「JMAQA AWARDS 2021」
Award-winning organization
【JMAQA AWARDS 2021 受賞企業様 インタビュー】
株式会社草川精機
QMS(ISO9001)と強いリーダーシップで“町工場”の風土改革を推進
~「制度」と「風土」の両立で会社を活性化~
取材先:株式会社草川精機
専務取締役
加古 万千香 様
代表取締役 草川 博史 様(前列左)、専務取締役 加古 万千香 様(同右)
日本能率協会審査登録センター(JMAQA)では、ご登録いただいている組織を対象とした表彰制度「JMAQA AWARDS」を設けています。
この表彰制度は、事業とマネジメントシステムを一体化させることで成長している組織の取り組みを称え、広く紹介することを目的としています。
第4回目となる「JMAQA AWARDS 2021」では、審査員による推薦組織の中から選考委員会の審議を経て、
株式会社草川精機、三協精密株式会社、濵田酒造株式会社、明治チューインガム株式会社の4社が受賞しました。
ここでは、株式会社草川精機の取り組みについて 専務取締役 加古万千香 様にお話をうかがいました。
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受賞テーマ : QMSを活用して組織の「風土改革」を推し進め 経営指標の継続的な改善につなげる |
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選考理由 |
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株式会社草川精機(京都市南区上鳥羽麻ノ本町20-4)は、1962年に創業、金属・非金属精密機械部品の製造及び組立を行っています。 高精度、高品質の大型部品の切削加工を得意とし、アルミ、ステンレス、鉄、銅など多種の材質加工が可能です。創業以来の独自の技術で、液晶・半導体をはじめ食品、医療、運輸、航空宇宙関連などの多様な分野へ進出してきました。「至誠・努力・技術」をモットーとして、時代の変遷と時流に沿って常に多様なニーズに対応してきたお客様に信頼される「ものづくり」が強みです。 日本能率協会審査登録センター(JMAQA)による認証は、ISO9001を2003年より登録しています。 同社では、強いリーダーシップでISOを活用して「風土改革」を推し進めてきており、今回、売上高などの経営指標の継続的改善を実現している点が評価されました。 |
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1. 「町工場」ならではの課題の一掃に取り組む
草川精機がISO9001を活用して進めた「風土改革」の中心となったのが、専務取締役である加古万千香さんです。加古氏は1999年に事務員として入社しましたが、前職の会社が1994年にISO9001認証を取得していたことから、2002年にISO9001を担当することになりました。
草川精機がISO9001を取得するきっかけは、草川博史社長が、今後お客様と取引をしていく中で、製造業として町工場の一歩先を行く会社になるために必要になってくると考えたことでした。
しかし、当時の草川精機は、創業者である先代社長から引き継いだ、「ものづくり一筋」「純粋に、真面目にいい製品をつくる」ことを信念に、顧客からの信頼を得ることで、会社の規模が大きくなっていました。ものづくりには、惜しみない資源を費やすものの、「会社(組織と人)づくり」に関しては二の次で、組織としての機能、社員への教育、社員間のコミュニケーション等、直接的な利益につながらないことは、手付かずのままだったのです。また、草川社長ひとりが小さなことから大きなことまですべての判断を行い責任を持ち、社員は社長に依存する状態で、加古氏は「今のままでは絶対にISO9001は取得できない」と感じたといいます。
そこでISO9001に取り組むにあたっては、まず、草川社長がすべての業務をこなし責任と権限を持つ状態を変えていくことからはじめることにしました。具体的には、業務を分けて内容を明確にし、各セクションに責任者を任命し、「組織」と「ルール」作りに取り組みました。これはISO9001の要求事項にもありますが、仕組みで管理していくという点で非常に有効だったといいます。
2. ISO9001の取得が社員の「意識改革」と「風土改革」の出発点
