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事業継続マネジメントシステム:ISO22301 取り組み事例

CASE.1

【連載:効果的な運用事例 九鬼産業株式会社様 [ISO22301]】
食品安全MSの経験やノウハウがBCMS導入にプラスに働く
新型コロナウイルス感染症にも素早い対応を実現

取材先:九鬼産業株式会社
                    総務部長 BCMS責任者 相馬信雄 様(右)   
          総務部 水谷祐輔 様(左) 



三重県四日市市に本拠を置く九鬼産業株式会社様は、創業1886年(明治19年)の老舗です。ごま油やいりごま・すりごまなどの食品ごま、ねりごま、ごま加工品などの様々な「ごま製品」の製造・販売を行っています。三重県四日市市の本社工場と菰野町の竹成工場の2つの工場、全国4カ所の営業所を持ち、従業員数は190名です。最近では、ヘルシーセサミを使った製品「黒ごまラテ」を発売し、好評を博しています。(右写真は“黒ごまラテ”と家庭向け商品

ISO22301「事業継続マネジメントシステム」とは?ISO22301「事業継続マネジメントシステム」とは?

マネジメントシステム規格認証については、1999年のISO 9001を皮切りに、ISO 22000、FSSC 22000、ISO 22301、JFS-Cと、多くの認証を取得しています。特に、ISO 22301は国際規格発行後、早期に取得しています。
今回、九鬼産業様のBCMS(事業継続マネジメントシステム)責任者である総務部長の相馬信雄様と、総務部でBCMS導入の実務を担当した水谷祐輔様に、新型コロナウイルスへの対応を含めて、ISO22301に対応したBCMSについてお話をうかがいました。(右写真は本社工場全景)


ISO22301「事業継続マネジメントシステム」とは?

1. 国際規格化されたばかりのISO 22301を認証取得

−ISO 22301認証の取得、維持の目的についてお聞かせください。

九鬼産業ではISOマネジメントシステム規格への取り組みを積極的に実施してきました。1999年のISO 9001(QMS:品質)の認証取得に始まり、2008年にISO 22000(FSMS:食品安全)、2010年にISO 9001(移転)、2012年にはFSSC 22000(食品安全)、その上で、2014年にISO 22301(BCMS:事業継続)を取得し、さらに2017年にはJFS-C(食品安全)を取っています。最初のISO 9001を除く5つの認証を、日本能率協会審査登録センター(JMAQA)から取得しています。

なお、グループ会社である九鬼ファームでは2018年に、ASIA-GAP(食品安全、環境保全、労働安全、人権福祉、農場運営)を取得、ごま分野では第一号となっています。

−いくつもの認証を取得いただいております。

ISOマネジメントシステムは、その体制構築や環境整備などにおいて社内のレベルアップに非常に有効だと認識しています。そこで品質に続き、食品安全に関するさまざまな認証を取得してきました。さらに社内のレベルをもう一段向上させるために新たな認証がないか探していたところ、ISO 22301が発行されたという情報を得て取り組もうと考えたのです。
   

 

●BCMS責任者である総務部長の相馬信雄様

   

 

2. 経営方針にISO 22301の要素を加える

-ISO 22301取得の取り組みについてお願いします。

当時は国際規格として発行されたばかりで情報が少なく、コンサルタントの協力を得ながら構築しました。食品安全や品質は取得してきましたが、事業継続(BCP)の観点では初めてでしたので、取り組みの当初は「何をすればいいのか」と大いに悩みました。

そして実際の運用では、各部署の職長や実務担当者を中心にBCMS委員会を社長の直下に設置して取り組むことにしました。BCPは、文字通りに事業の継続を脅かすさまざまなリスクを想定して、それぞれに対策を設けて、実施、管理していくものですが、なかなか自分事として捉えられず、導入当初は、活動自体がなかなか進まない状況が続きました。

-そんな状況がどのように変わってきたのですか。

ここ1~2年で意識付けが進んできています。規格の運用自体に慣れた事もありますが、「どのようなリスクがあって、それが自分たちの仕事にどのように影響し、それに対してどのような準備が必要なのか」といった事が分かり始めたことが大きいですね。理解が進むことで、各部署の活動が現場にあったものになってきました。

複数の規格を運用する為、ISOに係る業務は複雑になりがちです。そこで全ての基となる方針はシンプルかつわかりやすく設定しました。もともと九鬼産業の経営方針は、品質方針、食品安全方針を兼ねていますので、認証取得に合わせて事業継続方針も兼ねるように内容を一部変更しました。経営方針は次の通りです。

 1.安全・安心で美味しい胡麻製品を常に責任を持って提供し続け、人々の生活に貢献します。
 2.物事に対して正々堂々と対処し、常に取組みを見直して改善し続ける人間集団を目差します。
 3.顧客に提供する製品の品質保証、管理体制を確立し、法遵守いたします。
 4.コミュニケーションを大切にし、顧客や取引先の繁栄、社員や我々をとりまく人々の幸福に貢献します。

