「JMAQA AWARDS 2023」
Award-winning organization
【JMAQA AWARDS 2023 受賞企業様 インタビュー】
西田工業株式会社 竜洋工場
託児所併設など職場環境を重視
従業員満足の向上が業務改善につながり
生産ロスコストの低減が実現
取材先:西田工業株式会社 竜洋工場
製造部 部長 杉本 敬吾 様
西田工業株式会社は、金属切削を主体とした精密部品製造の分野において、 静岡県西部の二輪車メーカーの発展と共に成長してきました。
切削加工は、高精度な工業部品製造に必要不可欠であり、 長材からの加工に留まらず、 鋳造品加工・鍛造品加工・表面処理・研磨など、
社内外のネットワークを駆使し、一貫生産体制の充実を進めてきています。
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【認証取得】 ISO9001 : 2009年取得 |
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【受賞概要】 |
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ISO 9001認証を14年維持
組織全体の成長を後押しツールとして活用
西田工業株式会社 竜洋工場(以下、西田工業)は2009年にISO 9001を認証取得。13年以上にわたり認証を継続しています。ISO9001に取り組んだ大きな理由は、長年一緒に歩んできたお客様をはじめとして顧客から強い要望があったことから、いい機会と捉えて取得したと杉本氏は言います。
「当時、初めての認証取得に向けて、コンサルタントのアドバイスを元に品質マニュアル等を作成していきました。ただ、ISO9001に対応した品質マネジメントシステムを構築した後、実際に運用してみると、文書内容と現場の作業には少なからず差がありました。現場との乖離が出ている面があったので、その差を近づけるために継続的な改善を行いながら、今に至っています」(杉本氏)。
お客様に安心・安全な製品やサービスを提供することはとても大事なことですが、お客様からの期待や要求に応えていくことが最も重要なことだと考えていると言います。
「ISO 9001は、期待や要求に応えていくことを通して、組織全体の成長を後押ししてくれるツールだと思っていますので、今後も続けていきたいですね」(杉本氏)。
継続的改善の実現「ロスコスト」を算出
ロスコスト160万円が4万円台へ
西田工業では、PDCAサイクルをベースとした継続的改善によって品質基準の厳しい顧客のクレームを著しく削減して、顧客満足の向上を図っています。主要な顧客であるYHSJ(ヤマハ発動機)社への納品製品の品質状況では、社内不適合削減と是正処置プロセスを丁寧かつ着実に実施して、継続的改善を実現しています。
この改善の指標として、不具合やクレームなどに要した費用として本来必要なかったはずのコスト、所謂ロスコストとして計算するようにしました。「要するに、お客様に迷惑をかけてしまった金額ということです。このロスコストが最も多かったのが2019年で、159万1,000円でした。不良数も2,100個と、まったく恥ずかしい数字でした」と杉本氏は当時を振り返ります。
この数字を受けて、西田工業では2019年から本格的な対策をスタートさせました。「まずは現状把握から始めました。ロスコストがどこで発生しているのかを徹底的に調べて職場グループを絞り込み、その原因を調査することにしたのです。その結果、ほぼ決まったグループで不具合やクレームなどが発生していることが分ってきました。そこで社を挙げて、該当グループに対して集中的な品質改善に取り組んでいくことにしたのです」(杉本氏)。
ロスコストが多かったグループは、5つのうちの2つでした。その2つのグループに対して、重点的に昼礼を実施することにしています。この昼礼では、私自身も参加して、グループの人たちに、いつもと違うこと、困りごとを挙げてもらいました。まずは各々が考えていること、感じていることを話し合える場を作り、コミュニケーションを高めていきました。打ち明けやすい環境を用意して、自分だけで判断しないことを徹底し、何かあったら気兼ねなく相談できる、こうした職場文化を醸成していったわけです。
該当グループの職場ではコミュニケーションが高まり担当者同士が話し合うことで、不具合やクレームの原因が見えてきたといいます。実はそれまでもいつもと違うことをしてみたり、刃物や設備を変えてみたりという工夫は重ねていました。担当者なりに工程内の不良を減らすための前向きな努力だったわけです。その結果、思いがけない不良が出てしまっていたのです。事前に相談してもらえれば、杉本氏も対応できたわけで、こうした情報も共有していったのです。
この一連の取り組みを重ねた結果、翌年の2020年にはロスコストが64万円と40%削減、不良数も半分にすることができました。2021年には、さらに30%削減してロスコスト49万7,000円、不良数も340個と1/3になりました。そして2022年には、ロスコスト4万2,000円と1/10まで削減、不良数も7個まで減り、非常に高い効果が得られたのです。(★図表1)
ヤマハ発動機様グループ各社からも、「ロスコストが非常に良い状況。今後も維持してほしい。成功事例になっている」というコメントをいただいており、顧客満足につながっています。
積極的なコミュニケーションの推進
品質に対する意識の更なるアップにつながる
紹介したようにグループ内でコミュニケーションを図っていくことで、さまざまな結果が得られています。相乗効果の一つとして「技術の共有をしたらどうか」、「こんな刃物を使ってみたらどうか」などと、不良対策につながっていきました。職場のみんなで取り組む姿勢が明確になることで、個々の品質に対する意識が従来以上の高まりにつながったのです。「この地道な取り組みこそ、2022年の大きな成果につながったと考えています」と杉本氏は分析しています。