同時に草川社長の言うことしか聞かない、仕事をする上での倫理観やモラルに差があるといった課題も明らかになってきました。またISO9001の導入にあたって書類を作成する経験がないなど、今までの習慣になかったことをしなければならず、ISOのために変わっていくこと、取得をめざすことそのものに、負担や不満に感じる社員も出てきました。こうした状況の中、取り組みをどのように進めるか、非常に苦労する中で見えてきたのが、「意識改革」と「風土改革」が必要ということで、これらのテーマに取り組む決意をしています。
加古氏は当時を振り返って、「『ISO9001の認証取得』という目標があったからこそ、改革が急速に進み『町工場』から『会社組織』へと変革できました。ISOはまさに大きなきっかけとなったのです」といいます。
取り組みを進める中で、ISO9001をベースとしたルールを作って管理する組織に整えていく過程で、社内でさまざまな問題が発生し、多くの退職者が出るという状況にもなったといいます。しかし、これは悪い面ばかりではなかったといいます。むしろ組織としてのリフレッシュにつながり、責任者は何をすべきかというルール作りがゼロから徹底されるなど、仕組みの導入がスムーズにいったからです。
次第に、制度や決まりごとが整い、ルールは守るものという意識が広がっていき、組織としてのマネジメントができてきました。こうした状況がISO9001の認証取得後、5年で定着したのです。
ただ一方で、依然としてルールを守らない社員がいることも表面化してきました。なぜ守らないのか、加古氏はいろいろ考える中で、その原因が教育だと気づいたそうです。
そこで、普通のことを普通にやり遂げることの意味を理解させる教育が必要と考え、「教育」と「面談」を徹底して実施することにしたそうです。
一般論ですが、教育が行き届いていないと、モラルが低くなり、仕事や生活環境にも影響があるケースもあるようです。社員のモチベーションを上げるためには、会社としての考えを行きわたらせる教育が重要だと考えたのです。もちろん社員各々にはそれぞれ価値観があるので、すり合わせていくためには面談も必要だと判断しました。
この教育体制を整えるためには、「ものづくり一筋」だった草川社長の理解が必要になりました。社長にとっての教育はOJTであり、仕事における知識でしたが、必要となるのは「仕事とは何か」を理解する教育です。もちろん、ISO9001でも教育は重要な要求事項の一つとなっています。そこで、加古氏は草川社長の説得に動きます。
「10年後、20年後を考えたときに、今のままでは会社が成り立たなくなる」と説明し、新たな研修制度の立ち上げにこぎつけました。加古氏は、社長の英断に感謝すると同時に、自身もカウンセリング資格を取って、キャリアカウンセラーの立場で社員との面談に臨むようにしたといいます。
こうした取り組みを通して、徐々にルールを守るという風土が整っていきました。そして、何より、草川社長自身がその変化を感じるようになり、今では、「教育」と「面談」は経営に必須であるという経営方針に変わっています。
3. 「風土改革」の加速にISO9001を活用
ISO9001の取得直後は、草川精機に合った独自のQMSを運用して、組織としての役割や責任の分担が機能していき、不適合や顧客クレームの削減など、目に見えた変化がありました。しかし、取得して時が経つにつれ、徐々に停滞していき、改善はあるものの、日常の業務をこなす毎日が経過していきました。そして、7年前、草川精機の存続を脅かす大きな課題に直面しました。いわゆる「事業継承」問題です。
一人でなんでもこなしてきたカリスマ性の高い草川社長の後、誰が事業を継承していくのか、という重大な経営問題です。加古氏は、草川社長から話があった時、正直、社長以外の人が経営をしていくことは、想像できなかったといいます。同時に、この問題と向き合ったことで、社長や先代の会長が人生と命を掛けて守り育ててきた会社を続けていくことこそが最も重要であるとの意識が、さらに確固たるものになったともいいます。
そこで「事業継承」という難題に立ち向かうにあたって、「チーム」として事業を継承する体制作りに取り掛かることを考えました。早速、草川社長に、誰か一人ということではなく、チームの人員に「経営者教育」を徹底して行うことをお願いしています。チーム体制導入の背景を加古氏は次のように説明してくれました。
草川社長は、長年の経験と天性の直感で判断する強いリーダーシップとトップダウンで社員を引っ張り、会社全体を成長させてきました。社員の中には草川社長のようになれる人はいません。そこで、個々が自立し、お互いを尊重し、足りないところをフォローし合うチーム、すなわち専門的な情報と俯瞰的な情報を持って、意見を出し合い経営判断をしていく体制づくりが必要だと考えたそうです。
