【「品質管理」対応編 公開研修「品質管理入門&品質目標・設定見直しセミナー」】
品質管理・品質目標の本来の意図を把握し
組織パフォーマンスの向上につなげる
取材先:日本能率協会 QMS主任講師 糸魚川 浩司
御社の品質管理はうまくいっていますか? 品質を巡るさまざまな課題に悩んでいる組織は少なくないでしょう。品質管理について軽視しているわけではないにもかかわらず、トラブルが発生するのはなぜでしょうか? 今こそ、品質管理に関して基本に立ち返ることが求められているのではないでしょうか。
今回、その品質管理の基本を学ぶ2つのセミナーを担当する、糸魚川浩司講師に、品質管理を巡る課題とその対応方法について聞きました。
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1.検査されずに製品・サービスが出荷される
Q.品質管理についていろいろお聞かせいただきますが、まずはクレームについて取り上げます。
お客さまからのクレームはあらゆる組織にとって関心毎です。
クレームの原因として品質保証が機能していないことがあげられるでしょうか。
ご指摘の通り、クレームの大きな原因としては、品質管理がおざなりになっており、品質の保証ができていない状況によることが少なくないようです。典型的なケースが、お客さまのニーズを満たしているどうかの検査を経ないで製品・サービスが出荷、リリースされてしまう仕組みがあります。
ISO9001の「8.6 製品及びサービスのリリース」では、顧客ニーズに合っているかの検証を行って品質を保証することを求めています。この要求事項がしっかりできていれば品質に関する問題は、今よりははるかに少なくなるはずです。ですが、現実には日々、さまざまな問題が生じているのです。お客様からのクレームなどが、その最たる例でしょう。
2.品質管理ツールは意図を理解して活用せよ
Q.原因はどこにあるのでしょうか。
さまざまな原因が考えられますが、その一つがツールに関してです。品質管理ではさまざまなツールが存在し、使う際にデータ類を集めることが多いようです。そのデータ類の活用に問題があるようです。例えば、品質を改善する有力な手法であるQCの7つ道具でデータを集め、いろいろなグラフを作っているケースは多いでしょう。
ただ残念なことに、グラフを作ること自体が目的になっているのです。
本来の目的は、データを分析して、課題を把握してその原因を特定し、改善につなげることのはずです。品質管理のツールについて、現場では本来の主旨に沿った使い方が理解されていないケースが少なくないようです。
Q.品質管理における重要な要素の一つである品質目標について、ISOの仕組みと絡めてご意見をお聞かせください。
品質目標については、残念なことに、「昨年は〇×をやったので今年も同じにしよう」「少し目標数値をあげておこう」などと前例踏襲や測定可能な数値データに拘るといった例をよく見かけます。3.良い仕事から品質目標を設定
Q.品質目標の中身の設定に問題があるわけですか。
まず、「ISOは良い仕事をするための道具」ということを強調しておきます。私自身、審査ではこの考えに基づき「どんな良い仕事をしていますか?」と質問するようにしています。良い仕事について考えを巡らしてもらい、それを実現するための目標を明確にしてもらうのです。つまり良い仕事が把握できれば、それに向けての目標、すなわち「品質目標」を据えることができるわけです。
先ほどの私からの質問の答えとしては、「生産性を上げる」「ミスをなくす」「お客さんの満足度をあげる」等々、いろいろな内容が戻ってきます。すなわち、これらが各々の仕事の品質目標に該当するのです。また、その内容についても現場の目線の高さで設定されているので、よく聞く現場とシステムの乖離といった状況も避けられるはずです。
Q.品質目標に向けて取り組む上でのポイントについてお聞かせください。
品質目標に関連する問題としてはPDCAも挙げられるでしょう。私自身は、ISOの説明等する際、この用語は極力、使わないようにしています。この用語の本来の意図が理解されないままで、「とにかく計画を作って記録を残せば良い」とだけ考えているケースが目につくからです。
