARDS」を設けています。
この表彰制度は、事業とマネジメントシステムを一体化させることで成長している組織の取り組みを称え、広く紹介することを目的としています。
第4回目となる「JMAQA AWARDS 2021」では、審査員による推薦組織の中から選考委員会の審議を経て、
株式会社草川精機、三協精密株式会社、濵田酒造株式会社、明治チューインガム株式会社の4社が受賞しました。
ここでは、濵田酒造株式会社の取り組みについて 代表取締役社長 濵田 雄一郎 様にお話をうかがいました。
■代表取締役社長 濵田 雄一郎 様
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受賞テーマ : Q・E・Fのシステムによる「年度方針表」に基づき 目標管理をトップから現場レベルまで首尾一貫して運用 |
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選考理由 |
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濵田酒造株式会社は、1868年(明治元年)に鹿児島県いちき串木野市に蔵を構え、150年以上にわたって本格焼酎を造り続けています。現在は伝兵衛蔵・傳藏院蔵・金山蔵の3蔵を有し、伝統・革新・継承のスパイラルを図りながら、焼酎、リキュール類の製造・販売を行っています。2019年には、世界三大酒類コンペティションの「IWSC2019」にて、独自の熟成技術から生まれた「香熟芋」によるライチのような香りが特長の本格芋焼酎「だいやめ~DAIYAME~」が焼酎部門における最高賞「トロフィー」を受賞しています。 日本能率協会審査登録センター(JMAQA)による認証は、ISO9001とISO14001は2006年より、ISO22000とFSSC22000は2018年より登録しています。 今回、複数のマネジメントシステム(Q、E、F:Quality、Environment、Food Safety)を対象に「2020年度方針表」から部署単位「目標管理表」に展開し、仕組みとしてトップから部門・個人レベルまで首尾一貫した仕組みで運用されている点が評価され、受賞となりました。 |
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■「傳藏院(デンゾウイン)蔵」の外観です。
1. 海外マーケット進出を見据え ISOとFSSCは有効な武器
濵田酒造は明治元年創業で、焼酎の蔵元として150年を越える歴史をもちます。本格焼酎は日本で生まれて500年あまりの歴史があり、世界でも独特な造りをする蒸留酒、日本の國酒です。その意識から、濵田酒造の事業テーマを「本格焼酎を真の國酒へ、更には世界に冠たる酒へ」を実現することとしました。
この真の國酒とはどういうものかを考える中で、1998年に最新設備を導入した蔵である「傳藏院(デンゾウイン)蔵」の建設準備に入るのですが、その際に、真の國酒を実現するためには、本質的な品質管理体制の強化が必要であるという考えに至りました。
■「傳藏院蔵バーチャル工場見学」 YouTubeで本格焼酎の製造工程を見ることができます。
YouTubeはコチラ▶ https://www.youtube.com/watch?v=X4c92IDXwBM
「その方法論として、ISO 9001と14001に取り組み、2006年に認証を取得しました。その後、全国に焼酎ブームが到来しましたが、その需要に品質面でも対応でき、濵田酒造の成長が始まりました」と代表取締役社長 濵田 雄一郎様は振り返ります。
傳藏院蔵を稼働していた関係から縁を持つことができた大手自動車メーカーや食品メーカー、小売業者と仕事を通じて直接あるいは間接的な指導を受け、大きな学びの機会を得ることができたと言います。こうした、日本はもちろん世界最高レベルの方々と交流することで、濵田酒造は本格焼酎を真の國酒のレベルへ磨いていくことにつながっていきました。
また、本格焼酎が全国津々浦々で飲まれるようになり、インバウンドのお客様も増えてきました。一方で酒類産業の国内マーケットは縮小していく見込みです。成長し続けるための新たな展開を考えたときに、海外マーケットは無限の可能性を秘めていると気づいたといいます。
しかし、海外マーケットは極めて有力な競争相手がしのぎを削っている世界です。そこで戦っていくために、本格焼酎はどうあるべきかを考えた結果、FSSC22000が有効な武器になるという認識に至ったといいます。「世界に冠たる酒を本気で目指すのなら、国際的に信頼度の高い食品安全マネジメントシステムであるFSSCは極めて有効です。そこで、審査を受けて認証取得に取り組むことを決意しました」と濵田様は言います。
2. 認証取得メリット
「市場評価の向上」「意識変化」が 組織として成長する「人のエネルギー」を生む
