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マネジメントシステム改善のポイント

【「環境法規制」対応編 派遣型研修講師・馬目 詩乃ISO14001主任審査員に聞く】

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【「環境法規制」対応編 派遣型研修講師・馬目 詩乃ISO14001主任審査員に聞く】

環境法規制への対応方法
最新改正動向を把握してベストな企業判断につなげる

取材先:
日本能率協会 主任講師/ISO14001主任審査員  馬目 詩乃


環境法規制への対応は十分でしょうか? 環境分野における法規制は、2017年の「土壌汚染対策法」「廃棄物処理法」、2018年の「省エネ法」、そして2019年には「オゾン層保護法」「大気汚染防止法」と、重要法令の改正が相次いでいます。

次々と変わる環境関連法規制の最新動向とその対応について、環境法規制対応の企業支援に長年、携わっている馬目詩乃講師(日本能率協会 主任講師/ISO14001主任審査員)に解説してもらいます。


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目次

1.改正省エネ法で一体的管理の枠組みが求められる

Q. 環境法規制の最新動向について教えてください。

まずエネルギー関連では、2018年に「省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)」が改正され、新たに「連携省エネルギー計画の認定制度」が創設されました。この制度によって、同一業界の上工程・下工程などの複数法人の連携しによる省エネ量を企業間で分配して報告することが可能になりました。

またこれも本改正による新たな制度となりますが、「認定管理統括事業者の認定制度」では、親会社と子会社など、グループ企業単位での省エネを促進するものであり、認定を受けた場合は子会社での定期報告や中長期計画の提出やエネルギー管理統括者等の選任が不要となります。いずれも認定手続きが必要になりますが、エネルギー面でのサプライチェーンマネジメントを意識したものと考えられます。

その他今回の改正では、荷主の定義が見直されたことも重要なポイントです。これまで「貨物の所有者」とされていた荷主を「契約等で輸送の方法等を決定する者」と定義することによって、省エネ法の適用を受ける対象者が広がりました。また荷受け側に対しても「準荷主」として省エネへの協力を求める努力規定が創設されました。

Q. 企業対応について教えてください。

省エネ法改正で創設された二つの認定制度については、より合理的なエネルギー管理へ誘導するための制度といえますが、企業に新たな義務を課す規制ではありません。ただ企業にとって本制度の活用が経営効率化やグループ企業のガバナンス強化に結びつく可能性はあると思います。一方で、荷主の定義の見直しについては、エネルギー使用の合理化に向けた管理の白地部分に対して新たに規制を設けるものです。

従来の荷主以外が製品等の輸送の日時、場所、輸送方法を決定(指定)するケースは多々ありますので、こうした関係事業者は、従来「自主的な良い取り組み」として行っていた輸送の効率化やモーダルシフトなどが、「法的要求への対応」となるかもしれません。もちろん何も取り組みをしていなかった関係事業者にとっては新たな課題となります。早めに対応を検討しておく必要があるでしょう。

2.フロン排出抑制法の改正は回収率向上がねらい

Q. フロン関連の法規制でも動きがありました。

「フロン排出抑制法(フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律)」の改正案が2019年5月に成立しました。公布から1年以内に施行となります。本改正では、機器ユーザーの引き渡し義務違反に対する直罰導入や解体現場への立入検査の対象範囲拡大、ユーザーによるフロン回収が確認できない機器の廃棄物・リサイクル業者の引き取り禁止など、使用者側にも厳しい規制強化となっています。

背景として、2001年のフロン排出抑制法施行後、だいぶ時間が経っているにもかかわらず、機器廃棄時の冷媒回収率は、10年以上で3割程度という低迷状態で、直近でも4割弱にとどまっていることがあるようです。

3.改正オゾン法でHFCが規制対象へ

また、「改正オゾン層保護法(特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律の一部を改正する法律)」が2018年に改正され、2019年1月に施行されています。これは2016年のモントリオール議定書の改正(=キガリ改正)の動きと連動しており、代替フロンHFC(ハイドロフルオロカーボン)に関して製造と輸入を規制するものです。

