CASE.2
【連載:効果的な運用事例 三省製薬 様 [ISO22716(化粧品GMP)]】
伊藤 新二 JMAQAセンター長が聞く
ISO22716認証 :三省製薬株式会社
ISO22716(化粧品GMP)取得の背景にあった、企業の定義の変更とは
~化粧品業界の競合を仲間へと変えた三省製薬の大きな舵切り~
対談取材 : 三省製薬株式会社 代表取締役社長 陣内 宏行 様
マーケティング部 取締役 部長 藤井 章夫 様
素材開発部 兼 製品開発部 取締役 部長 伊賀 和宏 様
事業開発部 課長 中井 大助 様
品質保証部 部長代行 シニアディレクター 大古閑 陽一 様、伊藤 美佐緒 様
一般社団法人 日本能率協会 審査登録センター(JMAQA)
センター長 伊藤 新二 *所属役職等は取材当時のものです。
美容成分(化粧品原料)の開発から化粧品の製造・販売まで、ワンストップで提供している三省製薬は化粧品業界では唯一無二の存在感を示しています。同社の前身である「陣内三省堂薬局」は、1887年(明治20年)に誕生。家伝の漢方処方にもとづいて薬を製造していました。製薬のノウハウを活かし、高い効果と確かな安全性を両立すべく真摯に研究を続ける姿勢は、ものづくりのDNAとして今も継承されています。
そのものづくりと大いに関係のあるISO規格の第三者認証については、以前からISO 9001を全社で取得し運用を続けていますが、2022年4月、同社佐賀工場においてISO22716(化粧品GMP)を取得しました。5月に福岡の本社で開催した授与式において、代表取締役社長である陣内宏行様をはじめ、同社の関係者の方々に、日本能率協会審査登録センター センター長・伊藤新二が話をうかがった内容を紹介します。
1. ISO22716(化粧品GMP)取得に至ったきっかけ
化粧品製造一貫体制導入を機に新たなビジネスチャンスに挑む
伊藤:三省製薬様ではすでにISO 9001の認証を取得していらっしゃいますが、その上で今回、ISO22716(化粧品GMP)の認証取得に取り組んだ理由について教えてください。
代表取締役社長 陣内宏行様(以下、陣内社長):化粧品業界では、日本化粧品工業連合会が化粧品GMPを1980年代に業界自主基準として策定しており、三省製薬は当時からこの化粧品GMPに従って業務を行ってきました。
最近の動きとして欧州や東南アジアなどの地域からの商談が増えてきており、そうした地域のお客様と円滑にビジネスをする上で、ぜひ三省製薬でも化粧品GMPに対応した国際規格・ISO22716の第三者認証取得が必要だと考えました。同時に、社内には品質管理に対するしっかりとしたベースはあったのですが、さらに取り組みを確固たる形にしたいとの思いもあり、チャレンジすることにしたのです。
今回の取り組みにおける複数の関係者様(以下、ご担当者):海外に進出する場合、それぞれの国の規制・基準を満たすことがポイントになります。一部の国についてはISO22716(化粧品GMP)の認証を持っていることで、その国の規制・基準を満たしていると判断していただけます。また、日本ではまだ認証件数が少ないので、例えば展示会などでの営業活動では取得していることが大きなアピールポイントになっていると感じていました。
陣内社長:今回の認証対象である佐賀工場(★右写真)はもともとA棟だけでしたが、B棟を新しく建てています。このB棟では化粧品製造工程で上流となる化粧品原料を作っているので認証範囲のカテゴリ外になりますが、A棟では化粧品GMPのカテゴリに該当するバルクや製品としての化粧品を製造しています。B棟の竣工で、化粧品原料の生産から化粧品の製品出荷までの一貫体制を実現できたので、これを機にISO22716(化粧品GMP)の認証取得も合わせてできるのではないかと考えたことも、きっかけのひとつです。
2. ISO9001を運用している状態でISO22716認証取得
22716要求事項に照らし合わせることで問題点が明確に
伊藤:すでにISO 9001を取得していらっしゃる企業組織様は、その運用の実績から「それほど大変ではなかった」という声が多いのですが、逆に「ハードルが高かった」というお客様もいらっしゃいます。三省製薬様はいかがでしたか?