もちろん本来のPDCAの意図や機能自体に問題があるわけではありません。的確にサイクルを回せば極めて有効なツールであることは言うまでもありません。ただし仕組みを回す前提として、P(計画)の先にオブジェクティブ、つまり「こうしたい」「こうなりたい」などと、具体像(目的)の設定が欠かせないと考えています。ここが曖昧なまま導入しても、残念ですが結果が伴わないでしょう。
Q.オブジェクティブが、仕事に沿ったターゲット、すなわち品質目標であり、その達成に向けての仕組みがPDCAということが分かりました。
仕事に限った話ではありませんが、例えば、「〇×を目指したい」「こういう仕事をできるようになりたい」との思いがあれば、自分で段取りを考えて、達成に向けていろいろなストーリーを組んでやってみる、駄目ならやり方を変えて再度、工夫してチャレンジしてみるはずです。
趣味の釣りで例え話をしますが、1メートルのブリを釣り上げるという目標を持っています。実現するために、いろいろな道具を揃えることからはじまり、事前にしっかり情報収集を行います。同時に、長い視野で海釣りについてスキルをあげるような経験を積めるように励んできました。もちろん、考えた通りにうまくいくわけではないので、都度、見直ししながら、目標が達成できるように取り組んでいます。
現在の最高サイズは83センチですが、実際に1メートル物が釣れたら「やったぜ!」となり、新たなオブジェクティブがでてるでしょう。
4.issue(議論されるべき問題)を重視せよ
Q.PDCAのサイクルが回って継続的に改善される分かりやすい例ですね。
品質目標を据えるにあたって、とりわけ重視すべきことは、issue、すなわち「議論されるべき問題」だと考えています。何を目指すべきかをしっかり練ること大切になってくるのです。本気で「自分が成長したい」などとの思いがあれば、何としてでも段取りを考えていくはずです。
5.セミナーではツールの意図を詳しく紹介
Q.ここまでご紹介した内容に基づいて、品質に関する2種類のセミナー『すぐ使える品質管理入門セミナー』『品質目標・設定見直しセミナー』についてご紹介ください。
まず、参加者の構成ですが、『すぐ使える品質管理入門セミナー』は、品質管理の担当者が多く、新たに着任された方には数多くご参加いただいています。一方 『品質目標・設定見直しセミナー』は、品管管理担当以外の方も多く、例えば「部下に目標を立てさせて管理する立場になりました」といった管理職に就いた方や、組織を管理する部門関係者もいっらしゃいます。
Q.セミナーの特徴についてお願いします。
『すぐ使える品質管理入門セミナー』に関しては、品質管理部門に新たに配属された方を想定して、品質管理をする上で最低限、もしくは必ず身に付けてほしいというベーシックな内容を網羅したカリキュラムにしています。
とくに品質管理のツールに関しては、さまざまな参考書が出回っており、「特性要因図はこう作る」「パレード図はこう作る」「検定推定はこうやる」等々といった解説情報があふれているようです。
ただし「こういうときにはこれを使うと良い」などの具体的な内容は少ないために、担当者は、意図に沿った本来の使い方について曖昧なままの状態になっているのが気になっていました。
そこで、品質管理に関連するツールの具体的な使いこなし方法はもちろん解説しますが、ノウハウ中心というより、まずは、その考え方自体を理解してもらうように心がけています。
Q.ツールをどのように使いこなすかといった視点がおざなりになっているわけですね。
セミナーでは、ツールの本来の持つ機能やねらいも踏まえて、解説するようにしています。その際は、できるだけ事例もあわせて紹介します。現場でどのように使われているかといった情報があると、担当者には分かりやすいからです。
Q.『品質目標・設定見直しセミナー』の内容について詳しくお願いします。
このセミナーでは、品質目標について設定方法や見直し方法を中心に解説していきます。先ほど、目標を設定する際、現場目線が重要だと強調しましたが、ここでの目線はissue(議論されるべき問題点)であり、把握から設定までの一連の取り組みを、実際に自分たちの仕事を題材に考えてもらいます。
6.目標に関して横断的な管理ツールを実体験