具体的には、フロンの生産量・消費量の限度が設定されるほか、製造や輸入時には許可や承認が必要となります。これらにより実質的にHFCの製造や輸入は段階的に切り下げられていきます。従来、HFCは代替フロンとして有効という位置付けでしたが、温暖化対策をさらに推し進めるために規制対象に加えられました。HFCについては、長年広く使われてきている状況があり、影響がでてきそうです。

例えば空調機器や冷凍機等では冷媒としてHFCを使っているケースがありますが、老朽化等で漏洩が発覚した際、同じ冷媒を充填できない、という事態になりかねません。改正情報を知らずにHFCが使用されている機器を使し続けていると、故障時を契機に継続使用ができなくなるリスクがあるので注意が必要です。

4.大気汚染防止法では石綿対応強化の動き

Q. 公害関連について教えてください。


石綿(アスベスト)への対応については、関連する法律「大気汚染防止法」が2014年に大幅に改正されています。この改正によって、アスベストが飛散する作業(特定工事)の実施の届出義務者が、受注者から工事の発注者、自主施工者に変更になっています。自社の建屋のアスベストの飛散等に関して施行者任せで丸投げ状態だったのが変更されたといえます。

アスベストの種類はその危険度(発じん性)により3つのレベルに分かれていますが、危険度の高いレベル1(吹き付け石綿)とレベル2(断熱材、保温材等)については現在規制対象となっています。レベル3(石綿含有建材)については一部の条例で解体時の作業基準遵守や届出が義務付けられていますが、昨年9月の中央環境審議会から飛散防止に向けた方策が検討されており、今後は届出義務化等の規制強化につながる可能性もあります。このように石綿に関する法規制は、時間が経てば経つほど厳しくなる可能性が高いので、対応に手をつけていない事業所は早めに適切な方法で対策をとられるのがいいでしょう。

Q. まだ未対応の建物があるわけですね。


工場、事業所を訪問すると、建てられた年代からして、レベル3の建材を使っていそうな工場の建屋をよく見掛けます。レベル1の吹き付け石綿は除去されているため対応は完了しているという認識をされているケースもあります。

5.大気汚染防止法の改正では水銀排出施設への規制強化

Q.「大気汚染防止法」が2018年にも改正されています。

2015年に改正されたものが2018年4月に施行されています。この改正は水銀に関する水俣条約の採択を受けたもので、水銀大気排出規制が開始されました。これにより、新たに、水銀排出施設の設置者については、水銀排出施設の設置等に係る届出、排出基準の遵守、水銀濃度の測定・記録・保存を行うこと等が求められます。

なお、水銀排出施設に該当することになった施設を擁する事業所は対応が必要になってきます。

6.法規制のトレンドは事業者の自主的な取り組みをさらに促す方向へ

Q. ご紹介いただいた改正について気になる点はありますか。


オゾン層保護法や大気汚染防止法の改正は、条約など国際的な取り決めに対して国内法が連動したかたちになっています。国際連携のもとで地球環境問題へ実効性のある取り組みが進められていると感じます。

もう一つ、規制すべきところは規制しつつ、事業者に自主的な取り組みを促すような法改正があると感じています。例えば省エネ法の改正内容を見ると、サプライチェーンマネジメントの強化に向けて法制度化で対応を求めているとも読めるでしょう。省エネ法が、また次のステージに上がったと捉えています。ISO14001の2015年版でサプライチェーンマネジメントが強化されており、省エネ法の改正はこの方向と連動していく傾向があるとよめます。

以前は、行政が規制・基準を設けて、そこから逸脱すると直罰等を課すといった、かつての公害の規制法のような枠組みが中心でしたが、近年は、影響の大きな(規制による効果の大きい)事業者を絞り込み、自主的な取り組みを促すような内容がみられます。例えば省エネ法の「中長期計画書」の提出、「定期報告書」による報告制度は、自ら計画を立てて実行し、行政はその達成状況の報告を求めて一緒に確認していく、といった流れになっています。

7.法規制対応を確実にするEMSとは?

