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マネジメントシステム改善のポイント

【連載「ISO9001を導入して品質を向上せよ」第2回(前編)IMS技術部長 郡 要二】 

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【連載「ISO9001を導入して品質を向上せよ」第2回(前編)IMS技術部長 郡 要二】 

連載「ISO9001を導入して品質を向上せよ」

第2回 
サービス業における品質マネジメントシステムの活用方法
プロセスアプローチで顧客ニーズに対応せよ(前編)

日本能率協会審査登録センター(JMAQA)審査部 IMS技術部長 郡 要二


連載「ISO9001を導入して品質を向上せよ」の2回目のテーマは、「サービス業における品質マネジメントシステムの活用方法」です。郡要二IMS技術部長による解説記事を前編、後編に分けて紹介します。郡部長は、ISO審査員としてさまざまな業界の審査を担当してきましたが、とりわけサービス業に関しては日本能率協会審査登録センター(JMAQA)内でも随一の審査経験を誇ります。その豊富な経験に基づいた詳説を2回に分けて行います。(参考:後編はこちら

 

1.サービス業おける品質は顧客個々の尺度で決まる

Q.「サービス業における品質向上」についてうかがいます。最初にサービス業における品質について、特徴をご紹介ください。

 サービス業おける品質を考えるにあたって注意が必要なのは、絶対的な尺度でレベルを測るのが難しいことです。品質が高い/低いといった評価は、サービスの提供側ではなく、サービスを受ける個々のお客さまの感じ方の尺度によって決まるのです。「〇×レストランは接客がよい」「□△ホテルの対応は気配りが効いている」などと実際に受けた方の感想で決まる要素が強いということです。他にも注意が必要な点は、今はインターネットなどで広がる口コミなども、高い/低いといった評価には大きな影響力があるといった特徴を持っていることでしょう。


2.お客さま像を明確につかみニーズの把握へ

Q.品質管理についてもモノ作りなどとは違った点はありますか。

 品質管理では、まずサービスの提供側として意図する顧客について、できるだけ具体的に考えることが必要です。どういう層をメインターゲットとして狙うのかということです。もちろんサービス業に限らず、モノ作りでも想定することが必要ですが、サービス業の場合、ここが弱いケースがあるようです。

 顧客満足につながる信頼性の向上を目指す上で重要なこととは、お客さま像について具体的に描けているかどうかです。これは新規の顧客開拓でも同じですが、お客さまの姿をまずしっかり描いた後、ニーズをしっかり聞きだすプロセスを確立しておくことが大切です。

 続いて、そうしたお客さまが何を求めているのかをしっかり把握してください。その上で、高い満足度につながるようなサービスを提供する仕組みや手順などを考えていくのです。

Q.品質と顧客満足の関係についてお願いします。

 品質についてはマーケティングの視点を持って戦略的に捉えていく必要があります。例えば某ハンバーガーチェーンがねらっている品質は、たくさんお越しいただける層をメインターゲットに据えたものでしょう。ここで想定しているお客さまにとっては、「早さ」「安さ」「お手軽さ」が重要であり、これらを訴求ポイントにして、極めていくオペレーションシステムを運用しているようです。

 一方、ライバルと見なされている某チェーンでは、同業でも訴求ポイントが大きく異なっています。むしろ「早さ」とは逆にお待たせしてもらうことで、シズル感を高めるのをねらっているようです。

3.ターゲット顧客に特化して施策の主眼を決めよ

Q.品質は顧客と一対で捉えて決めていく必要があるわけですね。

 すべての顧客に向けての全方位外交というやり方もあります。これは、ご満足いただくポイントが異なるいろいろなお客さまの層を想定して、それぞれに合った内容を持ったサービスをご提供していくことです。このやり方も、サービス業だけでなく、製造業を含むさまざまな業界・業態にも当てはまるものです。

Q.全方位外交に関連しますが、正反対のニーズのお客さまが存在しているケースはどうすればよいのでしょうか。例えばホテルや旅館のサービスについて、きめ細かなやところまでご提供するのがよいと感じるお客さまがいる一方、逆に一切構わないで欲しいという方々もいらっしゃる場合もあるはずです。

 サービスのカスタマイズの話になります。品質と顧客満足の関係を考えるにあたって、どのようなニーズがあるかを分析します。その上で、ニーズが異なるお客さまがいるなら、それぞれにご満足いただけるようなサービス提供の仕組みや手順を整えるのです。

