【「BCP」対応編 研修講師に聞く】
本邦初! 安全配慮義務に対応したセミナー
講師に事業継続計画の作成・運用のポイントを聞く
実地訓練を通して育み「動くBCP」を目指せ
取材先:
日本能率協会 BCP分野担当講師(株式会社レスキュープラス) 秋月 雅史
BCP(事業継続計画:Business Continuity Planning)とは、自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭った時に、損害などのダメージを最小限に抑えて、中核ビジネスの継続や早期復旧を図るための計画です。その計画の中身には、平常時に行うべき活動、緊急時におけるビジネスの継続のための方法、手段などの取り決めが盛り込まれています。
今回、「ここからはじめるBCP(事業継続計画)セミナー(入門編)」「ここがポイントBCP(事業継続計画)セミナー(実践編)」の秋月雅史講師にBCPについて解説してもらいます。
【BCPセミナーのご案内】
「ここからはじめるBCP(事業継続計画)セミナー(入門編)」のご案内はコチラ。
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1.BCPには戦略が必須
性能限界を認識して適用レベルを決めておく
Q.BCPを作る上でのBCP戦略のポイントを教えてください。
BCPを導入するにあたってどうやって運用してくのか、その戦略について事前にしっかり考えておくことが必要です。
このBCP戦略を考えるにあたっては取り組むべきポイントは2つあります。まずはBCPを適用するレベル(=状況)について明確に決めておくことです。どのような被害の場合、BCPを発動するのか、しないのか。「このレベル以上の被災状況ではBCPの範囲外である」などとはっきりしておくのです。その理由はBCPにはカバーできる範囲に限りがある、いわゆる性能限界があるからです。
例えば、天災等の被災で事業が中断せざるを得ない状況に陥った場合、費用や人手をかけても再建作業を行うのかどうかの判断を求められるケースもあるでしょう。甚大な被害だった場合は、事業再興という経営判断になるはずです。
東日本震災以後、BCPが機能したかどうかを確認する、あるアンケート調査が行われましたが、BCPが機能しなかったと回答した組織は、建物や生産機械の復旧に多くの時間かかることが判明して、復旧そのものを断念しています。
ここから分かるのは、BCPの有効性云々も大事ですが、事業再建の戦略・方針を、経営層が事前に考えておくことがとても重要であるということです。
Q.BCPの適用範囲外をはっきりさせておくのですね。
「事業所再建に6ヶ月以上かかる場合、BCPは発動しない」等、事業停止の判断条件を事前に決めておくこともBCPに含まれます。また、発動しないという判断の後にも、取引先に事業停止の連絡をするなど、ビジネスとして必要な対応があるはずです。その取り組み内容を想定しておくこともBCPに該当します。
なお、どこまでいったらBCPではなく事業再興などの経営判断になるのか、その境界についてはBCPの復旧プランを作る過程で見えてきます。
例えば、「〇〇の設備が壊れた場合、現状でバックアップ設備はなく、もとに戻すには〇ヶ月の時間といくらのコストがかかる」といったことを各資源ごとに確認しておくのです。被災した場合、復旧するまでにどの程度の時間と費用がかかるのか、経営層にすぐ報告できるように、できるだけ具体的にしておくとよいでしょう。
こういった情報は複数の被災現場から集めることになるので、経営者が一覧できるような状況共有図を作り、判断を仰ぐようにします。講座のなかでは、このような経営者向けの状況共有図の作り方もご説明します。
2.投資レベルの松竹梅を決めておく
Q.取り組むべきBCP戦略のポイントの2つ目を教えてください。
2つ目は、BCPに事前にどこまで投資するかということを決めておくことです。どこまで投資しておくか、いわゆる松竹梅のどのレベルにするのか、トップマネジメントに選んでもらうのです。
例えばバックアップを用意しておく場合、どの設備をどこまでバックアップしておくかの判断が求められます。もちろんすべての事象について完璧なバックアップを設けておけば備えは万全になりますが、経済合理性を超える莫大なコストがかかるでしょう。