Q. 省エネ法への対応とISO14001の環境マネジメントシステムの相性がよいことが分かりました。ISO14001の仕組みによって法規制対応をより効果的なものにすることができるのでしょうか。


ISO14001規格の序文「02 環境マネジメントシステムの狙い」を読むと、「組織が順守義務を満たすことを支援する」と書かれています。この序文は、「組織に対して環境マネジメントシステム規格はこのように役に立ちます」というメッセージととらえることができますが、その中で、「ISO14001 規格は、組織のコンプライアンスを維持するツールとして有効ですよ」とうたわれているのです。

また、6.1.3項のC項にも重要なことが書かれています。「環境マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、継続的に改善するときに、これらの順守義務を考慮に入れる」とあるのですが、つまりすべての要求事項の中に、法的要求をビルトインさせてもよいと解釈できるはずです。

例えば「4.2利害関係者のニーズ及び期待の理解」では、要求事項の中に「それらのニーズ及び期待のうち、組織の順守義務となるもの」と、「順守義務」という言葉が出てくるので、当然意識するでしょう。ですがこのように要求事項に出てくる箇条だけではなくすべての要求事項で順守義務を織り込んでいってよいのです。むしろ効果的な環境法規制対応を目指すなら、このように考えるべきでしょう。

一例として、「6.1.2環境側面」では規制の対象となる設備や物質を著しい環境側面と連動させる、「7.2力量」の対象に「特別管理産業廃棄物管理責任者」など、法で規定する有資格者を位置付ける、「7.4.3外部コミュニケーション」には法で定める届出や定期報告を含めてコミュニケーションプロセスを確立しておく、など、すべてではなくても部分的に運用に取り込んでいる組織もあると思います。その上で、組織が必要とする、又は戦略的に取り組む事項をEMSへ盛り込んでいくとよいと思います。

他にも企業で散見される点として、法改正動向にタイムリーに対応することもそうですが、法律が変わらない場合でも、設備の導入や廃棄、新工場の建設などといった企業内で変化が生じた場合に、必要な法的対応が落としがちになることがあります。原因の一つとして、設備のスペック情報等と法規制の登録簿の情報が別々に管理されていることがあるかもしれません。法規制とその対象はできるだけ一元的に管理することをお勧めします。

Q. 環境マネジメントシステムについてはいろいろ改善できそうですね。


人に関連する課題もあるようです。少子高齢化社会である近年では、多くの企業で人材不足の問題を抱えています。環境管理分野で重要な役割を果たす人材を継続して確保することは重要な経営課題といえるでしょう。

こうした点で、内部監査や順守評価では、法規制登録簿の整備状況や順守状況の「確認」にとどまらず、先々の見通しも含めた現況の「現況評価」ができるとよいですね。

また、コンプライアンスを仕組みとして担保することは非常に重要です。企業の持続可能性という観点からは、一人のカリスマ性を持った担当者に頼り切ってしまうのは、脆弱性があるといえるでしょう。

Q. どのような対応が必要なのでしょうか。


担当業務に必要な力量をはっきりさせて、能力を備えた人材を育てていく体制を設けることです。中でも教育が重要になってくると考えています。むろん単に研修をやればよいというだけではなく、その中身が重要になってきます。

8.講師派遣型研修で効果的な環境法規制対応を実現

Q. 研修の話が出ましたが、馬目さんは環境法規制の分野で派遣型研修の講師を担当しています。研修の特長からご紹介ください。


日本能率協会では、講師派遣型研修を行っていますが、その主な特徴として以下が挙げられます。 
・「環境法規制ハンドブック」で自社に適用される法規制を特定し、その内容を確認できる。 
・最新の主要な環境法の内容が理解できる。 
・企業のコンプライアンスの重要性を再確認できる。 
・環境法規制の社内順守体制の整備と理解ができる。 
・最新情報の知識の整理ができる。

また、講師派遣型研修ではプログラムが自由に組めるので、事業者の状況に応じた内容でご提供させていただきます。例えば、全国に工場を擁するケースでは共通する法規制について広く取り上げる、逆に特定の事業所向けに対象となる自治体条例について詳しく解説する等々いろいろな内容が可能です。進め方についても、「多人数参加のセミナー形式」、あるいは「事務局数名との対話研修形式」等々、研修目的に応じた形で実施できます。