Q.『品質目標・設定見直しセミナー』ではユニークなツールを紹介するそうですね。
紹介するのは、品質目標を効果的に管理するツールで、ねらいは個々の目標同士の整合性をとることにあります。機能、部門、階層などの項目の軸と、深さ、範囲に関する軸からなる表組みで、組織のすべての品質目標をカバーしています。
その中身の一部を紹介すると、例えば、個人の目標、あるいは部門目標があるとします。これらの目標の内容ついて深さや範囲に関しては相互に整合性が求められるはずです。組織全体を横断的に捉えること、すなわち横串を刺してみて、その整合性の確認してみると、意外とできていないケースが多いようです。
Q.全体の会社としての目標設定があって、そこにちゃんと貢献するような個々の目標を設定していくわけですね。
品質目標について、横から横断的に見ても上から見ても下からでもしっかりと整合性がとれる状態が理想的です。よくあるのが、上位目標を決めて、それを受けて各部門で目標を作るケースです。上下の関係には矛盾はなく整合しています。ただし横断的に横串を刺してみると、矛盾点がいろいろ出てくることがも多いはずで、ここではインタラクティブ(双方向)で確認していく必要があると考えています。もし組織内で品質目標のとりまとめ役になったら、インタラクティブの視点で見てみることをお勧めします。
なお、品質目標については最終的には人事考課などにもつなげていくことが理想的でしょう。その際、会社としての品質方針との整合性を図ることも欠かせません。そのためには、品質目標については、紹介したようなツールを使って、組織全体で整理することも大事になってくるでしょう。
Q.セミナーの特徴としては他にはどんな点がありますか。
QFD(Quality Function Deployment:品質機能展開)の活用について幅広く取り上げています。これは、マーケットのニーズに応える品質を実現する上で、技術的な視点をふまえて工程全体を捉えていく手法で、品質管理では重要なツールの一つです。
例えば、総務や人事、経理といった間接部門関係者から、どんな品質目標が適当かという相談が寄せられます。製造部門や営業部門を比べると会社の業績に直結するような内容が設定しづらいからでしょう。
その際、「今やっていることは何でしょうか?」「会社から与えられたミッションとは何ですか?」などと聞いた上で、両者をマトリックスにまとめてもらいますが、まさにQFDの考えが使えるのです。会社が求めていることと、今の仕事でやるべきこととの関係が明確になり、品質目標の設定につながっていくからです。
その上で、間接部門の方々には、「皆さんは他の部門とは大きな違いは全ての部門とつながっている点です。そういった部門は他にはありません」と説明して、自分たちの立場に応じた品質目標を考えてもらうようにしています。
Q.間接部門でも全社方針にひも付いた品質目標の設定ができるわけですね。
7.セミナーで得られた経験から組織の品質管理の向上へ
『すぐ使える品質管理入門セミナー』 『品質目標・設定見直しセミナー』にご参加いただき、「必要なことは何か?」と、とあらためてしっかり考えてもらう機会につなげてもらうことを期待しています。
その上で、参加者には、セミナーで得られた内容を持ち帰って、組織の皆様にも、自分たちの製品・サービスに関して「本当に大事なことは何か?」を再考してもらような展開につなげていただければと思います。自分達にとって必要な取り組みを考え、行動に移していただき、組織としての品質管理のレベルアップにつなげていただくことを大いに期待しています。
糸魚川 浩司 プロフィール
大学卒業後、大手工作機械メーカーに入社。品質システム(ISO9001:1987)の構築に携わる。またPL事務局ZD事務局を担当する傍ら、製品の品質管理業務を担当。その後、財務コンサルティング企業にて、生命保険、損害保険の販売代理業、業務支援ソフトの設計・開発、PL・ISOのコンサルティングを開始。同時に自社のQMS認証取得活動を推進し、管理責任者として活動。その後、独立し、IMC創業。現在はISOの取得・運用支援活動、審査活動に従事している。
【資格】QMS主任審査員(JRCA)、EMS主任審査員(CEAR)