陣内社長:私たちの事業は、化粧品の原料から最終的なプロダクトを作るところまで、非常に幅広いです。化粧品ブランド大手の会社様向けの製品、自社およびOEM社様向けのバルク製品などいろいろ扱っています。製造工程では、それらを整理して、整合性の取れた基準に沿って管理をしてきています。しかし今一度、ISO22716(化粧品GMP)の要求事項に照らし合わせることで問題点を整理ができて、系統だった手順書、基準、規定作りができました。
ご担当者:今回、陣内社長が率先してISO22716(化粧品GMP)へのチャレンジを推進してきました。取得すると決めた後は、もちろん国内で何十年も化粧品GMPに沿って仕事をしていたので、「簡単に取れないとおかしい」ということが逆にプレッシャーになっていました。
ご担当者:私たちは、できる限り短期間で取得したいという思いがありました。そこで、日本能率協会審査登録センターによる第三者認証のための一次審査の前にギャップ診断を受けています。その結果、多くのチェックポイントの指摘が出たので、それらを全て改善して審査に臨みました。それでもやはり現場で指摘はありましたが、ギャップ診断で26箇所あったものが一次審査の段階では6に減り、二次審査ではゼロになっています。
この審査で大いに役立ったことがあります。佐賀工場は非常に敷地が広いので、古くなった設備に関して細部まで把握しきれていませんでした。こうした状況について、審査で指摘を受けて改善することができて、今ではチェック漏れがなく、トータルで確認できる環境になっています。
審査に関連してもうひとつ、ISO9001の品質マネジメントシステム(QMS)を本社と佐賀工場で運用してきた経験が、今回の取り組みで大いに役立ちました。QMSで内部監査を長年やっているので、ISO22716(化粧品GMP)内部監査員についても自社で一早く育成したいという思いがありました。そこで、本社のISO9001の内部監査のメンバーにISO22716(化粧品GMP)を学んでもらって、佐賀工場の内部監査をやってもらっています。
この内部監査を一次審査の後に行ったのですが、これが非常にいいタイミングでした。一次審査で指摘された内容について内部監査で改善状況などをチェックして二次審査を迎える、この流れを採ったことで、うまくいったと思います。
伊藤:その内部監査についてうかがいます。現在はISO9001 が佐賀工場を含んだ全社対象、ISO22716(化粧品GMP)は佐賀工場だけが対象です。今後、内部監査はどのような形になるのでしょうか。
ご担当者:構想としては、佐賀工場ではISO22716(化粧品GMP)とISO9001の同時に見ていく統合型の内部監査を考えています。佐賀工場の内部監査を担当する監査員は、もうすでに両方とも教育を受けており内部監査員の資格を付与しています。この人間が佐賀工場をきちんと見る。もうひとつは佐賀工場の品質管理部門である品質管理センターの担当が、製造現場の品質管理の状況について見る、この2つの監査で佐賀工場のマネジメントと現場の両方をしっかり確認していきます。
一方、福岡にある本社についてはISO22716(化粧品GMP)の対象ではありませんので、従来通りQMSの内部監査を運用していきます。その際、佐賀工場のスタッフが福岡を監査するというパターンもあるでしょう。本社の開発と佐賀工場の生産とが、お互いにチェックできるような監査体制にしていくつもりです。
伊藤:話は取得のことに戻りますが、以前からISO 9001の運用と合わせて、化粧品GMPに基づく運用もなさっていたのでしょうか。
陣内社長:化粧品GMPに沿った生産体制を長年運用してきています。ISO 9001は会社全体のことをシステム化しますが、その中で化粧品GMPに合わせた手順を整理してきました。ISO 9001の文書化なども進めてきましたが、例えば美容成分の生産など、その他の開発を含めて整合性を取るのは、けっこう大変でしたね。こうした経験があって、今回、ISO22716に対応した仕組みにすることができたのだと思っています。
ご担当者:社長が言われたように、化粧品GMPという言葉自体は全社にかなり定着してきていました。年1回の従業員に対する研修においても、化粧品GMPというタイトルをつけて、守るべきことといった最上流のところから、現場作業に基づく衛生管理などの教育を行っています。テクニカルな面と日々感じる面と、二つの面でのセミナーをきちんとやってきていますので、今回のISO22716への対応では大いに役立っていたはずです。
伊藤:これまでの化粧品GMPに対する取り組みがあったので、今回の認証に当たってそれほど高いハードルがあったわけではないのですね。
ご担当者:そう思いたいところですね。ただ今回は認証を取ること自体がひとつのハードルですので、特に佐賀工場の責任者や現場責任者のプレシャーは大きかったと思います。私は福岡の品質保証を担当していますが、福岡にいる人間はどちらかというと事務局の立場で、円滑に認証を取得できるよう全体のマネジメントをしていました。一方、佐賀工場の現場サイドは取れて当たり前という雰囲気の中で大変だったと思います。私が取得の連絡をしたときにとても喜んでくれたのですが、それは苦労が形になったという思いの裏返しだと感じました。
3. 既存事業をSDGsの視点で見ることで
モノ作りの見直しへつなげる
伊藤:SDGsにもかなり取り組まれていらっしゃるようですが、どのような状況にあるのでしょうか。
陣内社長:まず強調したいのは、今回のISO22716(化粧品GMP)取得は厳しい安全基準と高品質な製品づくりを引き続き目指すものであり、この発想自体、SDGsの取り組みを後押しすることになると考えています。