ISO 9001の認証取得も、単に認証取得の看板が欲しかったのではなく、「真の國酒足るべきレベル」「世界に冠たる酒であるべきレベル」を実動の中に落とし込んでいくことが目的でした。FSSC 22000もその延長線上にあるので、日常業務の磨き込みの中で目指せると考えたと言います。
FSSC 22000は、2016年春からシステム構築などの取り組み活動を始め、2年後の2018年11月に認証を取得しています。「予定通りに取得できたのは、現場の努力の結果であることはもちろん、認証取得が看板だけではない、規格が求めている事項と日常の実務を比較し、不足している内容を既に取り組んでいる業務に取り込み、業務の一体化を進めたことで、スムーズに導入することができたからです」と濵田様は言います。この取得までの活動を振り返ってみて、日頃からの現場の高い意識や取り組みに基づいて進めたので、大きな負担を感じることなくFSSC 22000を取得できたとも加えてくれました。
ISOやFSSCの導入のメリットについては、濵田様は次のように強調しています。
まずは、「市場における評価の向上」です。造り手自身がいくら品質・環境、あるいは食品安全への対策を実施しているとアピールしても、自画自賛だと受け止められるからです。第三者による認証を取得することで、評価がより確実なものになったと言います。
3. 全社意識統一の『濵田フィロソフィ』を形にしたのが
認証取得したISO・FSSCの仕組み
もう一つは、「従業員の意識の変化」です。認証取得し運用する本来の目的を理解できていないと、形式化に陥ります。たとえば、検証もしないで項目にチェックだけ入れるような管理になっていると、継続的な改善は望めず、「やらない方がマシという状態になってしまいます」と濵田様は言います。その上で次のように続けてくれました。
「現場の責任者たちが本来の目的についてきちんと指導しながら進めてくれました。そのベースになったのが『濵田フィロソフィ』です。すべての従業員は、フィロソフィをまとめた手帳を持っていますが、責任者が認証取得に伴う一連の活動の意味を現場で教育してくれています。単なる上辺だけの仕事ではなく、真に意味のある活動として担当業務に取り組む意識に変化した、これは非常に大きな意味がありました。『濵田フィロソフィ』を形にしたもの、これが認証取得した仕組みなのです」。
■「濵田フィロソフィ」を実現するツールとしてISO・FSSCの仕組みを活用しています。
濵田酒造が成長するエネルギーは、「濵田フィロソフィ」に基づいた「人のエネルギー」にしかありません。人のエネルギーがどのような意識から生まれるのかは、極めて重要なことです。
導入による「市場における評価の向上」と「従業員の意識の変化」が、まさに「人のエネルギー」を生んでいるのです。そういう意味で、導入効果は極めて大きいと濵田様は評価しています。
4. お客様満足を目指すプロフェッショナルになるには
参加意識を持ち「自分事」としての捉え方が必要
複数のシステムを1本の仕組みとして、トップから従業員個人のレベルまで一貫して展開し運用できている秘訣を聞くと、「いかに全員参加の経営にできるかです」と濵田様は強調します。新入社員でもベテラン社員でも、「自分事」として参加意識を持ち、それを各自が深めていく、すなわち仕事のプロフェッショナルになれるかどうかだと言います。
このプロフェッショナルとアマチュアの違いについて、「意識の差が大きいでしょう。プロフェッショナルの自覚があれば、技術も考え方もすべてが変わってきます。そしてその違いは、お客様を意識するか/しないかです。アマチュアは自己満足ですが、プロフェッショナルはお客様満足を考えます。この意識の共有が大切です」と解説してくれました。
プロフェッショナルになるには、地道な基礎練習を欠かさずにやり続けます。それをきちんとやり切っているからこそ、その上にオリジナルの工夫や独自の仕組み、システムなどが成立します。この基礎がなくなれば、その上に乗っている部分も崩壊してしまうのです。これらを実現するのがISOやFSSCだと濵田様は言った上で、お客様視点の重要性を強調しています。
お客様が評価するのは、濵田酒造の年度方針や部門は関係なく、「濵田酒造が造った焼酎」という商品です。この評価を最大にするためには、すべての従業員がプロフェッショナルになった上で、全部門が連携して、商品を仕上げることが必要です。
「濵田フィロソフィでも、自覚したプロフェッショナルな従業員を目指すとしていますが、組織における方法論としてシステムで実践するとなると、それは部門ごと、課ごと、係ごと、そして個人としての計画まで落とし込む仕掛けにする必要があるのです」。
つまり、自分事から自分たち事、そして全社事、すなわちお客様事という認識が大事であると濵田様は強調します。同時に、全社事が最終的に自分事になる。この認識も欠かせないものです。この現場からお客様までの首尾一貫した仕組みの効果的運用の実現のためには、従業員全員がプロの意識を持つことと、マネジメントシステムという仕掛けの両方が秘訣であるとしました。