現在、草川精機には幹部と呼ばれる経営者候補が、加古氏を含めて5名います。まずはこのメンバーで「チーム」を組み、経営層としての当事者意識を待ってさまざまな課題に取り組んでいます。方針やルールを話し合って決め、宿泊研修を重ね、社内の問題点を挙げ、レポートを書くことも課しています。こうした活動を重ねることでより強く危機感を共有し、さまざまな課題に対する意識を統一してきました。
ただこの後、「チーム」体制への移行で課題も出てきました。新体制を採り入れて、経営課題を解決するために、ISO9001のQMSを運用して、PDCAサイクルを意識し、実践していきました。しかしながら、創業以来から、根強く残る「ものづくりだけ第一主義」、幹部以外の社員に潜んでいる「局外者・第三者意識」の風土はなかなか払拭できず、さらなる改革が必要な状況に直面したといいます。
そこで新たな試みを採り入れています。それは、改革のために何をすべきか、まず会社の風土を把握するために、全社員(27名)無記名参加の「風土調査」実施です(株式会社エフアンドエム「会社の風土診断」を利用)。その結果、草川精機は「伸び盛り型」であることが分かったといいます。
■図表 「風土調査」の結果
「風土調査」結果の詳細
教育と面談に注力して、ようやくやりがい、高い動機づけ要因が浸透してきました。ただし、「衛生要因(労働条件)が落ちていくと不満足の要因になる」という結果もありました。労働条件を落とさないようにするなどの対応が必要であることが明らかになったのです。
調査で得た診断結果をもとに、強みと弱みの分析を行いました。強みは、88%の社員が「やりがい」を感じ、79%社員が「成長」を感じてくれていることでした。それらの残りの約20%の社員が、やりがいを感じ、成長を自覚できるように、ISO9001「7.2項 教育」にて運用している「個人目標設定シート」や、「教育計画書」などを工夫し、改訂しました。
そして、弱みは、『ストレス』についてです。職務中は常に感じている社員が30%存在しました。対策は、その数値を10%に下げる目標にして、以下の項目について個人面談を実施しています。
a.ストレスの特定:どういうことにストレスを感じているかの聞き取りを行う。(しっかり傾聴する)
b.ストレスの分類:特定したストレスについて分類する。
①解消できる(短期的・中期的・長期的解決)ストレス ②解消できないストレスに分類する。
c.ストレスの解消の方法:①解消できるストレスについては、期間を設定し、改善していく。解消方法については、従業員と一緒に考える。場合によっては、関係部門に協力してもらう。 ②解消が難しい、不可能なストレスに関しては、気持ちの切り替えを行う方法を一緒に考える。
d.ストレスの性質の理解:ひとつのストレスが解消、改善されても新たなストレスが出てくることを認識してもらう。ストレスよりも、「やりがい」「楽しさ」の方が大きく感じることができるように一緒に考える。
4. 研修はご褒美・面談はリラックス
草川精機では、リーダー研修を定期的に行っています。研修は決してやらされるものではなく、非日常の「機会」であり、「楽しい」ことを、演出しなければならないといいます。研修メンバーに選ばれると「おめでとう!」というようにしているのです。研修を始めたころは、もちろん自社だけで行っていましたが、受講したメンバーに変化が起きました。
すると同業社から「どうして変わったの?」と問い合わせがあり、研修の話をしたところ、「ぜひ一緒に参加させてほしい」と言われ、参加企業が増えていきました。最大4社合同で研修となり、とても刺激になったといいます。同業他社のメンバーと、悩みや課題を共有し、多様な意見の交換ができるからです。また、業務上でもここで得られた交流のお陰で、仕事がスムーズに進めることができたといいます。現在はコロナ禍で、今までのような研修ができないため、オンライン研修や少人数研修をしているそうです。
また、「面談」もいくつかに分類して行っています。たとえばこちらが伝えたいこと(査定・業務連絡など)がある場合は、伝える方が主になってきます。しかし、社員とのコミュニケーションとしての面談については、社員が話したいことを話せる場として、リラックス状態で安心して話せるように心がけています。自宅からコーヒーマシンを持ち込んで、コーヒーを飲みながら、面談をしたこともあります。しかし、ちょっと油断すると、こうした方がいいとか、こうするべき、みたいな指示をしてしまいがちなので、注意しているとのこと。そうなると、何も話してくれなくなりますから、といいます。
