「JMAQA AWARDS 2022」
Award-winning organization
【JMAQA AWARDS 2022 受賞企業様 インタビュー】
アップコン株式会社
「人材育成」で“自己研鑽とプロフェッショナル化”を図り
ISOと事業運用が融合した仕組みで全社目標を達成
取材先:アップコン株式会社
代表取締役社長 松藤 展和 様
技術部部長 / 内部監査室 吉村 曜人 様
「人材育成のための必須資格と資格給で従業員のモチベーションがアップし、ISOが業務に溶け込んでいたことで、TOKYO PRO Marketへの上場もスムーズに果たせました。さらに上のステージを目指してISOの強化と浸透を図っていきます」(松藤社長)
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【認証取得】 ISO9001:2005年 ISO14001:2008年 ISO/IEC27001:2017年 |
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【受賞概要】 |
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土木・建築施工会社であるアップコン株式会社は、地震や地盤沈下で傾いてしまった建物構造物などのコンクリート床の傾きを、特殊ウレタン樹脂を使用して短工期で修正する「アップコン工法(特許取得済)」を日本全国に展開しています。施工対象は、工場、倉庫、店舗、道路、住宅、学校、空港、港湾など幅広く、総施工数は2,800件以上になります。 今回の「JMAQA AWARDS 2022」受賞は、ISOの仕組みについて、「事業と一体化したシステムをトップ主導で構築、運用」を行い、「人材育成においても効果的に活用」している点が評価されたことによります。同社では、日常業務遂行の中にISOシステムを取り込んでおり、マネジメントシステムと事業運用を融合した仕組みを実現。目標管理においては、トップによる全社年度目標が、各部門の実務まで展開する仕掛けになっており、トップの方針・考えが従業員全員に浸透しています。「人材育成」も積極的に推進しており、さまざまな社内資格について全従業員に取得を推奨。各々のスキルアップについて社をあげて継続的に推進しており、2021年度の品質/環境目標のキーワードである「自己研鑽とプロフェッショナル」を実践しています。 |
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1. 創業後にISOを認証取得し組織作りに役立てる
長年の取り組みで業務にISOが溶け込み、株式上場もスムーズに
アップコン株式会社(以下、アップコン)は2003年に設立され、2005年にISO 9001を取得しています。創業から2年、従業員は10名程度の規模でしたが、認証取得に取り組んだのは、大きく2つの理由があったといいます。ひとつは、当時の建設業界の風潮でした。「業界には、ISO 9001を取得していないと受注しづらいという風潮がありましたので、設立後すぐに取り組み取得しました。ただ、取得しても維持せずに手放してしまう会社さんも多くありました。もちろん当社はISO9001の重要性を分かっていたので維持してきています」と、代表取締役社長である松藤展和氏は振り返ります。
もうひとつの理由は、起業の際に知人の経営者から「上場を目指すのであれば、最初からそれを意識した組織やシステムを整備した方が良い」というアドバイスをもらったことでした。「アップコンは2021年に東京証券取引所のTOKYO PRO Marketに上場していますが、上場前の会社に起こりがちな組織形態や経営システム等の変更も必要がありませんでした。ストレートに上場できたのはISOに対応したシステムがあったからです」とのこと。
ISO9001の認証取得に取り組んだ当初は、「そもそもISOとは?ということから始まり、解説本などを買って読んでもよく分かりませんでした。そこでコンサルタントの支援のもと、全員で勉強することによって取得することができました。設立して間もない時期に取り組んだことで、ISO9001の要求事項に適合した仕組みが、実は会社の組織やシステムを効率よく運営していく上で重要であり、しかも役立つものであることに気づきました。そこで、そこからISO14001、ISO27001へと対象を拡大していきました」(松藤氏)