 以前、CS(カスタマー・サティスファクション)という言葉が出てきた当時、顧客全員の誰もが満足してもらえるような一律な取り組みが重要といった話がありましたが、これは誤りです。サービスの品質を考えるにあたっては、繰り返しになりますが、まずターゲットとする顧客を明確に決め、それぞれに合った対応をとることが必要です。

 関連しますが、ISO9001の2015年改定版では、とりわけ顧客のニーズと期待の把握についてはっきりとうたっています。自分たちを取り巻く利害関係者を把握した上でコミュニケーションをしっかりとって、彼らの期待とニーズに沿って自分たちの製品・サービスの品質を作り込んでいくのです。先ほどの「品質を考える際、マーケティングの視点もが欠かせない」という話と重なりますが、誰に対して何を訴求したいのか、この点を明確にすることが欠かせません。2015年版は、まさにこの一連のプロセスを網羅しているツールという点を強調しておきます。

4. 品質はマーケットの対話から作り込む

Q.顧客が起点になるわけですか。

 最初にお客さまを決めることが重要と強調しましたが、現実のビジネスでは存在しないケースもありえます。例えばプロダクトアウト型のビジネスでは、顧客がいない、マーケット自体が存在していないケースを前提にしており、新たなマーケットを自ら創っていくビジネスモデルです。ただし、製品・サービスがプロダクトアウト型だからといって、最初の品質の作り込みの際に、顧客の定義を省いていいわけではありません。

 また、品質についてはマーケットとの対話から作り込んでいくべきです。ここでは、「マーケットのニーズは〇〇に変わりつつあるので××の要素も加えていくべき」などとタイムリーなコミュニケーションを行って改善していくことも効果的でしょう。この対話については、本来、サービスの提供側が率先して行うべきですが、疎かになったためにビジネスとして立ちいかなくなった実例は、サービス業ではいくらでもあるはずです。

5.品質データの改ざんに学べ

Q. 顧客のニーズと実際に製品・サービスを提供する仕組みの関係についてマーケティングの観点から教えてください。

 まず、品質を決定するプロセスとマーケティングについては、両者が融合している組織もあれば離れているケースもあるようです。理想を言えば品質管理の対象となる品質については、あくまでもマーケットが決定するという考え方をとることです。

 この関係を考える上で参考になるのが、昨今相次いでいる品質データの改ざんです。一連の問題はあくまでも作り手側に拠るものです。お客さまから「少しでも早く納めて欲しい」という要望があり、「一早くご提供するために決められた品質基準を満たしていなくても手戻しない」ということでしょう。ここでの考え方は顧客のニーズと期待に応える仕組みを決める上で参考になるはずです。

 例えば、ご提供する製品・サービスについて求められている品質基準をクリアしていなくても、しっかり顧客ニーズを満たしている、すなわち品質を保証し得るなら、その基準自体が過剰であった可能性もあるのです。この場合、提供側の責任でクリアしていなくてもいいわけです。

 製品・サービスについては、本来、「お客さまの期待とニーズに応える品質」という観点から、提供するプロセスの仕組みや手順、管理レベルを決めていくべきです。ただ現実には、思い込みなどに拠ってなんとなく決まっている、あるいは長年の商慣習で曖昧になっているケースは少なくないようです。

Q. 製品・サービスの提供プロセスについて、最初はお客さまのニーズにしっかり応えるような仕組みや手順になっていても、時間が経つにつれてギャップが生じてしまうはずです。

 とくにサービス業ではニーズの変化が起きやすいので、日々、運用する中でも、差は必ず出てきてしまうでしょう。そのプロセスが本当に正しいのか、例えば今やっていることがベストな手順なのかという判断は、常に、お客さまにご提供する最終製品・サービスに求められる品質から判断すべきです。実際の提供時に、的確に対応できるかどうかは、マーケットとの対話などコミュニケーションにかかってきます。

 このコミュニケーションを実効なものにするには、担当部門などに加えてトップマネジメントの役割が重要になってきます。ISO9001規格でもトップマネジメントの役割について要求事項の5.2項などで求めており、よくできている規格といえるでしょう。

6.現状整理の際にプロセスアプローチを使え

Q.ISO9001の要求事項に適合するシステムを構築すれば、今、ご指摘されたような課題が解決できるわけですね。

 かなりの程度で解決するはずです。ISO9001を使う際に意識して欲しいのは、要求事項個々の内容に拘るのではなく使うことが目的という点に留意することです。規格を使って自分たちの仕組みや手順を見直していく、あるいは整理するための大義名分と位置づけていただくのもいいでしょう。