この面談で一番気をつけているのは、社員が「話しても無駄だ。解決しない」と諦めてしまうことです。とはいえ、言われたことを全て解決することは不可能です。だから、どのようにしたら、それが解決するのかを、一緒に考えるようにしています。自分たちの会社なのだから、自分も含めたみんなで解決しよう!と思ってほしい、社員全員が「当事者」であることを自覚してほしいと加古氏はいいます。
面談はまさにコミュニケーションの一つで、ISO9001の要求事項にもあることです。草川精機では発信型の内部コミュニケーションが多かったのですが、相手の話を聞く、話してもらうコミュニケーションに意識的に変えています。その理想的な割合は、「9:1」であるといいます。それにより、社員の考えを聞くことはもちろん、社員の存在や価値観を認める場にもなっています。
■教育(研修)の様子
5. 5S活動から自発的に「営業のできる工場にしよう!」という動きにつながる
今回の「風土改革」においては5S活動が大きな役割を果たしています。ISO9001の取得準備期間より、社内の整理・整頓・掃除等5S活動を推進してきました。大掃除については、棚の設置による道具の定位置管理などルール作りを進め、プロジェクトも立ち上げて、力を入れてきました。それまではルールもなかったので、取得当時は、工場内がかなり綺麗になった印象でした。
しかし、ISO9001の認証取得後、停滞期に入ったことは前述しましたが、5S活動も同様でした。加古氏は、他社の工場と比較しても、5Sが浸透した工場とは言えなかった、その原因は何だろうと考えるようになったそうです。
結論としては、「一連の取り組みを通して風土とは制度と似ているが違うものであり、両立することで会社の活性化につながることが分かってきた」といいます。その風土について、自発的なアイデア出しや掃除の徹底といったことを会社に根付かせるには、リーダーシップしかないと考えました。
2019年3月、幹部チームで社内の課題に向き合い解決する合宿研修を行った際に、目指すべき風土の具体的テーマとして「工場の5S」について話合いました。いろいろ議論する中で、工場が綺麗にならない原因のひとつが、「この状態が当たり前」となっていて、誰もが「違和感」を感じないということだ、今までの積もり積もった汚れを幹部だけで清掃してみないか、という提案をしたそうです。すると他4名のリーダー達は快諾してくれました。
早速翌4月から、月に1回休みの日に、創業時の導入以来の油汚れでドロドロになった機械設備を1台づつ、ピカピカに磨き上げることに取り掛かりました。その作業は思った以上に大変で、完了するのに、どれくらいの期間かかるだろうかと、途方に暮れたともいいます。
しかし、その幹部の姿を見て、社員が協力してくれて、人数が徐々に増え、最後には、15名になり、約1年で達成できました。と同時に、さらに大きな成果につながっていったのです。この活動をやり遂げたことで新たな目標が生まれたといいます。
それは「営業のできる工場にしよう!」という目標で、現在多くの社員が積極的にこのテーマに取り組んでくれています。2020年の大掃除では、社員の動きが変わったと草川社長が驚いたそうです。社員自らが、機械の上に登って磨いたり、機械が自動運転している間には、4階までの階段を1段1段磨いたりしてくれる光景があったのです。
加古氏は、まさにこれが風土の変化、「風土改革」だと実感したといいます。一連の取り組みを通して、「私自身は社長のように『命令は絶対』という強いリーダーシップは取れないので、それがなくても会社がうまく動くようにいろいろ工夫を重ねたことで、大きなきっかけでありポイントとなって風土改革が実現してきた」と振り返ります。
6. ISO9001を2段階で活用
制度整備の後、現況をインプットしてPDCAで風土改革
この風土改革の実現において、ISO9001がどのように役立ってきたか、加古氏が教えてくれました。
「まずISOを活用して制度を整えた後、現状を風土診断して社員の考えを把握して、そのアウトプットをISOのQMSにインプットしています。その上で、PDCAサイクルを回しており、制度の整備と風土の改革の二段階で活用をしていることも、草川精機における活用の特徴といえるでしょう」
■掃除の様子。それまではほとんど磨かれることがなかった機械の頂上面を徹底的に磨きました。
■「営業ができる工場とは?」について皆で意見を出し合って議論しています。
■掃除最終日。こんなに多くの社員が参加してくれました。
7. 管理会計を採用して
チーム作りと取り組みの結果は「損益計算書」で把握