Q. 自分たちに適用される法規制を実践的に理解できると聞いています。


例えば「廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)」の場合、守るべき規制内容については、排出者と、処理業者や処理・処分業者とでは大きく異なる部分があります。同じ法律でも立場によって大きく変わってくるのです。これは廃棄物処理法だけでなく他の法律にもよくある話で、それぞれの立場に応じた順守義務の内容をしっかり理解しておくことが欠かないのです。派遣型研修ではこのようにケースでもできるだけ具体的にご紹介させていただきます。

9.環境法規制動向について情報収集が欠かせない

Q. 環境法規制対応について注意すべき点を教えてください。


世の中の動きがあってから実際に企業が対応を迫られるまでの時間は短くなる一方です。最近の例では、マイクロプラスチックに対応する動きとして、2019年5月、有害廃棄物の国境を越えた移動を規制するバーゼル条約の改正案が締結されました。「汚れた廃プラスチック」に関して国を越えた移動を規制する内容で、さまざまな立場の事業者にとって対応を含めて大きなインパクトがありそうです。

Q. 幅広い分野の事業者に影響がでてくるわけですね。


「タイムラグ」が短くなる一方なので、企業経営にとって有利な判断・行動につなげていくには、関連しそうな情報をいち早くつかむことが重要でしょう。ここでも環境マネジメントシステムを活用できることを強調しておきます。

例えば、法規制動向を巡るさまざまなトピックスについて、現場のオペレーションレベルだけでなく、企業経営レベルの対応が迫られるといった大掴みのニーズを把握して、自分たちのシステム中に落とし込んで備えていくことが効果的でしょう。2015年版ではこうした内容が要求事項になっています。

Q. 今後の法規制対応で気になるテーマはありますか。


省エネの関係の法規制は今後も改正が続くと予想されます。循環型社会に関連して「廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)」も電子マニフェストの一部義務化という動きがありましたが、引き続き注目しておくことが必要でしょう。

次に、温室効果ガス削減については、2019年4月末に「パリ協定の長期成長戦略」が公表されました。この中では2050年までに温室効果ガスの80%削減という、完全に脱炭素化社会へ移行する方向性が打ち出されています。脱炭素化社会を実現していくために必要な法改正が、今後、順次起きてくると予想されます。

同時に、温室効果ガスに関連して注目しておきたいのは、2018年12月施行の「気候変動適応法」です。温暖化に対して、社会が適応していくことを法制度として正式に明文化した内容になっています。現状は非常にラフな枠組みに留まっていますが、法規制が一度できると、関連法規制がどんどん作り込みされていくので、今後の動きに注意が必要です。

あとはSDGsも法規制で関連する動きがありそうです。国はもちろん、地方自治体もSDGsに着目しており、行政における動きとしては、法律による規制、補助金制度等によるインセンティブ、あるいはその両方などが想定されます。これらに対する企業の在り様は、ESG投資など市場からの評価も受けそうです。どんな動きが出てきそうか、情報集めが欠かせないでしょう。

環境法規制については、ご紹介したようなさまざまな動きがありますが、社会経済状況に応じた様々な環境課題の解決に向けて継続的に改正されることは間違いありません。日本能率協会では講師派遣型研修を通して、最新動向や今後も見込みなどについて、できるだけ具体的な情報をご提供させていただきます。

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【環境法規制分野 担当講師】馬目詩乃(まのめ しの)




環境コンサルタントとして主に都市・農山漁村・森林における環境・防災・生物多様性などの調査・行政計画立案に関わる。ISO14001主任審査員として審査業務に関わるほか、EMSの業務支援、環境法等のセミナー講師を務める。 Jクレジット(温室効果ガスクレジット認証制度)検証人、SGEC(森林認証制度)審査員、技術士(森林部門)。主な著作『ISO環境法クイックガイド』(第一法規 共著)

 



 

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