そこで現実的には、目標とする復旧レベルと時間について事前に検証しておくことが重要です。例えばITシステムが停止したケースでの業務継続を考えて、2つの候補となる方法があったとします。1つは「手作業などアナログ対応で業務継続をする」、もう1つは「システムのバックアップを作っておく」という対応です。しかしながらバックアップシステムの構築には高いコストがかかり、経営者の判断が必要です。
そのため、経営者が判断できる材料を提案する必要があります。例えば「アナログ対応だと費用はかかりませんが業務効率は40%まで落ちます。バックアップシステムを作ると1000万円かかりますが、10時間以内に100%で復旧します。どちらにしますか?」など、選択肢を考えた上で、それぞれの投資額を含めて経営合理性の観点から判断してもらうことが重要です。
Q.経営マターということですね。
BCPの体制を作るにあたっては、組織にとっての優先順位に従った仕組みの構築が求められます。いわば全体最適の判断が必要になります。この判断ができるような情報をBCP担当者は経営者に提案べきです。このような優先順位を判断するための方法も、講座の中でお伝えしていきます。
3.BCPは結果事象から考えていく
Q.BCPを巡る状況について教えてください。
BCPについては、その知名度は高くなっていると感じます。その一方で当事者として作ることについては難しいと受け止められているようです。「スキル・ノウハウがない」「人手がない」「現場の意識が低い」等々いろいろな理由が挙げられていますが、一番大きいのは、条件を難しく考えすぎている点でしょう。
復旧プランを作るにあたってよく見かけるのが、最初に前提条件として、例えば地震や水害、火災といった天災が起きることを想定してから、その結果として自社の置かれる状況を考えて対応策をいろいろ練っていく、こういう流れです。ですが自然災害から被災した結果、どんな影響があってどういった状況に陥るのか、その可能性はいくらでもあり、この想定段階で戸惑ってしまうことが多いようです。
そこで、事業停止の原因となるを被害レベルを想定するのは止めて、結果として自社がどのうような状況に置かれるのかという「結果事象」から対応を考えていくことをお勧めします。
結果事象とは、自社の仕事に必要なリソースのどれが動いていて、どれが止まっているかという状態です。「人」「働く場所」「電気・水などの生活系インフラ」「コンピュータシステム」「通信」等々が、止まった場合を想定して、仕事を続けるためには、それぞれのリソースを動かす又は代替するためにどういった対応が必要なのか、その内容を決めていくのです。
4.BCPは育てることが重要
Q.BCPの作り方は分かりました。作れば万全ということですか。
一度作ればおしまい、というものではありません。作った後に育てることが重要です。BCPは文字どおりプランであって机上のものであり、実際に動かしてみて、初めてその真価が問われるのです。残念ながら、立派なBCPのバインダーがあっても、結局、埃をかぶったまま放置されているものが少なくないようです。
Q.育てるにはどうすればよいのですか。
紙に書いた計画を、実際に使った際に効果的に動くようにするには、「体制を作る」「動かしてみる」ことが大切です。
まず「体制を作る」ことですが、BCPを発動した際にスムーズにモノゴトが社内で進むように、人・モノ・カネについてあらかじめ決めておくのです。例えば、災害対策本部を立ち上げるなら、休日の場合、だれが出社するのか。その際、交通手段として自家用車で出社する必要があるかもしれません。あるいは組合には事前承諾の必要があるかもしれません。
このように、対策本部を立ち上げる際、社内で必要となるプロセスについて、細かな点まで決めておくのです。
5.動かしながらブラシュアップを図る
Q.ともかく一度動かしてみるということですか。
実際に「動かしてみる」のが実地訓練です。BCPとして紙に書いてあることが想定通りに動くかどうか試してみるのです。先ほど、災害対策本部の立ち上げについて細かな点まで書いておくことを紹介しましたが、その通りにやってみてください。計画書に書かれている内容はおそらく完璧ではないでしょう。やってみるとうまく行かない箇所が必ず出てくるはずで、問題を抽出して改善を加え、ブラシュアップにつなげていくのです。