草川精機のISO9001の仕組みでユニークな点をさらに挙げると、管理会計を採り入れたことです。加古氏は、「チーム作りと取り組みの結果は『損益計算書』で把握できる」といいます。会社・社員のモチベーションと技術は“体力”として、その体力測定の結果が「貸借対照表」、どれだけ頑張ったかの経過を「損益計算書」に例えて、成果を把握するようにしています。この2年間は、そのような数値化に取り組み、目標や結果を可視化していく管理会計の仕組みを作り上げました。
管理会計に取り組んだ背景としては、たとえば戦略を立てる時、設備を導入する時、人員を採用する時など、経営判断をするあらゆる場面で数値に基づく判断が不可欠だと考えたからです。そこで、管理会計の導入をプロジェクト化し取り組みましたが、加古氏は次のように考えたといいます。
「私自身には、社長のように、時流を読む感性や決断力がないため、数値で物を考えることは、とても重要だと思いました。今では、収集し分析した数値的な情報をどのように生かしてくかを『経営企画チーム』を結成して、日々考察しています」
もちろんいろいろ苦労はあったといいます。管理会計は作業員の工数をルール化することですが、機械による無人運転もあるので調整には苦労しました。また、従業員がその作業をいちいち入力する手間も発生しました。そうしたハードルを乗り越え浸透させることで、数字による可視化が可能になったのです。
8. ISO9001取り組み成果
売上132%増・クレーム90%減・不適合50%減
こうしたISO9001をベースとした取り組みを続けた結果、2013年と2019年の数字を比較すると、売上高は5.3億円から7.0億円と132%の増収、年間のクレーム件数は38件から4件と90%の減少、社内不適合及び工程内不適合の件数は125件から65件と50%の減少、協力企業不適合の件数は42件から10件と80%の減少、社内不良率は2.02%から0.16%と92%の減少と、大きな効果が現れました。
9. コロナ禍の取り組み
「ローラー大作戦」を経験することで営業力アップ
コロナ禍の影響が草川精機の業績にも出てきましたが、ここでも管理会計が役立っています。コロナ禍によって売上げが落ちている状況が、数字に表れ社内で共有され危機意識につながったからです。
早速、新しい取り組みとして2020年5月に「納期を絶対に遅らせない!」という緊急事態宣言を発出しました。これは転注対策で、コロナで仕事が減少し、各社仕事の取り合いが生じており、納期遅れを発生させると、競争に負け、転注される可能性があるためです。
続いて実施したのが、お客様と協力企業30社以上に「現状と今後の見通し」を聞くインタビュー調査です。当時草川精機では、仕事がいっぱい詰まっており、仕事が減少するという実感がなく、減っているという世間の噂とは乖離していました。そこでコロナ禍でどのような影響が出ているのか、生の声で知る必要があったといいます。調査の結果、非常に厳しい状況にあることが判明しました。現実に、その後3カ月ほど遅れて、だんだんと仕事量が減っていることを実感することになりました。
そこで急遽プロジェクトを組んで、「営業ローラー大作戦」を実施しています。今までのお客様を全てリストアップし、中にはダメ元のケースもあるが全てに営業をかけるというものでした。実はこの作戦には、数値目標はもちろんありますが、自分たちの仕事の再認識というねらいもありました。
あまり取引のないお客様に営業を掛けると、冷たくあしらわれたり、断られたり、迷惑がられたりといったネガティブな体験をする場面も少なくありません。それをチームとして、ポジティブに変換できる力をつけてほしいこと、そして、「お客様を大切にする」ことがどれほど重要なのか、再認識してもらいたかったという、裏目標があったのです。草川精機ではこれまで積極的な営業をしてこなかったため、このプロジェクトには営業のスタートアップ効果の狙いもあったといいます。
その成果は早くも現れてきています。ローラー大作戦を3カ月間実施した結果、新規営業獲得の目標額に対して353%の達成率を記録しました。これは普段の受注とは別のもので、本来は受注を想定していなかった売上です。これを冬期ボーナスの原資にすると宣言しましたが、会社にとってそれだけの価値があると考えたからです。
■「ローラー大作戦」プロジェクトチーム結成
コロナ禍対応の大作戦では目標額の350%を超える金額を達成。
10. 「Web工場見学」を素早く実現しお客様から大反響