 その整理のやり方はいろいろありますが、とりわけ意識して欲しいのは、プロセスアプローチです。ISO9001:2015年版の規格文を見ると序文でプロセスアプローチに触れた上で、要求事項4・4で「プロセスアプローチをしっかりやってください」と求めています。ISO9001の品質マネジメントシステムは、このプロセスアプローチの視点を採ってマーケットや利害関係者と対話を行ってニーズを把握し、顧客の満足につながるサービスを提供できる仕組みや手順で構成されるものです。その上で管理レベルを決めてPDCAサイクルを回しながら改善点がないか確認していくのです。


Q.プロセスアプローチによって、適当な仕組みや手順の導入につながっていくわけですね。

 「プロセス」などと言うのが堅苦しいなら、「仕事のアプローチ」「仕事の流れ」などと言い換えてもいいでしょう。肝心なことは仕事の中身を周囲から見える形に整理することです。さらにポイントを挙げると、その際、規格から見るのではなく、プロセスから見ていく、つまりプロセスアプローチを採ることです。

 このやり方のメリットは、モノゴトをプロセス単位で捉えてお客さまと対話をすることで、従来のやり方を素早く変えていくことができる点です。お客さまのニーズが多様化したり、すぐに変わっていったりするような状況が多いサービス業にとって、提供側にも機動的な対応が欠かせないので向いているのです。

 このプロセス単位のモノの見方は、過去、さまざまなマネジメント手法の中で取り上げられてきました。顧客満足についての改善や実施に優れた経営システムがある企業に授与されるマルコム・ボルドリッジ賞の概念にもありましたし、サービス・マネジメントなどの著書で有名なカール・アルブレヒトも触れていました。こういった歴史が示すように、うまく採り入れことができれば、マネジメントの改善につながっていくはずです。

 また、ISO9001についても、2000年改定のときに品質管理から品質マネジメントのモデルに変わりましたが、これは先ほどのマルコム・ボルドリッジ賞などの考え方を意識したものでしょう。2015年改定はその進化版ということで、顧客満足に関するさまざまなマネジメントの考え方を採り入れています。

7.JMAQAの審査はプロセスのつながりを重視

Q.審査現場でもプロセスアプローチの視点を採るのですか。

 はい。理想的な審査の形は、部門単位にぶつ切りで見ていくのではなく、組織全体で業務プロセスを追いかけていくものです。そのためには、審査の前には受審組織についてマニュアルや過去の審査記録、製品・サービスの市場に関する最新情報や業界事情などをしっかり把握しておきます。もちろん組織全体の業務について基本的な流れを理解しておくことも欠かせません。

 こうしたさまざまな情報に基づいて、トップインタビューでは、組織全体における課題などをお聞かせいただき、その内容ができているかどうかを審査現場で確認していきます。

Q.プロセスアプローチの視点の例を挙げてください。

 クレーム案件で紹介します。審査で発生した案件を取り上げる場合、関係プロセスの中身を深堀りすることで、できるだけ根本的な原因に近づくようにします。ここでは是正対策の有無やその有効性の確認だけではなく、例えばクレームが発生する背景としての組織全体の強み・弱みなどの分析にもつなげていくこともあります。あるいは、新たな製品・サービスの開発にあたって、市場ニーズを把握するために、どんな仕掛けを採り入れているのか、そういったプロセスの確認につなげるケースもあるのです。

(以上 前編  後編に続く





日本能率協会審査登録センター(JMAQA)
審査部 IMS技術部長  郡 要二(こおり ようじ)




組織・行動科学関係の学科を専攻後、マーケティング・シンクタンクにて各種マーケティング研究・調査、消費財系の流通マーケティング実験、店頭品質マネジメントなど各種マーケティング・リサーチ業務、CVS(コンビニエンスストア)研究などの業務に携わる。その後日本能率協会に入職。QM(クオリティ・マネジメント)、CS経営分野の各種研修・教育プログラムの企画・開発・販促・運営・品質管理・改善の一連業務、コンベンション関連業務(サービス産業(全般))、『JMAサービス優秀賞』の開発・運営・審査・表彰の一連業務などを担当。その後、ISOマネジメントシステム関連の研修プログラムの企画・指導業務を経て、現職に至る。現在、QMS,ISMS,クラウドセキュリティ(CLS),マーケットリサーチサービス製品認証(MRSPC),道路交通安全マネジメントシステム(RTSMS)の主任審査員、EMS審査員。



 

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