そのSDGsに関してですが、今までやってきたことをSDGsとつなげることで、三省製薬としてできることが理解しやすくなりますし、モノ作りを見直すきっかけになっています。
具体的な動きとしては、三省製薬では現中期経営計画の目標の中に関連する取り組みを掲げています。同時に、現場で浸透を図るために、現場からの質問や考えにのっとったことを目標としてポスター化するなどして、その中にSDGsの考え方を盛り込んでいます。こうしてさまざまな部門で具体的な活動を展開しています。
化粧品、化粧品原料の製造と直接関係のある取り組みテーマについては、これまで守り続けてきた独自の厳しい安全基準と高品質な製品づくりにサステナビリティの視点を加えることで、具体化しています。その一つとして、サステナビリティ・エコ・エシカル・ダイバーシティの頭文字を取って「SEED」(シード)と名付け、この4つの観点に配慮したモノ作りに取り組んできています。
他にもSDGsの取り組みとして、「職場づくりにおいて」「ものづくりにおいて」「容器開発において」の3テーマを設定して、SDGsの目標に沿って具体的な取り組みに落とし込んで対応を図っています。三省製薬自身が研究開発した原料を使っている自社ブランド化粧品『DERMED(デルメッド)』の販売は、1993年からはじめていますが、2021年9月からSDGs関連の考え方を反映させた新製品の販売を開始しています。
伊藤:ISO22716への取り組みとSDGsがまさにつながっていることが分かりました。
陣内社長:SDGs対応の動きと前後してビジネス面で大きな動きを採っています。それは原料生産から出荷までの一貫体制に対応した組織であることを全面的に打ち出したことです。
元々三省製薬は化粧品原料である美容成分と化粧品の両方を作ってきた製造メーカーです。化粧品の製造については通信販売の自社ブランド用を作ると同時に、他の化粧品メーカーから生産受託する化粧品OEM・ODMメーカーです。また、美容成分としての化粧品原料を三省製薬自身で製造、販売するとともに、他の原料メーカーから化粧品原料を製造受託する化粧品原料OEM・ODMメーカーでもあります。さらに、美容成分の新原料の研究開発も含めた自社ブランドの化粧品を新事業としてスタートさせています。
実は、化粧品業界において、美容成分と化粧品の両方で、研究開発から製造・販売を行う、いわば業界の川上から川下まで全ての業務を行うことができる企業は非常に珍しい存在です。
そこで2019年、三省製薬は化粧品業界の全てのサービスをワンストップで提供できる会社であると定義をし直しています。このねらいは、化粧品業界内で、競合だった化粧品ブランドメーカーや化粧品原料メーカーがすべてお客様と位置付けることで、新たなビジネス展開をはかるためです。
化粧品メーカーからは「自分たちの独自性を出すためオリジナルの美容成分が欲しい」「自分たちが作った化粧品の有効性を測定して欲しい」、あるいは「自分たちのためだけの美容成分を作って欲しい」等々のご要望をいただいており、ビジネスが広がっていきているのです。
4. ドメイン再定義で事業の革新・イノベーションを実現
業界の競合を仲間に変えて海外展開に踏み出す
伊藤:全てをやれるという立ち位置はなかなか難しいのではと感じました。会社の立ち位置的には「〇×が強い」といったケースが多いと思いますが、「なんでもできる」と打ち出して現実に対応しているのは素晴らしいと思います。
また、SDGsありきで考えるのではなくて、そもそもが自分達のビジネスの可能性として考えられていたことが、2019年の大きな転機となり、それは実はSDGsだった。後々、振り返ってみると革新・イノベーションと呼ぶべき動きになっていると思います。
ご担当者:三省製薬のドメインに関して、会社内で整理がついて、全社員に向けて定義し直すという発表を2019年10月に行いました。それに合わせて、仕事の仕方やモノ作りも変えていくことを共通認識にしています。ちょうど2019年は環境破壊、環境汚染の話題も増えていて、G20の大阪サミットが開催された年でもあり、まさに重なっていますね。
ご担当者:ドメイン再定義と関係してくる動きがあります。自社ブランド化粧品を持つと同時に、三省製薬は他の化粧品メーカーとコラボレーションでB2BとB2Cのビジネスを展開しています。化粧品メーカーからすればライバルでもあるわけです。ですからOEM・ODM製品と自社ブランドについて、たとえば成分情報なども含めて社内で完全に切り分けた体制を採る、これは三省製薬の信念ですので、意思統一を図っており、お客様からの信頼にもつながっていると思います。
陣内社長:再定義によって、まさに三省製薬のユニークさが際立ってきており、唯一無二の会社になることができてきています。化粧品、化粧品原料に対するあらゆるニーズに応えることで、お客様が何十倍にも増えるのです。実際、すでにご要望が縁になってお客様の幅も増えてきています。
今後、日本は人口減少が確実です。国内だけにとどまらず、海外にも進出していくが欠かせない。その際には美容成分と化粧品だけでなく、化粧品業界のサービスを全て提供できる会社としてプレゼンスを示していく必要があります。ISO22716(化粧品GMP)も、この海外ビジネスを進める動きの一環でもあるのです。今回の認証取得を機に、ビジネス展開のスピードをさらにあげていくつもりです。
ISO22716(化粧品GMP)認証事例・審査員による解説記事
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*ISO22716(化粧品GMP)認証はいずれの審査機関においても認定機関による認定は伴わないプライベート認証になります。