同様の取り組みは、社内だけでなく社外にも広げていっています。「例えば、お客様ともコミュニケーションを密に行っています。常に状況を情報共有することで、新しい取り組みや大きな変化に対して事前に把握していただけます。お客様も、いきなり言われるより事前に伝えることで理解を得られたり、ご要望をいただいたりできるようになります。まさにコミュニケーションの重要さを実感しています」(杉本氏)。
もともと、担当者の各個人は必要とされる技術を持っており、その技術を活かして設備などの段取りを行い、製品を作っています。こうした状況が逆に、打ち明けづらかったり、自分で判断しないといけないといった職場の雰囲気を醸し出す一因になっていたともいえます。常にコミュニケーションを取っていくことを企業文化として根付かせたことで、各個人の考えを共有して前向きに改善を進めていくように意識が変わり、それが大きな成果につながったといえます。
「昼礼を始めたことについても、最初は疑問を持たれたり、時間がもったいないといった声もありました。しかし、毎日コツコツやっていくことによって、私と同じ気持ちになってくれる方が段々増えてきました。今はそれが習慣化されたので、私は参加していません。グループリーダーを中心に自発的にグループで昼礼を行い、必要なことがあれば私に報告する仕組みになっています」(杉本氏)。
従業員が働きやすい環境へ整備
『オベルジーヌ保育園』を工場前に併設
西田工業では、2020年3月、自社運営の保育園『オベルジーヌ保育園』(★下記写真)を工場の前に併設しました。主な目的は、やはり女性従業員の働きやすい環境を整備することでした。その背景には人口減少による労働力不足の深刻化があり、今後ますます女性の活躍が求められる社会になっていくこともありました。
「保育サービスを提供することで、子供を預けながら働くという選択肢を提供できます。これにより、育児中の社員の離職率を下げたり、復帰を早めたりすることができ、女性の活躍を後押します。多様な働き方に対応できるという企業メリットもあります。さらには、地域枠の活用で若者の移転を防ぐという地域貢献にも一役買えると考えました」と杉本氏は言います。
「安心して仕事に励んでいただければ、良いものが作られます。それは会社にとってもメリットですし、充実した気持ちを持って職場で働いていただいて、お子様と一緒にお家に帰って、また明日会社に出て頑張っていただければ、それだけでありがたいと思っています」(杉本氏)。
この『オベルジーヌ保育園』のユニークな点としては、園と地域社会との橋渡しとして、第三者委員会*を設置していることが挙げられます。
*注:第三者委員の構成メンバー:地区民生委員/近隣企業の運営者/大学保育園学科講師/他の保育園の運営者
委員会を設置したねらいについては、地域に根差した企業になるためには自分たち運営する保育園において、問題発生時に、双方で意見交換し解決に努める事を目的とし、すぐに連絡を取り合い、話し合いの場が必要と考えたからです。西田工業が従業員、顧客、そして地域社会という多様なステークホルダーに配慮している姿勢が表れています。
■工場前に併設されている『オベルジーヌ保育園』
広報誌にマネジメント関連の数値を掲載
自社状況の情報をみんなで共有
また、『NISHIDA NET』(★図表2)という社員向け広報誌を毎月制作し、全社員に配っています。この広報誌の誌面には、当月のスケジュールと品質状況に加え、稼働率や労務費、各自の工具代や修理費なども掲載しています。これを従業員に読んでもらうことで、自社の状況も共有することができます。これも社内コミュニケーションの活発化につながり、さまざまな成果につながる一つの要因になっています。
「みんなでいろいろな情報を共有するような雰囲気作りが大切だと考えています。結果として、女性社員が増えています。女性社員がいると職場が明るくなりますし、話しやすい環境の構築に一役買っていただいていると思っています。なお職場の雰囲気ということでは、女性の働きやすい環境の職場づくりに取り組んできた成果として、静岡県より『男女共同参画社会づくり 宣言事業所・団体』の登録証を受けています」と杉本氏は取り組みよる多くのメリットを挙げています。
取り組みによる社内の変化
「できる/できない」ではなく、常に挑戦できる方法を見出す
様々な取り組みを結果につなげている西田工業ですが、上記で紹介した以外にも多くの変化があったといいます。杉本氏は特に大きい変化として、やはりコミュニケーション関連を挙げました。ここ3年はコロナ禍で社員旅行や慰労会などの社内イベントを開催できませんでしたが、最近は行動規制も緩和されてきたので、イベントを再開し始めています。
例えば、色々な設備メーカー、刃具メーカーが集まる名古屋の展示会「どてらい市」を見に行き、勉強がてら名古屋観光もしました。また昨年末には、初めて保育園と西田工業の合同忘年会も実施しています。職種が全く違うので、お互いのことを知るいい機会になり、こういったことも組織全体のコミュニケーションの活発化につながっているのです。
続いて「JMAQA AWARDS 2023」受賞の感想をうかがうと、「本当に栄誉ある賞をいただき、心から感謝申し上げます。社員一人ひとりが日々の業務に対して真摯に取り組む姿勢が、実を結んだ結果と思っています。社員一同喜んでおります。今後の業務に対しても良い影響を及ぼすと感じています。また顧客や取引先からも称賛の声が続々と届いています」と杉本氏は答えてくれました。
今後の取り組みについて杉本氏は、「年々お客様からの要求、要望が高まっており、より付加価値の高いもの、複雑なものが求められてきています。お客様からの要望や欲求を満足させるために、常にPDCAサイクルを回して期待に応えていくことに社を挙げて取り組んでいきます。『できる/できない』ではなく、常に挑戦できる方法を見出しながら、お客様と一緒に進んでいきます。そして会社としての付加価値を高めていきたい」とまとめてくれました。