このプロフェッショナルの仕事については全人格の指導になるので、人格を高めることも学べる職場でもありたい。特に焼酎は嗜好品なので、機能だけで評価されるものでもありません。こうした取り組みをしている濵田酒造が作った商品であることに価値を見出して、お客様に評価や支持をいただけるメーカーでありたいと濵田様は言います。そこまで行ければ、今後50年、100年という長期的視野で持続的な成長ができ、「世界に冠たる酒」の追求も可能になるからです。
■熟練の職人たちが五感を駆使して、ひとつひとつの工程をチェックしています。
■あらゆる工程に最新の設備を導入して、安心・安全で高品質な本格焼酎づくりに取り組んでいます。
5. 仕組みを通して新機軸の商品を開発
世界三大酒類コンペティションの一つで最高賞を受賞
今後の取り組みについて濵田様は、本格焼酎は500年以上の伝統を誇る日本の蒸留酒ですが、まだ完成しているわけではなく、そのポテンシャルはもっと高いはずであると言います。「人間の生活環境や時代の変化に対応して焼酎も変わっていく必要があります。事実、濵田酒造はその時代、つまりお客様のニーズや生活スタイルなどに合わせた商品開発をしてきたからこそ、150年にわたり継続できているのです」。
こういった商品開発の視点を持って、ISOやFSSCの認証された仕組みを運用する中で、新機軸の商品として「だいやめ~DAIYAME~」が生まれました。濵田酒造の150周年を記念して2018年に発売した商品で、「だいやめ」とは鹿児島弁で、「一日の勤労に感謝し、その疲れを癒やして、明日の活力にする」という生活文化を意味すると言います。
この「だいやめ~DAIYAME~」を含めて濵田酒造の商品における価値には、ボトルやラベルのデザインやパッケージ、あるいは輸送の品質など、味はむろんさまざまなものが含まれます。すなわち、ISOやFSSCとの仕組みや、その意味をしっかりする現場があって、初めてお客様にご満足いただける商品に仕上げることができると考え、取り組んでいます。
■「だいやめ~DAIYAME~」(左)が認証取得の成果の一つです。主力商品本格麦焼酎「隠し蔵」や本格
芋焼酎「海童」の品質や食品安全の維持、向上にもISOやFSSCの仕組みが役立っています。
商品開発においても、実際にISOやFSSCによる成果が出てきています。濵田酒造では「だいやめ~DAIYAME~」を、国際的な酒類飲料の三大コンペといわれる「International Wine & Spirit Competition:IWSC 2019 SHOCHU部門」に出品したところ、最高賞を受賞しました。海外からの評価も非常に高く、この賞をきっかけに新たなチャレンジの展開が進んでいます。
「外国の蒸留酒はアルコール度数が25度ではなく40度前後という文化があるそうです。『だいやめ~DAIYAME~』は25度でこれだけ素晴らしいのだから、40度のものがあったらもっとすごい」というアドバイスもあり、5月に「DAIYAME 40」という40度の商品について、鹿児島から世界に向けてオンラインで発表会を行ったところです。
実はこの商品は輸出専用商品でスタートするといいます。海外マーケットでまず他流試合をして、その評価によって日本にフィードバックする形のチャレンジになります。この発表会は、まさに濵田酒造が世界に冠たる酒を目指すことを表明するものになりました。
「『DAIYAME 40』は『濵田フィロソフィ』の仕組みの中で生まれた商品で、皆で一所懸命、真摯に取り組んできた成果が目に見える形で商品化されました。今後もこの仕掛けを運用することで、新たな商品が生まれる可能性があると思います」と濵田様は言います。
■ISO・FSSCによって生まれた「DAIYAME40」のチャレンジがはじまりました。
「DAIYAME 40」ブランドサイト ▶ https://www.hamadasyuzou.co.jp/global/jp/daiyame40/
6. AWARDS受賞で意義を分かりやすく伝えられた
審査はリスクを指摘してもらえる貴重なチャンス
濵田様は、今回JMAQA AWARDS 2021を受賞できたことを心から嬉しく思っていると言います。「今回受賞したことによって、私たちが今までやってきた、ある意味面倒くさい取り組みが、実はこんな意味を持っていたということが従業員にわかりやすい形で伝えることができました。その意味で全従業員が喜んでいますし、励みにもなっています。そして、これからどんどん新機軸の新しく素晴らしい商品を生み出していく力になるものとして、大いに期待するところです」。
最後に、JMAQAの審査・営業や認証制度への感想・要望としては、日々現場で実務として運用していく中で、課題はどんどん生まれます。すべてを完璧にオペレーションできるわけではなく、いろいろな失敗、ミスもいろいろ起こります。それを自分たちできちんとチェックすることは至難の業と言います。
「審査は、私たちの活動やマネジメントシステムの弱点など、不十分なところを指摘してもらうチャンスだと捉えています。ぜひこういう機会を通して、さらなる『濵田フィロソフィ』の強化・発展を目指していきます。その中に次の発展のチャンスが潜んでいるとも考えています」。