また、BCMSが加わったことで、マネジメントシステムの運用体制も刷新しています。それまでは社長をトップとして、その直下にISO 9001・ISO 22000・FSSC 22000における品質安全委員会を設置していました。

この形をISO 22301に対応するために、新たに社長の直下にBCMS委員会を設置し、そこで会社全体の事業継続に関するシステム運用について検討するようにしました。
この2つの委員会での決定事項を、現場のシステムに落としこむ流れをとっており、実務を反映させる体制にしています。

                            ●マネジメントシステム運用体制図 



3. 演習と教育を充実させて効果的な事業継続を目指す

-BCMS委員会は日々どのような活動をしていますか。

BCPのマニュアルは部署毎(業務別)で作成していますので、実際の運用はBCMS委員を中心に各部署で行っています。構築後は、各規定の有効性の確認が中心で、そのためBCPに関しては内部監査や演習および教育が中心になります。当初は「何をすればいいのか分からない」状況でしたが、業務の性質から先進的な取り組みをしている部署もあったので、その内容を共有して方策を考えながら、全社に展開していきました。BCMS委員会は、各部署の活動をまとめ、全社的な方針や方向付けを行うことが大きな役割となります。

具体的には、三重県は南海トラフ地震の影響が大きいとされている地域ですので、まずは地震の影響を想定してBCPを策定しました。近年では台風やゲリラ豪雨等による水害や、大雪により交通に影響のでる雪害が毎年のように発生しています。様々な災害が発生する度に、想定を見直しBCPのテーマを広げてきました。

4. 独自の人材育成制度でマネジメントシステムを理解

-演習や教育の内容について教えてください。

教育や演習に関しては、そもそも当社の従業員はベテランが少なく若手が多いため、技術の継承や知識・スキルの向上が急務と考えておりました。そこで、ISO9001や22301の要求事項4.1にあたる「外部及び内部の課題」を明確にするため、「外部内部の課題一覧」を作成しています。その中の「内部の課題」として、従業員(特に若手)の人材育成を自社の経営上の課題として位置づけました。

私どもの仕組みでは、当社では外部内部の課題についてトップの想い、利害関係者のニーズや期待などを踏まえて、全社の「行動目標」(リスク及び機会の取組み)を設定し、各部門でこれらの行動目標を達成するための部門別年度目標を策定します。

先ほどの人材育成についても、各部署で計画を策定して取り組み、結果を評価し、マネジメントレビューにて全体の「行動目標」に対する評価を行い、次の目標につなげていくシステムになっています。

                         ●外部及び内部の課題を展開する仕組み



人材育成に関する具体的な取り組としては、「資格取得制度」「OJT教育」「会議を利用した教育」「従業員へのISOマネジメントシステム教育」「模擬演習を通じた力量向上」を実施しています。資格取得制度では、公的なものや業務に必要な資格を取得した従業員に対して、資格手当てを支給しており、資格取得の費用も会社が一部負担しています。そのために危険物取扱者・ビジネス能力検定・マイクロソフト検定・食生活アドバイザーなど、いろいろな資格取得が盛んです。

-ご紹介いただいた中でBCP関連のものを詳しくご紹介ください。

「模擬演習を通じた力量向上」が、各部署が策定したBCPの手順書が実際に機能するかどうか、その有効性を演習の形で評価するものです。演習は、机上と現場で検証を行うものの2種類を実施、特に当社では焙煎工程という火を使うプロセスがあるので、災害時の火災は致命的になりかねません。実際に対応が体験できる演習は、特に若手の対応経験として重要な位置づけになると考えています。

また、各部署では、防災訓練や従業員及び家族安否確認のために、専用の社内ホットラインのシステム検証、緊急避難場所の確認なども実施しています。

一連の演習では、「演習実施記録」として、想定されるトラブルの内容、実際に行った検証活動、活動の評価、改善すべき事項、改善の結果などを残す手順になっています。演習によって、いかに改善につながるような問題点を見つけるかが重要なので、継続的改善を視野に入れた内容の濃いプログラムを心がけています。 

                         ●模擬演習を通じて力量向上につなげる




-JMAQAの審査に関して感想をいただけますか。

ISO22301は、取得当時は新しい規格でした。日本能率協会様としても当社が初めての認証審査だったと思います。そのため、一緒に作り上げていったという印象が強く、感謝しています。

5. 新型コロナ対策ではBCMSの取り組み経験が生きる

-今回の新型コロナウイルス対応についてお聞かせください。

まず、作成していたBCPでは、感染症のパンデミックについては、「SARS・MERS・新型インフルエンザ」の経験から、「あり得る」こととして備えてはいました。ただし、今回の新型コロナウイルスで対応が迫られるような細かい中身までは想定していなかったというのが正直なところです。ですが、新型コロナが発生した段階で、この問題をどう捉え、どう対処を進めていけばいいか、従業員皆が感覚的に把握できました。