コロナ禍のもと、ローラー作戦と並行して実施したのが「Web工場見学」です。これを実施するのはスピードが大事だと考えました。お客様に工場を実際に見ていただくことが、大きな営業ツールとなっており、そのために一年以上かけて工場を清掃してきました。ところがコロナ禍で、お客様に来てもらえない状況になったのです。そこで、コロナに関する公的な助成金を使って「Googleストリートビュー」で工場見学ができる仕掛けにチャレンジしています。
この取り組みでは、費用をなるべくかけないようにしつつ、他社がやる前にいち早くやることに意味があると判断し、発案後、2週間で実現させました。実際、公開してから、お客様からは予想以上の大きな反響があって話題になり、営業面での効果を実感しているそうです。
実はこの試みは、他の狙いがあったといいます。社員皆の手で工場を掃除した苦労の証として、また、社員の家族に、お父さんやお母さんの職場を見てもらえるようにしたい、という思いでした。自分たちの働いている会社を見てもらうことで、社員の仕事に対するモチベーションアップにつながっています。
■工場の様子。Googleストリートビューの「Web工場見学」は▶ここをクリック◀
また、コロナ禍を機に、様々なオンラインツールの活用も積極的に進めています。研修や商談では、早期にZOOMを採り入れました。全社員に慣れてもらうために、個別面談もZOOMで行っています。また、営業会議のやり方も大きく変えました。参加者による報告に時間をとる会議という形から、インターネットのコミュニケーションツールである「Slack」に移行し、報告は全てSlackに数値とともに書き込んでもらうようにしています。営業会議では次の1ヶ月のことを決めるのみになりましたが、コロナ禍においてスピーディな決定が必要と考えたためです。
さらに、人事採用も、今がチャンスだと考え、それまでの B to B の視点を B to C に変えて、やり方を変えています。たとえば、採用の求職者については、草川精機をアピールするお客様と捉え、選定でなく営業・広報と考えて、求人票を会社をアピールするパンフレットと位置付けました。このように発想を切り替えて「ミュージックビデオ風」の会社案内を制作したところ、3人の採用を実現しています。
振り返ってみると、これまで積極的に様々な取り組みを行い、失敗したものも多くありました。コロナ禍の影響で、先行きの不安が大きくなり、いつもどうしたらいいのかと、悩み模索してきたといいます。常に、社員が豊かになることを目標としてきましたが、大企業と比較し、中小企業は厳しいのが実状です。本当に社員を豊かにできるのかと常に問いてきたそうです。その上で加古氏は次のようにいいます。
「『コロナ禍で、今はどうしようもない、我慢するしかない』という声も聞きますが、こんな時だからこそ、できることがあるのではないかと、行動に移していくようにしました。今こそ、強いリーダーシップが求められると考えました。毎日の報道で、コロナ危機といわれている中、社員は十分に危機感を持ってくれたのです。今までできなかったことが急速に進められたのも、コロナ禍だからと実感しています」
11. ISO9001認証取得でお客様が増加
日本能率協会には今後も有益な審査を期待
加古氏にISO9001についての感想を聞くと、第三者による審査は非常にいいことであり、しかも継続的にみてもらえるメリットは大きいといいます。現在、草川精機は変革期にあり、さまざまな変化が起きています。それを第三者の目から、それが有効な活動なのかどうかを考えるヒントを得ることができるからです。
「JMAQA AWARDS 2021」を受賞したことについては、加古氏は「感慨無量です。正解かどうか分からないままISO9001をベースに手探りで風土改革を推進していた中での受賞ですから、神様がくれたご褒美ではないかと思いました」と話します。
そして今後、目指すものとして、「業界の分散化や、競合他社(協力企業)とのネットワークを密に強固にするなど、引き続き、さまざまなことにチャレンジしていきます」と語ってくれました。
最後に、「私たちは、まだまだ未熟でいろいろな学びと経験が必要だと認識しています。皆さんにとっては、当たり前のことができていなかったり、挑戦しても失敗したりを繰り返しています。しかし、どんなことでも真面目にPDCAサイクルを回し続けて、アウトプットしていくことは諦めません。
草川社長を中心に、幹部、そして社員が一丸となり、前に進んでいきます。無謀でも、バカバカしくても、それを許可し、温かく見守り支援して、失敗の責任を全てかぶってくれる草川社長には心から感謝し、そして一緒に参加してくれる社員の皆さんにも心から感謝しています。今後も継続して取り組んでいくので、ぜひ有益な審査をお願いしたい」と加古氏は締めくくってくれました。