2. 理想的なISOシステムを運用
ISOを徹底していくと、逆に書類も手間も減っていく
ISO9001を取得した直後は、「書類が増えるのではないか、手間が増えるのでないかといったデメリットを感じましたが、ISOを徹底していくと、逆に書類も手間も減っていくことが分かってきました。最終的には、ISOを運用していること自体も意識しなくなりました。それだけ実際の会社の組織やシステムとISOが密接に関係しているものなのです」と松藤氏は言います。ISOを深く理解して取り組んできたことで、日本能率協会からの依頼でISOセミナー講師を務めていただいたこともあります。
ISO 14001の認証取得については、アップコン独自の沈下修正「アップコン工法(特許取得済)」がそもそも既存工法よりもCO2の発生を90%削減しています。つまり、アップコンは創業以来ずっとCO2を削減し続けている企業です。環境に配慮している企業であること、そして社員の意識も高めることを目的に、2008年にISO 14001を取得しています。さらに情報セキュリティの観点からISO 27001を2017年に取得しています。
■アップコン工法の特長
地盤沈下などが原因で、沈下・段差・傾き・空隙が生じたコンクリート床。アップコン工法は、このような床を、操業を止めずに短時間で修正する新技術です。既設の床を壊さずに施工するので、従来工法(コンクリート打替え)と比較し、工期は約1/10と大幅に短縮。荷物・機械等の撤去や、大型プラントの設置も不要なので、操業を止めずに施工が可能です。
3.「JMAQA AWARDS 2022」受賞の感想と手応え
「報われた」という気持ちがさらなるモチベーションへつながる
アップコンでは今回の「JMAQA AWARDS 2022」の受賞を、新年度で新入社員も含めて全社員が揃っていた4月4日に社内発表したといいます。「入社して間もない社員はISO推進メンバーの苦労をまだ実感していませんから、ピンと来ていない感じでした。ただ、アップコンではISO 9001の取得以降、内部監査ができる資格を全員が取得するようにして、毎年交代で数名ずつ入れ替わってISO推進メンバーを経験しています。そのため、経験した人たちは『報われた』と感じていると思います」と、技術部部長であり内部監査室長である吉村氏は言います。
すでにISOが業務と一体化しているため、「普通に業務をしているだけなのに、こういう賞をもらえるのですね」という声も多かったといいます。「新入社員も含め、これから全員がISO推進メンバーを体験することになります。そのときに、先輩達のしてきた活動が受賞に結びついたことを実感するのではないでしょうか。AWARDSを全員の努力で取ったんだ。持っていて良かったという気持ちを抱くと同時に、これからの励みになると思います」(吉村氏)
4. 業務にISOを溶け込ませる秘訣
社内書類はすべて、いわゆるISOの書類も兼ねている
アップコンにおけるISOの取り組みは、すでに業務の一部として溶け込んでいます。一般的にISOの存在が認識されるのは、何らかの問題が発生したときに、それがまた起こらないようにISOの仕組みを回して、改善されているかどうかをチェックするときでしょう。例えば、2月に組織変更が行われており、それに伴い帳票やその押印欄も変えることになりました。ISOの書類が別に存在するなら、こうした変更を別途に行うことが必要ですが、アップコンでは、通常業務で使う書類がISOの書類もカバーしているので、そうしたことも不要です。業務において、実際に現地に出向いて事前調査を行い、会社に戻って見積を作成、それに沿った工事をする、といった流れがあります。これらに絡む書類もすべて、いわゆるISOの書類も兼ねているのです。
「私も新卒で入社していますが、ISOという名称は知っていても具体的なイメージはありませんでした。入社して普通に書類をやり取りしているのですが、ある日、そのすべての書類がISOであると気づいたわけです。もはやISOはアップコンで仕事が流れていく上で欠かせないものとなっているのです」(吉村氏)
ISOが溶け込んでいる他の実例としては情報受付表(★図表1 情報受付表)が挙げられます。何か問題が起きたときには、この情報受付表で問題に関する情報をまず把握し、内容に応じて是正が必要であれば実施します。具体的には再発防止処置を行い、同じ問題が再び起きないようしていきます(★図表2 不適合・再発防止報告書)。この一連の流れはISOのPDCAサイクルを回していることで実現しており、もしISOを運用していなかったら、やるべきことを見逃しているケースがたくさんあると吉村氏は指摘します。