その理由は、BCMS委員会の取り組みなどを通して、さまざまなリスクを把握し、どのような準備が必要なのかを理解し、実際にやるべき活動を考える、といった一連の流れを経験していたからでしょう。今回、いろいろな対応を導入でできたのは、今までのBCMSの構築、運用のおかげだと考えています。

-実際に取り組んだ内容について教えてください。

まず、情報収集が一番重要になります。今回は新型のコロナウイルスということもあり、「どのような症状がでるのか、ウイルスの毒性はどうなのか、どのように感染するのか、感染予防はどうしたらよいのか」など政府や行政関係の発表を中心に情報収集に努めました。

自社の対策としては、「何よりも自社から感染者を出さない」、この点を最重要視してきました。そのために最初に決める必要があったのは、営業や出張を含めた会社全体の業務について、どこまで制限するかということでした。業務の性質や必要性、取り巻く環境に応じて、それぞれの部署の責任者と話し合いながら、現場ごとに細かく決めていき、都度、社内に発信していくようにしました。

次に、行政からの外出の自粛要請を受け、各営業所では出社制限に取り組みました。営業所における受注業務は優先復旧業務にあたり、停止させるわけにはいきません。受注業務および営業業務のテレワーク化を進めるため、ノートパソコン20数台を用意し、社外にいても社内システムにアクセスできる環境を構築することで、お客様にご迷惑をおかけしない体制を整えました。

 

6. コミュニケーションを重視し営業メルマガを立ち上げる

-営業活動は以前に近い水準を維持できましたか?

新型コロナウイルスの影響が長引いて自粛期間が長くなると、新規開拓はもちろん、既存のお客様のところにも直接訪問できなくなり、お客様との繋がりも希薄になりがちになります。

そこでお客様に対して継続的な情報発信ができないか、営業部門で知恵を出し合って考えたのが「九鬼セサミレター」というメールマガジンです。これを定期的に送ることで、様々な提案を行うことができています。メールマガジンを見て問い合わせを頂くことも多く、当社と顧客を結ぶ、とても効果のある活動になりました。また、ZOOM等のWeb会議ツールを利用し、様々な工夫することで新たな営業スタイルを模索しています。

-工場での対応はいかがでしょうか。

食品業界ですので、体温・体調のチェックや手洗い等の衛生管理についてはFSMSで活動のベースができていました。対応が難しいのは、工場内の作業場で密な状態が生まれてしまうことです。そこで打合せや会議の人数を制限したり、休憩時間をずらすなど工夫して対応することにしました。また、当社は年間を通じて多くのお客様が工場視察に来られます。

実際の工場を見て取引を決定する方も多く、重要な取り組みの1つですが、外部からの顧客の受入は感染リスクが高まります。苦渋の決断でしたが、今回は工場視察の受入を全面禁止にし、現場で感染者を出さないことを第一に取り組みました。製造が止まれば、より多くのお客様に迷惑がかかるため、この判断は間違っていなかったと考えています。

幸い三重県はそれほど感染者が出ていませんが、今後は第二波、第三波を想定することも必要です。たとえば密を避けるために部署あたりの人数を減らしたらどうか、その一方で一時的に人手不足の状況が生まれて他の部署から応援を出してもらうケースもありえるかもしれません。こうした場合に備えて、事前に必要な教育は何かなど、今できることをやっていこうと話を進めているところです。

また、新型コロナウイルスのおかげで気付かされたこともあります。普段は外食産業や加工食品向けの業務用商品の売上げが多く、BCMSでも優先復旧業務としているのですが、最近は「巣ごもり消費」で家庭向けの商品がよく売れます。今回に関しては言えば、家庭用製品が優先復旧業務になった訳です。発生したリスク毎に、何を優先復旧業務にするのかは常に変わってきます。広い視野を持ってリスク管理を行う必要性を再認識しました。

 

7. お客様のニーズの把握でBCMSを活用

-新型コロナウイルス対応も含め、今後の取り組みについて教えてください。

今回の新型コロナウイルスは、日本だけでなく世界中が大きな影響を受け、経済活動が停滞するなど生活が大きく変わるほど影響が出ています。私どもも自分達に合った対応策を今後も考えていく必要があります。

ここで役立つのが取得したISOマネジメントシステムやBCMSの取り組みです。これらの取り組みで培ったノウハウは様々なリスクに遭遇したときに必ず役立ちます。今回の新型コロナウイルスもまさに未知のウイルスでしたが、BCMSで取り組んだ下地があったからこそ、迅速な対応が取れました。

これからも様々なリスクに見舞われることがあると思いますが、BCMSの取り組みをさらに発展させることで、どのような環境下でも“事業継続”を成し遂げる企業を目指していきます。

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