また、実地訓練はBCP教育という意味合いもあります。訓練前に「BCPを読んできてください」と言っても、忙しい会社員たちは残念ながらあまり目を通してきません。ですから、訓練の場で実際に声を出して読み、手を動かしてみて、「ナルホド、こういうことか!」などと訓練自体を学習の場にする工夫も必要です。
6.顧客第一で適用範囲を決めて「動くBCP」へ
Q.秋月先生が「動くBCP」と呼んでいるBCPのポイントを教えてください。
「動くBCP」とは、実際に発動した際に、しっかり機能が発揮できる内容を備えているものです。そのためには、作成するにあたって適用範囲をしっかり考えてください。緊急時の際でもお客様に商品やサービスを提供し続けるにはどういった機能が必要なのか、この点をしっかり洗い出すことです。
商品やサービスを提供する業務は、内容もさまざまな長いビジネスプロセスで構成されています。そのすべてをカバーするBCPがあるのが理想的ですが、すべてを作成するのは負担感が強いはずです。そこでBCPの適用範囲を決めて、段階的に取り組んでいくとよいでしょう。
例えばメーカーなら、企画、設計開発、調達・購買、製造、営業の各部門、さらに管理関係のバック部門などもあるので、それらの活動に優先順位をつけるのです。最優先すべきはお客様に納品済みの製品について復旧を担当する部門、次は商品の製造部門等々と、段階的に策定していきます。
7.BCPの中身は手順書レベルで策定する
Q.BCPを実際に書く上でのポイントを教えてください。
「動くBCP」とは手順書です。よく見かけるのが、規程文書のように、「第1章:目的、第2章:ねらい云々」といった装丁のものですが、これでは従業員は、いざというときに何をやるのか、さっぱりわからないと思います。
そこで、手にとって上からサッと見るだけで何をやるのかが分かるように、順番に、具体的な手順を、5W1Hで書いてください。
8.本邦初! 安全配慮義務に対応したBCPセミナー
Q.セミナー参加者にとくに理解して欲しい点を教えてください。
BCPを作る際には、企業として従業員に対する「安全配慮義務」にも対応してください。労働契約の専門的な話になりますが、労働契約法第5条では「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することが出来るよう、必要な配慮をする」と定められています。ただし、企業にはどのような対応が必要かはこの法律には書かれてなく、裁判所が出した判例から考えるしかありません。
そこで参考になるのが、44の判例に基づいて関東弁護士会連合会が作った解釈集『事業継続に求められる企業の安全配慮義務と安全対策』です。
私どもは、この解釈集をベースに、企業にはどういう対策が具体的に必要か確認できるチェックサービスを提供しており、本セミナーでも参加者にはセルフチェックを体験していただきます。もちろん、判例に基づいているので、法律対応として100%万全とは言い切れませんが、従業員の生命、身体等の安全を確保するといった本法の意図にしっかり応える効果的なBCPにはつながっていくはずです。
9.戦略決定のための「BCP提案ツール」を開発
Q.「BCP提案ツール」についてセミナーで体験できますね。
BCP戦略を作るために経営者向けの「BCP提案ツール」を開発したので、セミナーで試しに使ってもらう予定です。BCPの戦略については、トップマネジメントが考えるべき内容ですが、BCPの担当者レベルも理解しておくことが必要です。BCPの作成や実際の発動には組織としてのポリシーに基づくからです。セミナーで経験して、自分たちのBCPの戦略策定につなげていってください。
【BCPセミナーのご案内】
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日本能率協会専任講師/株式会社レスキュープラス
秋月 雅史(あきずき まさし)
1989年 日本アイ・ビー・エム入社。メガバンク担当営業を経験。1997年日系コンサルティング会社に転職、その後外資系・日系IT会社で新規事業の企画を担当。2007年からは企業・団体向けの危機管理体制構築、BCP 策定支援への取り組みをスタート。日本経済を牽引する大企業から中小企業まで多くの会社のBCP強化に寄与している。