「指に切り傷を負ってしまったという内容でも情報受付表に上げて、どうすれば再発防止ができるかを考えていきます。小さなことだから誰にも言わないといった対応だと何も変わりませんし、また同じようなケガを負う人が出てくるでしょう。本来再発防止できたことが見逃されてしまう、こうしたことを避けるのは非常に重要です。問題を起こしたことを責めないような雰囲気作りにも気を配っています」(吉村氏)
5. 社長が掲げる全社目標に向けてISOシステムを運用
企業努力を数字で表すことが求められる時代に有効な仕掛け
ISOが業務の一部として溶け込んでいる具体例としては、目標管理の仕組みにも表れています。アップコンでは各部署で毎年目標を立てるようにしていますが、会社組織全体の大きな目標は、社長である松藤氏が毎年決めています。それを2月1日の期初に発表するのですが、その決定に3カ月ほどかけるといいます。
ほぼ全員がそのタイミングで目標を知って、営業部や技術部など各部門がそれを受けて部ごとに数値化した目標を決めていくことになります。その目標に沿って課題をクリアしていき、3カ月ごとに進捗を見ながら取り組んでいきます。目標自体が業務と直結した内容なので、まさにISOの仕組みを活かしていることがうかがえます。
この目標を設定するには、各部門で目標に落とし込む最初の段階が、非常に重要であると松藤氏は指摘します。「現場が自分達で考えるように目標を立てますから、ISO 9001は比較的できるのですが、ISO 14001やISO 27001はなかなか難しいようです。あくまでISOの活動につながるものであり、かつ最終的には数字で管理できる、あるいは〇×で管理できるものでないと認めません。そして私の方で全体目標などとのズレがあった場合は修正しますが、基本的には各担当者に任せる形をとっています」(松藤氏)(★図表3 年間目的・目標一覧表、図表4 年度目標管理表)
6. 資格取得に報いる資格給制度を導入
個々のやる気を高めることが会社組織の力量アップに効果的
年度の全体目標については、昨年度(2021年度)は「自己研鑽とプロフェッショナル」でした。ねらいとしては人材育成に会社としてあらためて力を入れていくことを示したのです。その人材育成については、社員全員が「日本語検定3級」「健康マスター検定」、そして「ITパスポート」の取得を目指しています。ここでの狙いは、例えば日本語検定3級は高校卒業程度、社会人初級者程度というレベルなので、最低限のコミュニケーション能力を組織として共通化できることだといいます。現場で施工すればいいだけではなく、報告書を書く必要もあるし、お客様との会話などはまさに重要になってくるからです。
健康マスター検定については、アップコンでは「健康第一、安全第一、家庭第一」を基本理念としています。特に健康第一については、まず健康に対する理解が必要です。そこで、健康リテラシーの向上のために健康マスター検定を選んだわけです。ITパスポートについても、ISO 27001を取得したこともありますが、昨今はインターネットによるさまざまな事故・事件が起きているし、身近なことではミスによるメール誤送信もあり、組織・個人としてITリテラシーが求められます。「これら3つの資格を標準とすることで、同じ認識でスタートでき、コミュニケーションも円滑になります」(松藤氏)
この人材育成について、一連の取り組みによって業務面で成果がでてきています。例えば日本語検定の取得の取組み後、レポートの作成時間はこの2年間で1/2~1/3に大幅に削減され上司のチェック回数も減少してきています。
もちろん従業員が率先して取り組むような仕掛けづくりもしているといいます。アップコンの社員が日本語検定で全国第1位になったケースがあり、その際には報奨金が支給されたほか、資格給もつくようになります。これは他の資格も同様で、アップコン独自の社内資格について「公的資格及び力量登録台帳」(力量分)にまとめられており、自分にはどの資格が足りないのかが分かるようにしています。
例えば技術部では作業に必要な資格が複数あるので、アップコンでは取得を推奨しています。年功序列ではなく資格を取得することで資格給が増えていく仕組みです。それを、「公的資格及び力量登録台帳」(公的資格分)として公開しています。このように、力量と資格給を組み合わせることでモチベーションを維持しているわけです。そして、個人の能力の向上は、アップコンの組織としての外部からの評価の向上につながります。
■2021・2020・2019年 年度目標
7. ISOシステムによる改善や成果の実例
事故実例に再発防止策をとると同時に教育資料としても活用
長年、ISOシステムに取り組んでいることから、常に改善が行われているアップコン。その実例を聞いてみると、「まず事故の事例ですが、工事車両を駐車する際に、建物に接触してしまったというケースがありました。この時期には他にも車両系の事故が立て続けに起きていたこともあり、原因を追究して再発防止策を実施しました。ただ、この件に関して追加の施策を行っています。
内容としては、4トントラックの上部がぶつかったというもので、上を確認することは見落としがちになるということから、技術部でどこを注意すべきかを解説する動画を作りました。それを全社員に見てもらって教育資料として活用しています」(吉村氏)。動画なので分かりやすかったという声が多く、実際に事故も起きなくなったといいます。
また、作業現場での問題もいくつかありましたが、改善の実行につなげています。そのひとつのケースとして、吉村氏は材料を吸い上げるポンプの接続に緩みが出て、材料が飛散したという事例を挙げました。普通は緩まない場所なのですが、そこはチェックの対象になっていなかったのです。緩んでいないことが当たり前として認識されたままで、過信されていたわけです。そこで、結束バンドで固定して緩みを防止し、月例のチェックリストに追記したといいます。その後、同様の事故は発生していません。
それ以外では、見積りの改善がなされています。以前の見積りには作成の際に問題があったのです。基本的に、最初にお客様と接するのは営業の人間であり、現場を見て施工可能かを判断し、可能な場合には技術の人間が現場に行って測量・調査をします。営業はそのデータをもとに見積りを作成して打合せをした上で、契約になります。基本的にその後は営業がタッチすることはないので、営業がお客様とやりとりした内容について社内伝達に不備があると、現場で「言った・言わない」の問題が発生しかねないのです。
「そこで、ブルーシートというものを作りました(★図表5 ブルーシート)。これは文字通り目立つように青色の紙を使った書類で、営業から技術に渡すものです。このシートには見積り金額や面積、施工期間の他にも、非常に細かな注意事項やお客様が気にされていた点なども書き込み、さらに技術に渡すときに口頭で説明します。このブルーシートが担当者の間を廻って、最後に私がハンコを押して、そこで初めて施工ができるという仕組みです。情報の不伝達を極力避けようということは、まさにISOの通りに実施しています」(吉村氏)
見積り書類の内容は、アップコンが何年もかけて改良、改善を重ねてできたもので、現在も改善しているといいます。こうした紙の色分けによって、重要な帳票であることが一目で分かります。現在はブルーだけでなく、ピンクやグリーンもあるといいますが、ブルーは最も重要なものとなっています。これに全員が目を通し、技術部長が押印しないと施工できない。そしてその内容は日々、書き込みが追加され共有されていくわけです。
この情報の共有については、アップコンでは2~3年前から、営業がお客様との電話の内容をすべて記録し、整理しています。これにより、お客様からの電話を誰が受けても案件や進捗状況、確認事項などを把握できるようになり、その場で対応できるようにしているといいます。
さらにISOのメリットとして、2021年、TOKYO PRO Marketへの上場時にあったと松藤氏はいいます。その際には監査法人や証券会社の方たちがいろいろと鍛えてくれたそうで、「上場にあたって基本的な内部監査の問題、組織の問題は、長年ISOに取り組んでいたことでクリアしていました。ISOを導入していない会社ではゼロから組み立てていかなければなりませんので、上場を目指す際には担当者が徹夜をするという話も聞きます。それをすんなりと進められたことは、ISOに取り組んできたおかげです」(松藤氏)
最後に今後の取り組むテーマをうかがうと、松藤氏はTOKYO PRO Marketというステージに上がったので、さらに上のステージを目指してISOの強化と浸透を挙げました。ただし現在意識せずに回っている状態なので、今の仕組みの継続が重要であると言います。その上で、SDGs、ESGなどのサステナビリティ分野への取り組みもさらに進めていくと付け加えました。